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私的図書館

本好き人の365日

十月の本棚 4 『歌う船』

2004-10-31 23:12:00 | SF

遙かなる時を越えて、漆黒の宇宙を駆け抜ける銀色の船体。
超新星の輝きや、ガス状星雲のきらめきを眺めながら、今日も頭脳船、ヘルヴァの歌声が銀河に響く…

♪さあ今回は、数あるSF小説の中でも情緒と音楽のあふれる名作。

アン・マキャフリーの『歌う船』をご紹介します☆

機械の補助なくしては、生命を維持することすらできない奇形に生まれついてしまった本編のヒロイン、「ヘルヴァ」。

しかしその頭脳だけは、将来有望な能力を発揮すると判断されます。
そしてこの時代、こうした子供たちには一つの選択肢が残されていました。
それは機械に接続された耐久チタニウムの殻の中に体を納め、《殻人》、シェル・パーソンとなって生きていくこと。

機械の腕や車輪を動かして遊ぶ《殻人》の子供たち。
普通の人間には見ることのできない世界を機械の目で見、様々なコンピューターを自分の手足のように操る彼等には、文明の進んだ未来社会では様々な活躍の場が用意されています。

こうして、殻人として生きることになり、何回かの手術に耐えたヘルヴァが十六歳の誕生日を迎えたその朝。
宇宙船の制御装置と最終的に連結された彼女は、金属の船体に人間の魂を秘めた船。
<中央諸世界>の偵察船、《頭脳船》ブレイン・シップとして目覚めます。

いくつものカメラを目とし、様々な用途のマニュピレーターを手としてあたえられ、頭脳船と呼ばれる体を手に入れたヘルヴァ。
この日から、《殻人》となってからの費用を返済するための、宇宙船ヘルヴァの新しい冒険の旅が始まるのです。

このヘルヴァがとってもいいんです☆

たとえ殻の中で永遠に近い命を得たといっても、そこは十六歳の女の子。
どんなに高等な計算式を操り、複雑な宇宙船の操縦をこなしていても、宇宙港ではおしゃべりの相手を探し、高飛車な管制官には悪態を付き、筋肉(ブローン)と呼ばれる頭脳船のパートナーに思わず恋してしまう姿はとっても、と~ても人間的♪

自分が《殻人》であることをちっとも負い目に感じていないヘルヴァ。
それどころか不自由な感覚と脆弱な肉体にしばられた普通の人々を気の毒に思っているふしさえあります。

地殻変動のために住民を救出したり。
十万人分の受精卵をとどけたり。
はては異星人のためにシェイクスピアを演じる役者たちを運んだり、とヘルヴァの仕事はまさに様々。

そして相棒としてヘルヴァに乗り込む筋肉(ブローン)と呼ばれる人間達の個性も、こちらもそうとう様々。

頭脳船は基本的に「頭脳」と「筋肉」の二人がペアになって行動するのですが、このかけあい、関係がひとつの見所です☆

いくら恋してもヘルヴァは殻の中。
相手が例えチタニウムの殻に手をふれて、愛の言葉をささやいても、ヘルヴァに出来るのは優しく答えるだけ。

ある意味究極のプラトニック・ラブですね☆

意志が強く、しっかりしていそうなヘルヴァ。
そんな彼女も、危険な任務の途中で悲劇を体験し、その悲しみと別れを克服するために、多くの時間と心の葛藤を必要とします。

放浪する頭脳船。
悲しみに自ら死を望むブローン。

ときに寂しがり屋な面をみせ、殻人としての苦悩を経験しながら成長していくヘルヴァ。

設定やストーリー展開は、SFにうるさい人でも納得の秀作。
かといってガチガチのSF作品というわけでもなくて、SFが苦手という人でも、「こんなSFもあるんだぁ」と思ってもらえたら嬉しいです。

宇宙船の恋物語?
う~ん、なんかすごく誤解されそうな気もするけれど、あたってるかも♪

どうです?
あなたも恋する宇宙船ヘルヴァの歌声を聞いてみたくはないですか?
ちょっと口は悪いけど、魅力だけはめ~いっぱい兼ね備えていると保証しますよ☆





アン・マキャフリー  著
酒匂 真理子  訳
創元推理文庫


八月の本棚 2

2003-08-11 01:00:00 | SF
猫の登場するSF小説といえば、外せない一冊があります。

その一冊とは、SF界の巨匠、ロバート・A・ハインラインの名作

『夏への扉』

です。

舞台は世界大戦でワシントンなどが吹き飛び、「冷凍睡眠」や「文化女中器」というお手伝いロボットなどが普及した1970年(!)

