夢七雑録

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東京文化財ウイーク2021・中野区

2021-10-28 18:16:55 | 東京の文化財

東京文化財ウイーク2021で、中野区は特別公開事業として哲学堂公園と三岸家住宅アトリエを、企画事業として歴史民俗資料館の特別展と山崎家庭園茶室を対象にしている。

(1)哲学堂

哲学堂は、哲学者で東洋大学の創立者である井上円了博士が、精神修養の場として開設した公園で、戦後は都立公園となるが、現在は中野区立哲学堂公園になっている。哲学堂公園は国指定の名勝であり、哲学堂内にある明治から大正時代の古い建築物、すなわち、哲理門、四聖堂、六賢台、絶対城、宇宙館、三学亭、常識門、髑髏庵、鬼神窟、無尽蔵は中野区指定の有形文化財になっている。特別公開事業の期間は10月30日~11月7日だが、哲学堂ではすでに古建築の内部公開を始めていた。まずは、文化財ウイークの幟が立つ事務所で資料を入手する。

哲理門から中に入る。門のうちにある幽霊は心の不思議、天狗は物の不思議を表しているという。今日は建築物の方に関心がある故、天狗の横を通り抜けて時空岡という広場に出る。

広場の中ほどには四聖堂があり、孔子、釈迦、ソクラテス、カントの四人の哲学者が祀られている。四聖堂の中には入れないが、扉が開いているので内部を覗くことは出来る。球体の燈火の下に吊り下げられた香炉、その下には南無絶対無限尊の円柱が見える。堂内には釈迦涅槃像が祀られているが、これは昭和になって置かれたらしい。

石段を上がって、三角錐の築山の上に建てられた三学亭に行く。ここには、神道の平田篤胤、儒教の林羅山、そして仏教からは鎌倉時代の学僧である釈凝然、この三人の碩学が祀られている。三学亭は三本の柱で三角錐の屋根を支える小さな四阿で、一休みする場所にはなるが、眺めはさほど良くない。石段は三方にあるが、この日は、もと来た石段を戻る。

講義室として建てられた宇宙館に行く。宇宙の真理を研究する学問として哲学をとらえていたのが名の由来らしい。館内には昭和になってから設置された聖徳太子立像もある。宇宙館内で哲学堂のビデオ映像の一部を視聴してから外に出る。

図書室として使われていた絶対城に行き、スリッパに履き替えて中に入る。あらゆる書を読みつくせば絶対の境地に達すると言うのが名の由来のようだが、蔵書は全て他で保存されているらしく、今は空っぽの本棚が並ぶだけである。2階にも上がってみる。ここは閲覧室になっていて、天窓から射し込む光で本を読んでいたらしい。婦人用の閲覧室も別に設けられていた。絶対城の外側には屋根の上にまで続く梯子が架かっている。登り切ったところは観望台になっていて富士山も望めたという。

六賢台は三層六角形の塔で、哲学堂では一番目を引く建物だが、今日は内部の公開はされていなかった。この塔は、道教の荘子、朱子学の朱子、仏教の龍樹、バラモン教の迦比羅仙(カピラ)、そして日本から聖徳太子と菅原道真を賢人として祀っているという。

無尽蔵という古建築も公開されていたので、スリッパに履き替えて中に入る。井上円了は国内だけでなく世界各地を訪れているが、その時の蒐集品を納めたのが無尽蔵であったらしい。1階の展示を見てまわったあと、2階にも上がってみる。

集会場として利用されている霊明閣の建物は鬼神窟でもあり、髑髏庵から入ることになるが、当然のことながら入れないので常識門から外に出る。

 

(2)山崎家庭園・茶室

中野区立歴史民俗資料館の展覧会「はかる道具」を見る。そのあと、併設されている山崎家庭園・茶室が公開(10月1日~10月31日)されていたので行ってみた。山崎家は醤油製造業で隆盛を誇り、江古田村丸山組の名主をつとめた家柄で、歴史民俗資料館は山崎家から寄贈された土地にある。

歴史民俗資料館の横から、山崎家の庭に入る。山崎家の庭には、これ見よがしのようなところは無い。部屋から眺めるのも良く、また、庭を歩くのも良い、そんな庭である。

山崎家の書院は離れとして天保12年に建てられたという。現在の書院は、江戸時代そのままではないだろうが、当時の様子を少なからず残しているのかも知れない。書院は左側の八畳の座敷と六畳の次の間からなり、板襖で仕切られていたようである。

書院の横には洋館があるが、大正時代に洋館付の和風住宅が流行したことから、山崎家でも洋館付の住宅に改修したのではないかと思う。

書院の前の庭には、寒山拾得の石像が置かれていた。左側が寒山で、右側の箒を持っている方が拾得になるのだろう。寒山拾得の図は多いようだが、石像は少ないらしい。それにしても、この石像は変わっている。見方によっては談笑する老夫婦のようにも見えてくる。

庭の片隅には椎の木の巨木があった。街道からも目立つ樹木だったようで、醤油屋のしいの木と呼ばれていたらしい。この樹木は、中野区の文化財(記念物)に指定されている。

庭から茶室に向かう。説明書きには、茶室に炉がなく本格的な茶室というより最上級の客間を兼ねていたと思われるとある。太田蜀山人も泊まっていたらしく、その書が残されている。

