私的図書館

本好き人の365日

その手を伸ばして

2011-04-17 23:59:00 | 本と日常
  
手を握るという行為


父親の手はとにかく大きかった。
大きくて温かい。
子供の私の手を握り、グイグイと引っ張って歩いた。

母親の手はいつも冷たかった。
水仕事の合間に子供たちを捕まえ、着替えをさせ、ご飯を食べさせ、本を読んで寝かしつける。
子供たちは忙しい母親の手に必死にしがみつき、離れまいとして歩いた。

祖母の手は木の枝みたいだった。
畑仕事で日に焼け、節くれだち、魔法のようにお手玉や布袋を作ってくれた。
病院のベットで握りしめたその手は、ロウソクの灯りが消える直前、一瞬明るく輝くように、必死に生にしがみついていた。

子供の頃は妹と手をつないで歩いた。
すぐにするりと抜け出そうとする小さな手をつかみ、母親の手に無事に手渡すのが私の役目だった。
小さくてとても握りにくい手だった。
よく泣きだす妹をだましだまし、頼りない気持ちで両親の姿を探して歩いた。

幼い頃は学校で友達の手を握って遊んだ。
ブンブン振り回したり、力をこめて引っ張ったり。
中学生になると女の子の手を握るのが照れくさくて、フォークダンスの練習の時などわざとぶっきらぼうに握ったりした。
高校生になると人の見ていない時だけ彼女の手を握った。
それだけで楽しかった。

いま、とても悲しんでいる人がいる。

私は無力で、その人に何もしてあげられない。
助けてあげる力もなく、励ます言葉もみつからない。

ただ、その人の悲しんでいる手を握っているだけだ。

それしかできない。
でも、それが大切なんだと経験が教えてくれる。
かつて私が多くの手に救われたように、多くの人の手のぬくもりがその人にとどくことを願っている。

切に、切に。








          2011.04.17.