with desperate effort
激しく希求する心。そのための、命がけの努力。
―梨木香歩「水辺にて」―
自ら茨の道を選ぶ人がこの世にはいます。
私はそういう人たちに憧れています。
安心と安定を求めることを決して否定はしません。
でも、仕方がないのです。
自分の心が、苦労と困難が待ち構えていることがわかっているのに、どうしても、それこそ、生きることと同価値に、その道を求めるのですから。
生きるために、単に「生きる」以上の何かを必要とする人々。
―梨木香歩「水辺にて」―
電車の中で先日買った梨木香歩さんのエッセイ、
『水辺にて』(ちくま文庫)
を読みました。
上記の 「with desperate effort」 という言葉は、作者がアイルランドを旅した時に立ち寄った海辺のB&B(Bed and Breakfast 簡素な宿泊施設)で、そこの女性オーナーが口にする言葉です。
もともとイングランド生まれの彼女がこの土地に惹かれ、いてもたってもいられず、まるで本能に導かれるようにこの地に移り住んだことを作者に話す時、彼女は 「with desperate effort」 という言葉を使います。
激しく希求する心。そのための、命がけの努力。
イギリスに留学経験のある作者らしく、英国人流の人生の楽しみ方も随所で触れられています。
スコットランドやアイルランドでアザラシが人々の生活に深く関わっていると知って少し驚きました。
考えてみればイギリスって北海道と同じくらいの緯度なんですよね。
英国人に深く愛されている本として、シェイクスピア、聖書、マザーグースの次にケネス・グレーアムの『たのしい川べ』が紹介されていたのも嬉しい発見でした♪
高楼峰子さんの『十一月の扉』(新潮文庫)を読んで、私も『たのしい川べ』(岩波少年文庫)は読んでいたのです☆
川遊び…水辺と人間との関わり…
ついには自分のカヤックを手に入れ、一人で湖などに出かけて行く梨木香歩さんの行動力にも驚かされました!
半身をカヤックに収め、オールで漕ぎ出す。
風に押し流されたり、波と格闘したり、時には水の流れるままにまかせてみたり。
アイルランドから北海道まで、様々な湖や川の作り出す風景。そしてそこで暮らす人々。
アイヌの民謡、スコットランドでの「アザラシの娘」の話し、ダムに沈んでしまった村…
梨木香歩さんの物の見方、作品が生まれてくる土壌みたいな物を感じられて、ファンとしてはとても読みごたえのあるエッセイでした。
人間達の作った柵を乗り越え、産卵場所に向う鮭たちの命がけの旅。
体がボロボロになりながらも、生きるために、単に「生きる」ということ以上の必要にせまられ、川を遡って行く鮭たち…
そんな鮭たちは顔つきまでも変わってくるのだそうです。
自分の中にもそんな求めてやまない心があって、これまでずっと葛藤してきたので何だか感動してしまいました。
電車の中は空いていて、四人がけの席に一人で座って、1時間以上、好きな音楽を聞きながら、文字を追うのに疲れると時たま雪をかぶった御嶽山(おんたけさん)や移り行く車窓の風景に目を移したりして、暖かい車内でゆっくり読書することができました。
電車の中での読書もいいものですね。
幸せな時間を過ごすことができました☆
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