 

 

 

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板橋区の文化財ウィーク2021

2021-10-22 18:13:13 | 東京の文化財

猛暑が突然のように終りを告げ、コロナ禍も下火になって、ようやく気ままに散歩できるようになった。気が付いたら、今年も文化財ウイークの関連行事が始まっていた。その中に、板橋区による東京都文化財ウィーク2021への参加事業として、いたばし文化財ふれあいウィーク2021という行事があり、東光寺、観明寺、遍照寺、茂呂遺跡が対象になっていた。申込不要で無料、解説ガイドは配置せず解説カードの設置にとどめるということだったが、茂呂遺跡以外は行った事が無かったので、とりあえず三カ所の寺に出かけてみた。

下板橋駅の北口から旧中山道に出て左へ行き中山道を渡る。左斜め前方の旧中山道は後回しにして右手の道に入り、室町時代創建という浄土宗の東光寺に行く。入って左手に享保4年造立の石造地蔵菩薩座像がある。板橋区登録有形文化財(歴史資料)の像で、もとは平尾の一里塚に安置されていたが、明治時代に塚が取り壊されたため、東光寺に移されたという。この寺には板橋区指定有形文化財(歴史資料)の寛文二年庚申塔や、板橋区登録有形文化財(歴史資料)の宇喜多秀家供養塔もある。

旧中山道を先に進むと右側に真言宗の観明寺があり、その入口に板橋区指定有形文化財(歴史資料)の寛文元年庚申塔がある。青面金剛が刻まれた庚申塔としては都内最古という。

旧中山道を先に進み王子新道との交差点を渡る。板橋区登録有形文化財(建造物)になっている築100年の米屋商家、板五米店を過ぎると、その先に遍照寺の参道がある。この寺は、江戸時代には天台宗の寺院であり、宿場の馬つなぎ場としても利用されていたというが、現在は成田山新勝寺の末寺になっている。参道の先の本堂はまだ新しいので建て替えたものらしく、参道とそれに続く庭園も手入れが行き届いている。この寺は「遍照寺参詣図絵馬」をはじめ多数の絵馬を所有しており、板橋区指定の有形文化財(歴史資料)になっている。

旧中山道の板橋宿跡周辺には文化財が多く、本来なら見て回りたいところだが、すでに日が傾きかけているゆえ、この辺りで一区切りということにした。

 

 

 

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小松左京 スペシャル

2021-10-03 20:08:40 | 私の本棚

NHKの100分de名著の中に「小松左京スペシャル」があった。そこで、本棚の中から小松左京の本を探してみた。

【書誌1】書名「地球を考えるⅠ、Ⅱ」 小松左京対談集。

小松左京ほか。新潮社。1972年初版。

この本は、地球に関しての小松左京と各界の専門家との対談集である。地球物理学の竹内教授との対談では執筆中の日本沈没の話もしている。他の対談相手は氷雪物理学の樋口教授、植物生態学の吉良教授、分子生物学の渡辺教授、哲学の上山教授と吉田教授、情報工学の坂井教授、国際経済学の大来理事長、国際政治学の武者小路教授、中国古代史の貝塚名誉教授、西洋文化の会田教授、社会人類学の梅棹教授である。小松左京は様々な分野における専門的な知識にも関心があり、また、SF小説を書く上で、それが必要なことでもあったのだろう。

【書誌2】書名「日本沈没・上、下」 カッパノベルス。

小松左京著。光文社。昭和48年3月(1973)初版。

「日本沈没」は映画やドラマにもなり、多くの人に知られるようになった。日本列島が沈没する事などあり得ないと分かっていても、ひょっとしたらと思わせてしまうのが、この小説の凄さだろう。この小説の最後に、“第一部 完”と書かれているが、作者にとって、日本列島が消滅すると仮定したら、何が起きるかという第二部に重点があったと思われる。ただ、小松左京の執筆による第二部が完成したとしても、第一部ほどの評判が得られたかどうかは分からない。沈没するのが日本列島だけというのは不自然なので、世界各地に国の沈没が起きる事も考えられるが、そうなると、土地を失った国家は消滅し、国を失った多数の人々による大移動が各地で起きることになるが、それは別の話になるのだろう。

私の本棚には、他に下記のような小松左京の小説があるが、書誌を掲載するにとどめる。

【書誌3】書名「時間エージェント」 新潮文庫。小松左京著。新潮社。昭和55年15刷。(昭和50年(1975)初版)。

【書誌4】書名「物体O」 新潮文庫。小松左京著。新潮社。昭和52年(1977)初版。

【書誌5】書名「流れる女」 文春文庫。小松左京著。文藝春秋。昭和53年(1979)初版。

【書誌6】書名「コップ一杯の戦争」 集英社文庫。小松左京著。 集英社。 昭和56年(1982)第1刷。

【書誌7】書名「遷都」 集英社文庫。小松左京著。集英社。昭和56年(1982)第1刷。

 

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