婚約者と親友に騙された、天才発明家で、技術屋のダンは、すべてから逃げ出すために、冷凍睡眠(コールドスリープ)で30年後の未来、2000年(!!)に旅立とうとします。道連れに一匹の牡猫、護民官ペトロニウスことピートを連れて。

この時代設定がハインラインらしい。

2000年の世界はロボットがさらに普及し、女性の服の露出が増え、火星との定期航路が開設され、イギリスはカナダの属州(!)となり、重力制御技術が実用化されている。(日本はまだあるらしい…)

ここまで徹底されると、次は何が飛び出すかワクワクしてきませんか?
触ると自動的にたたまれる新聞とか。

こうしたSFチックな設定の妙はもちろん一流なのですが、この小説の「キモ」はそんなところじゃない!(力説)

ピートですピート。

この猫とダンの掛け合いの面白いこと。

さらにその魅力を引き立てているのが訳者の「猫語」の翻訳♪
ジンジャー・エールをこよなく愛するこの猫。「ニャウ?」「アオウ?」「ニャーアウウ」「ニャゴォ、ルルウ、ニャン?」

…本当、よくしゃべる。

「ウエアーア」
「落ち着くんだ、ピート」
「ナーオウ」
「何をいうか。我慢するんだ。首を引っ込めろ、ウェイターが来る」

これ、原文のままです。
これでストーリーは進んでいく。

ダンのピートに対する思いもそうとうなもの。
意に反してピートと引き離されてしまった彼は決意します。

「この恨み、はらさで置くべきや」(こわ~)

彼を裏切った人達は、世の中には一匹の猫のために命さえ危険にさらす人物が存在することを、計算に入れるべきだった…

もともとこの題名。ハインラインの家の猫が、冬になると扉の辺りをウロウロするのを見て、「あれ、なにやってるんだろうね」とたずねたのに対して「夏への扉をさがしてるのよ」と奥さんが答えたことから思い付いたとか。

後半の怒涛の展開には読んでいてうなりっぱなしでした。

スゴイスゴイ!

手酷く裏切られたダンの心境の変化にも感動。


 ―なんどひとに騙されようとも、なんど痛い目をみようとも、結局は人間を信用しなければなにもできないではないか。


何度開けても夏への扉が見つからず、天候管理の不手際さを飼い主にのどを鳴らして抗議するピート。そんな彼と共に、あなたも『夏への扉』を探してみませんか?

ただし、季節がいつだろうと、いかに困難な状況だろうと、ピートはドアというドアを試せば、必ずそのひとつは夏に通じるという確信を、棄てようとはしないでしょう。

そう、どんなことがあろうとも。

私? 
もちろん、私もピートの肩を持ちます。

そう、どんなことがあろうとも。






















ロバート・A・ハインライン  著
福島 正実  訳
ハヤカワ文庫

八月の本棚

2003-08-03 10:23:00 | SF
ネコが宇宙に行ってなぜ悪い!

呼ぶと来ない、探すといない。自分がしたくないことはしない。普段エサをもらってさんざん世話してもらっているくせに、人間のことなんかおかまいなし。だけど私達の心をつかんではなさない、とっても魅力的な生き物。

今回ご紹介する本は、そんな猫好きにはたまらない。
ヴォンダ・N・マッキンタイアのSF小説。

『星の海のミッキー』

です☆

SF小説は数あるけれど、こんなに猫が活躍する小説は珍しい。

主人公はバーバリという12歳の女の子。
孤児である彼女は、自分を引き取ってくれる家族の待つ、宇宙ステーション行きのシャトルを待っている。だけど、彼女のジャケットのポケットの中には、ひとには言えない秘密が…

ネコを密航させることがどれ程困難か、まして、密閉された宇宙ステーションに連れ込むなんて!

