夢七雑録

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13.福島周辺の巡視

2008-06-04 19:20:47 | 巡見使の旅
(26)享保2年4月21日(1717年5月31日)、晴。
 二本松からは奥州街道を福島に向う。日記役の記録には、二本柳の次に安達原と記されているが、もともと阿武隈川の西側の平坦地を安達原と呼んでいたので、間違いというわけではない。その後、渋川、八丁目、清水、伏拝を経て福島に出る。覚書では、渋川の園東寺、清水の清水井、伏拝の羽黒山を望む坂と沼、福島入口の白竜の児塚と児淵についてふれている。また、二本松では矢筈森、清水では東岳(吾妻岳)、福島では信夫山を望見している。城跡については、八丁目の山城跡について城主は清野備前、堀越、伊達安房守と記す。また清水の先、左側の大森に安達淡路守の城跡ありとし、福島の手前右手には岩城判官兼村の城跡ありとする。椿ガ城(椿館)については、持地近江守のあと岩城判官正氏が住んだと記す。この日は福島に泊まる。五里ほどの行程であった。

(27)同年4月22日、晴。
 福島から奥州街道を離れて阿武隈川を渡り川俣に向う。移ガ岳を遠望しつつ、いぼ石峠を越え飯野に出て休憩。途中、北浦城という石橋九一郎の古館ありと記す。松沢[川俣町鶴沢]では、悪源太義平を祭る甲大明神を参詣している。その後、福島から五里余の川俣に出る。ここでは、春日大明神を参詣している。この日は川俣と小綱木に分れて宿泊。実は隣接する町小綱木と町飯坂の中間部を川俣として独立させていたので、宿泊地が異なるとはいえ、さほど離れてはいなかったのだろう。ちなみに、巡見使の宿が一か所に三軒無い時は、他の場所に宿泊しても良い事になっていた。

(28)同年4月23日、小雨、曇。
 川俣から、小嶋、手土(手渡)を経て下糠田に向う。途中、飯坂に伊達輝宗の古舘、手土に手土周防守の古館ありと記す。下糠田には小柳川太郎左衛門の古館があり、この古館をコギリスと称し、佐藤氏郷の古跡、また、須田伯耆守・須田氏郷の古跡でもあったと記している。ここから、御代田、小国を経て掛田に出て休憩する。途中、御幸山に十一面観音ありと記し、小国に伊達後宗の陣場跡、武館または並館という伊達備中守の古館ありと記す。この辺りからは北畠顕家の古城跡のある霊仙岳(霊山)が東に見えてくる。伊達後宗の古跡のある掛田を出て、保原を経て梁川に出る。梁川にはクレツボ城という、山陰中将友宗の子・村家の居城跡ありと記す。この日は梁川に泊まる。七里の行程であった。

(29)同年4月24日、半晴。
 梁川から阿武隈川を船で渡り、大枝を経て貝田に向う。途中、須田大炊の古舘、大枝孫三郎の古舘ありと記す。貝田から奥州街道を南へ向かうと、アツカシ山[厚樫山]の古戦場に出る。奥州藤原氏が、この地に防塁を築き兵力を投入して、源頼朝の軍勢を防ぎ止めようとしたが果たせず、結局、ここでの敗退が奥州藤原氏滅亡の契機となったという合戦場である。この付近には、伊達大木戸、国見峠、頼朝の陣場、経の岡、下紐関、義経腰掛松、弁慶母衣掛松、弁慶硯石など史跡が多く、巡見使一行もそれらを見て回っている。ほかに、佐藤秀衡の子息伊達二郎の古館があり、また、万正寺には中村常陸入道宗村の居城跡と墓所があったと記す。宝暦と天明の巡見では、この後、半田で休憩し半田銀山を見分しているが、享保の時は半田銀山についての記述が無い。この日は途中休憩無しに直接桑折に向ったのかも知れない。半田に立ち寄らなかったとすると、この日の行程は四里ほどになる。

(30)同年4月25日、少し雨。
 桑折を出立。瀬の上で馬継(馬と人足の交代)となる。ここで、佐藤庄司家臣の家柄という佐藤庄右衛門なる者が、庄司の甲、鎧、鞍を持参したので、巡見使はこれを見分した。また、佐藤庄司の古舘が飯野(飯坂?)にありと記す。このあと、巡見使一行は鎌田を経て元内(本内)で松川を渡り、福島で休憩する。天明の巡見の時は、阿武隈川を船で渡り、山口で文字摺石を見物してから福島に戻って宿泊しているが、享保の時は山口には行かずに、文字摺石について話を聞いて書き留めただけのようである。このあと一行は庭坂まで行き宿泊している。六里の行程であった。なお、大笹生に銀山跡ありと記している。

【参考】佐藤庄司とは、信夫・伊達を支配した佐藤基治のことである。基治の子息、継信と忠信は、当時平泉に居た源義経の有力な家臣で、源頼朝の挙兵に呼応して馳せ参じる義経につき従った。基治は二人を旗宿で見送ったが、この時、持っていた杖を地に刺したところ芽吹いたのが、旗宿の「庄司戻しの桜」であるという伝承がある。享保の巡見使覚書には記載が無いが、宝暦の巡見使随行者の日記は、この桜についても言及している。


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