私的図書館

本好き人の365日

六月の本棚 『白鳥異伝』

2005-06-08 00:23:00 | 荻原規子

日本のファンタジーで、まず思い浮かべるものは何ですか?

銀河鉄道の夜…となりのトトロ…ドラゴン・クエスト!?(笑)

最近は日本産のファンタジーもたくさん出てきましたが、私が好きなのは、断然「竹取物語」です♪

花婿候補に無理難題をふっかけるところがいいんですよね~

あと、忘れてはならないのが、古典中の古典、「古事記」

高校生の頃、よくわからずに読んでいましたが、ファンタジーの要素は盛りだくさん!

黄泉の国まで奥さんを追いかけて行ったり、大蛇の体の中から剣が出てきたり、顔を洗えば神様が生まれ、姿を隠せば世界が暗闇に閉ざされる。

人間の想像力ってすごいもんだと感心します。

もっとも編纂した当時の人たちは、めーいっぱい大真面目だったんでしょうけど☆

さて、今回ご紹介するのは、そんな日本古来の神話をベースにしながらも、みずみずしい文章と、生き生きとした登場人物が魅力のジャパニーズファンタジー!

荻原規子の『白鳥異伝』です☆

舞台は古代の日本。豊葦原と呼ばれていた時代。

土着の八百万の神々と共に生き、死しても生まれ変わる「闇」(くら)の人々と、不死の体を持ち、死ぬことのない高天原の神の一族「輝」(かぐ)の人々が覇権を争った時代が過ぎ、不死の体に「死」を受け入れることで、二つの血は混ざり合い、しばしの平和が豊葦原の国の訪れたかにみえた…

しかし、長い年月は、人の心の欲を動かし、かつての「不死の力」を再び求めて、あやしく動き出そうとする…

とどまることを知らず、豊葦原の各地に支配を伸ばそうとする「輝」(かぐ)の血に、それを押さえようとする「闇」(くら)の血。

そんな時代に生を受けた二人の子供。

代々「輝」(かぐ)の血を見守り鎮めることを宿命とする巫女の家系、橘の家に生まれてきた主人公、遠子(とおこ)。

一方、もう一人の主人公、小倶那(おぐな)は、幼い時に川で拾われ、遠子といっしょに姉弟のように育てられてきた、自分の両親さえ知らない男の子。

物語は、この少女と少年の二人を中心に、生と死、愛することと愛されること、人間の欲望とそれに立ち向かう人々の強さを、原始の自然の姿と共に、見事に描いています☆

まず、子供時代の二人の描写が微笑ましい♪

駆け回ったり、イタズラしたり、時には拗ねたりケンカしたりするけれど、それでもお互いのことを誰よりも理解している二人☆

この出だしでハートをわしづかみにされました♪

母親と子供の関係も考えさせられます。

自分の子供のように小倶那を育ててきた遠子の母。
一方、自分だけが息子を独占しようとする小倶那の実の母。

遠子は小倶那を取り戻そうと、この母親と対峙しなければなりません。(なにせ成人してからも、夜ごと小倶那は母親に呼び出されるのです、遠子を寝所に残して。

自分以外の女が息子の心に住まうことを許さないゆがんだ愛も、捨て子として遠慮して生きてきた小倶那には、むげに切り捨てることもできない。
この人だけが、自分のために全存在をかけて愛してくれる。たとえ命を失おうとも…

やがて起きた戦乱は、二人の運命を翻弄し、別々の道へといざないます。

この物語の魅力は何だろう、と読み終わってから考えました。

雷を呼び、全てを焼き尽くす「大蛇(オロチ)の剣」。
すべて集めると、死者さえ甦らせることのできるという伝説の勾玉の首飾り。
火の山の麓、クマソ遠征。
東のはてのエミシ討伐。

魅力的で物語を興味深くしてくれるこれらの小道具。

でもそれよりも、やっぱり一番心引かれるのは、誰もがみんな、自分に正直に一生懸命に生きているってこと☆

ほんと、主人公の遠子にしても、けんめいに愛して、追いかけて、戦って、生きるために、自分であるために行動している。

愛する人や、村を守るために戦う人々。
子供を助けるために、自分の身を死地に置く母親。

誰もが打算でも計算でもなく、生きるため、子供たちを守るために、畑を耕し、笑い、川をせき止め、食べて、飲んで、戦って死んでいく。

自分の欲や、他人を利用しようとする人たちが、なんと醜く、苦痛に満ちた生を生きていることか。

そこのところの描写が、読むものに荒々しいけれど、力強い人間の生きる光みたいなものを感じさせてくれるのです☆

山に、森にあって、時に人の命さえ情け容赦なく奪う日本の古代の神々。
人に神の考えを推し量ることはできない。
敬い、畏れ、祈りを捧げるしかないのだ。
それは、人の人生そのものであって、死とは、本来そうしたものなのだ。

「輝」の末裔として「大蛇(オロチ)の剣」を振るう小倶那。

「闇」の末裔として、「勾玉」を手に小倶那の命を狙うことになる遠子。

この二人の運命はいったいどうなるのか?

愛し合いながらも、その人の父親の妃とならなければならない明姫と、それを止められない大碓(おおうす)皇子。

四つの勾玉を連ねた御統(みすまる)の力によって、東の果てから西の果てまでを一瞬で旅する伊達男、管流(すがる)。

何度も何度も生まれ変わり、次の世代に古の知識を語り伝える語り部、岩姫。

まだまだ魅力的な人物がたくさん登場します♪ (明姫がイイ!!)

この『白鳥異伝』は、「輝」の一族がまだ不死だった頃のお話「空色勾玉」と、後世
、最後の勾玉のお語「薄紅天女」とで、”勾玉三部作”と呼ばれています。

日本を舞台にした清々しい古代ファンタジー。

もし、あなたの心に何か響くものを感じたら、一度手に取ってご覧下さい。

遠子たちの駆け回る、原始の日本の風景が、目の前に見えてきますよ☆







荻原 規子  著
徳間書店







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