のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

地下街の雨/宮部みゆき

2008年08月09日 00時29分00秒 | 読書歴
54.地下街の雨/宮部みゆき
■ストーリ
 麻子は同じ職場で働いていた男と婚約をした。しかし、挙式二週間前に
 突如破談になった。麻子は会社を辞め、ウェイトレスとして勤め
 始めた。その店に客としてやってきた女は、麻子と同じように
 傷つき、そして何か危険な、いやな感じがする女性だった。
 表題作ほか、「ムクロバラ」「さよなら、キリハラさん」など7編を
 おさめた短編集。

■感想 ☆☆☆
 「世にも奇妙な物語」というオムニバスドラマがある。
 ごく普通に生きていた人が、ふと気がつくと「世にも奇妙な世界」
 に入り込んでしまっている話がいろんなシチュエーションで
 描かれているドラマだ。
 この短編集に収められている話は、どれも「世にも奇妙な物語」風。
 少し不条理で、少し奇妙。少し物悲しくて、少し恐ろしい。
 そんな話が収められている。

 特に心に残ったのは表題作「地下街の雨」と最後の二編
 「ムクロバラ」と「さよなら、キリハラさん」だ。
 この本が刊行されたのは1994年。実に14年も前の話。
 それなのに、どれも古さをまったく感じさせない。
 特に「ムクロバラ」は古さを感じさせないどころか、時を経て
 より一層身近に感じられるようになった作品だと思う。

 ある事件をきっかけに精神が壊れてしまった男。
 彼は、新聞から「たいした理由もないのに、起こってしまった
 殺人」を見つけては「またムクロバラの事件ですよ!
 早くムクロバラを捕まえなくては!」と警察に訴えてくる。
 一体、ムクロバラとは、何なのか。

 「たいした理由もない」のに、そこかしこにあるストレスに
 いつのまにか心身をすり減らされ、余裕がなくなっていく主人公。
 「あちら」と「こちら」の境目を歩き、ふとしたきっかけで
 「あちら」に行ってしまいそうになる彼の危うさは、私たちが
 抱えている危うさ、私たちがさらされている危険なのだと思う。
 私もいつ「あちら」に行ってしまうのか分からない。
 そういったことを感じさせてくれる作品だった。

本所深川ふしぎ草紙/宮部みゆき

2008年08月09日 00時04分27秒 | 読書歴
53.本所深川ふしぎ草紙/宮部みゆき
■ストーリ
 近江屋藤兵衛が殺された。下手人は藤兵衛と折り合いの悪かった
 娘のお美津だといううわさが流れたが・・・。幼い頃、お美津に
 受けた恩義を忘れず、ほのかな思いを抱き続けた職人がことの真相を
 探る「片葉の芦」。その他「送り提灯」や「消えずの行灯」
 「置いてけ堀」「落葉なしの椎」など、深川七不思議を題材に
 下町人情の世界を描く7編。

■感想 ☆☆☆*
 深川七不思議を江戸で起こる事件と絡めた時代小説版「日常の謎」
 とでも言うべき作品。日常の謎を七不思議と絡める手腕が
 とにかく見事。「なるほど。こういうふうに繋がるのか。」
 とタイトルとの絡み具合を楽しみながら読み進めた。

 もっとも、ストーリは「堪忍箱」に引き続き、やはり苦味のある
 ものばかり。心からのハッピーエンドはないような気がする。
 描かれているのは、人と人とのすれ違い。
 立場の違いや思いの違い、信念の違いからすれ違う人たちが
 静かに描かれている。ただ、「堪忍箱」ほど、苦味が前面に
 出ていないのは、登場人物たちがその苦味に飲み込まれて
 いないからだろう。彼らは、それぞれの事情で愛する人、
 大切な人と分かり合えず、すれ違ってしまったとしても
 決して腐ったりしない。まっすぐ生きることをやめない。
 人を信じることを諦めない。
 そのストレートな愚直さが静かに私を勇気付けてくれた。