物語の舞台は、はるかなる星の海。
ご主人様がはじめての無重力に苦労している隣を、まるで昔から空を飛ぶことができたみたいに、優雅に滑空する子猫のミッキー。犬なら絶対こうはならない。あわてふためき、ジタバタして吠えまくるはず。
そんな犬コロを見つめながら、冷たくつぶやくミッキーのこんな言葉が聞こえてきそう。

「…バカ犬」

『スター・トレック』物の作品も手がけるマッキンタイアだけあり、無重力や宇宙ステーションの描写もわかりやすく、面白い。

人類初のエイリアンとの接触という、壮大なストーリー展開もあるんだけれど、それは300ページ中、後半も後半、最後の50ページくらい。あとはひたすらミッキーを隠したり、追いかけたり、探しまわるバーバリの苦労話(笑)

その健闘ぶりには、思わず涙が出るほど(…笑いすぎて♪)

ちなみにミッキーはマンクス猫。
英国マン島原産で、しっぽのないことで有名です。
なんでも、ノアの箱舟が出発しようとした直前に跳び乗って、ノアが扉を閉めた拍子にしっぽをはさまれ、ちょんぎれてしまったとか。
なんとなく、その性格がうかがえる逸話じゃないですか。

猫特有のワガママさ爆発。

違う意味でハラハラドキドキさせてくれる物語。

夏の夜空を見上げながら、未知なる宇宙に思いを馳せる時、その傍らには丸くなった相棒がいる。それってとってもイイ風景だとは思いませんか?

元気いっぱい、夢いっぱいの冒険小説。

…なんか「猫ってかわいい☆」がメインのような気もするけど。

ともかく、猫好きな方はもちろん、それ以外の方でも、楽しめることは請け合いですよ。














ヴォンダ・ニール・マッキンタイア  著
森 のぞみ  訳
ハヤカワ文庫

四月の本棚 3

2003-04-20 21:37:00 | SF
今回はロバート・F・ヤングのS.F.短編集「ジョナサンと宇宙クジラ」です。

・・・宇宙クジラ!

宇宙空間を漂う巨大なクジラ。
その体内には、そこを「新地球」と信じて疑わない人達が住んでいる。

ヤングの筆にかかると、奇想天外な設定も、ユーモア溢れるロマンチックな物語へと変わっていきます。

空飛ぶフライパンにサンタクロース、魔法の窓に教師を売る店。S.F.という枠組みの中で語られる、このロマンチックすぎるほどロマンチックな愛のかたちが、作者の追い求めるテーマなのです。

表題作の他、どれも大好きな作品ばかりなのですが、今回はその中の「リトル・ドッグ・ゴーン」を御案内します。

テレシアターの俳優ヘイズは、酒に溺れ、自暴自棄な生活を送る毎日。そのせいで仕事を失った彼は、勢いに任せて辺境惑星行きの船に飛び乗ります。行き着いた星の酒場で彼が出会ったのは、その酒場でショーをしている女性モイラと、テレポート能力をもつ犬(?)バー・ラグ。
モイラの献身的な看護のお陰でアルコール依存症から立ち直ったヘイズは、バー・ラグを主人公に、モイラと三人で芝居をすることを思い付きます。恋人同士が抱き合おうとする瞬間、二人の間に必ずバー・ラグが実体化するという喜劇が、娯楽の少ない辺境では大当たり。しかし、ヘイズの心にはかつての華やかな生活が・・・

その芝居の評判がやがて中央にも届き、ヘイズは華やかな舞台地球へ。モイラは自分の気持ちを押し殺して、ヘイズを送り出し、辺境の地からバー・ラグと共に彼の舞台を見守ります。
初演の日、ヘイズと相手役の女性が抱き合うシーン。しばらくして、そこになんとバー・ラグが実体化します。しかし、地球までは六千万キロの距離。しかも真空の宇宙空間を通ってきた彼は変わり果てた姿に・・・

ヘイズは華やかな舞台を捨てて、すぐさまモイラのもとに駆けつけます。三人で渡った宇宙の旅こそ、彼の求めていたものだったのです。

最後はもちろんハッピーエンドに収まります。
そして、”三人”は再び宇宙の旅へ。

このバー・ラグがかわいいのなんのって、プロペラみたいに尻尾をぶんぶん振り回して、愛嬌たっぷりのこの生き物は、一読の価値アリです。

ひと時の憩いを望むあなたに、ぜひ。






ロバート・フランクリン・ヤング   著
伊藤 典夫   編・訳
ハヤカワ文庫