夢七雑録

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えんぴつで奥の細道

2018-09-29 08:47:58 | 私の本棚

ある日、芭蕉の代表作である「おくのほそ道」が読めて、鉛筆による習字もできるという一石二鳥の本を見つけ、さっそく買い求めた。しかし、事情があって習字は中断されたままになり、本も積んでおかれることになった。今回、100分de名著の中に「おくのほそ道」が含まれている事を知り、積んでおいた本を本棚から取り出してみた。

【書誌】

書名「えんぴつで奥の細道」。ポプラ社。書:大迫閑歩書。監修:伊藤洋。

2006年発行。 原著:芭蕉「おくのほそ道」。

この本は、「おくのほそ道」の全文と、その文字を薄くして鉛筆でなぞれるようにした文とがあり、それに加えて、現代語訳と注釈がつけられているので、鉛筆でなぞりながら、「おくのほそ道」をじっくりと読むことが出来る。「えんぴつで奥の細道」は途中までしか読んでいなかったため、通して読むのは今回が初めてということになる。

芭蕉の「おくのほそ道」の旅は、江戸の千住に始まり、各地の俳人たちの助けも借りて大垣に至る、半年近くの長旅となる。この旅において芭蕉は、「不易流行」という俳諧の理念を生み出し、さらに「軽み」の理念も考えるようになったという。100分de名著のテキストでは、「不易流行」と「軽み」は芭蕉の人生観、宇宙観でもあったとしている。

「おくのほそ道」は文学作品であり、事実とは異なる記述も見受けられる。実際の芭蕉の旅がどうであったかは、同行した曽良の旅日記により、ある程度は分かるが、これについては、別の機会に取り上げることにしたい。

 ところで、“えんぴつで”という「なぞり本」のシリーズは他にも出ており、その中には100分de名著で取り上げられている、「徒然草」「枕草子」「方丈記」「般若心経」「菜根譚」「老子荘子」などの著作も含まれている。これらの本を100分de名著のテキストと組み合わせれば、名著の内容をより理解できるようにもなるだろう。ただ、なぞり本の場合は、図書館で借りるわけにはいかない。そのうえ、鉛筆で書いたものを消せば、また習字に使えるので、読み終わったあと処分するのは勿体ない。それ故、なぞり本を購入する場合は、本棚が溢れてしまうことがないよう、不要な本は処分することも必要になる。

 

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古事記

2018-09-26 19:05:21 | 私の本棚

今回は、NHKの100分de名著のうち、「古事記」を取り上げる。私の本棚にも、次のような「古事記」の本がある。

【書誌】

書名「古事記・日本書紀」。日本古典文庫1。福永武彦訳。

河出書房新社。昭和51年初版。昭和55年七版。¥1200。

高校の音楽の時間に作曲の宿題が出たことがあった。伴奏付の曲は作れそうにないので、何かの詩に適当なメロディを付けて出そうと思い、詩を探していたところ、たまたま古事記のヤマトタケルの物語の中に歌を見つけ、幾つかを選んでメロディを付けて提出した。当時は和歌を歌詞に選ぶ人が居なかったらしく、そのせいか平均点より少し高い点を貰ったような記憶がある。ただ、どんなメロディだったかは、すでに記憶のうちにない。

昭和54年(1979)、古事記を編纂した太安万侶の墓が発見されるということがあり、遥か遠い昔の話に過ぎなかった古事記の世界が、ある日突然、身近な存在になったような気がした。それからは、古代についても少しは関心を持つようになったが、古事記を通して読んでみようと思ったのは、その翌年のことである。

 ヤマトタケルの物語について、古事記と日本書紀の内容を比べてみた。古事記では、ヤマトタケルが兄を殺した事を知った天皇が、行く末を案じて西国の熊襲討伐に向かわせたとあり、さらに、西国から戻ったばかりで直ぐ東国の征伐を命じられたヤマトタケルが、伊勢大神宮の斎宮であった叔母に「天皇は私のことを早く死ねばいいと思っている」と話して泣いたと記されている。一方、日本書紀にはこのような記載はなく、天皇はヤマトタケルの手柄をほめたと書かれている。また、古事記にはヤマトタケルがイヅモタケルを騙し討ちにした話が載っているが日本書紀には無い。ほぼ同じ時代に内容の異なる古事記と日本書紀が編纂され、かつ存続したのは何故なのだろう。日本書紀は正史として尊重されただろうが、それでも、多くの人が古事記を好んでいたのかも知れない。

古事記には万葉仮名のような表記も使われている事から、語り継がれた物語と考えられている。このような伝承は、時が経てば失われたり、変容したりする。時には別の伝承が紛れ込むこともあり、イヅモタケルの話もそうした話かも知れない。複数の人物による業績がヤマトタケル一人の業績に集約されれば、記憶されやすく伝承として残りやすいという事もあるのだろう。それにしても、古事記のヤマトタケルの物語は良くできた歴史物語である。様々な伝承をもとに必要なら補って、感動的な英雄の悲劇としてまとめ上げた、そんな作者が後世に存在したのではないかとさえ思わせる。

 

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