風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

その森にはボクの木がある

2021年12月01日 | 「新エッセイ集2021」

 

勝手に名付けたボクの木が ボクを呼んでいる いやボクが木を呼んでいる 落葉を踏んで森を抜ける 待っているのはケヤキの木 枝も葉も空へと伸びて 森の闇をひらいていく ボクはただ見上げるだけ ボクの木はいつも静かに きょうの始まりに立っている その先には流れる雲があり 変わらぬ青空がある カラスの黒い羽がよぎり シラサギの白い翼が舞う 大きな白い羽は 1枚の大きな紙となって きょうのカレンダーは新しい 開いたり閉じたりの 12枚の最後の1枚で 1から31までの数字が 過ぎていく日々の 速さと重みを伝えてくる 昨日があり1年があり やるべきことは残されて 今日があり明日がある 昼の現実があり夜の夢もある どっちの道を行けばいいか 起きてても寝てても 迷いはある 見なれた細い川が流れていて 縁に沿って歩いていると いつも道は途切れてしまう 同じような夢の道を 迷いながら歩きつづける 目覚めて歩き始めると ボクの木が呼んでいる 木は池を眺めながら瞑想をしている 池の水面には さまざまな想いが浮かんでいる 迷想といった方がいいかもしれない 風のない静かな朝は 水面も鏡のようで 水に写った空の高みが そのまま池の深さのようにみえる その天空と水底の深みを ボクの木の葉の舟が ゆうべの夢の残滓のように漂っている ボクの木は大きいが 葉っぱは小さい ケヤキの葉はすっかり散って 空をあらわにしてきた 細かく分かれた細い枝先が まるで空の葉脈になって その先を白い雲がかすめていく たゆたう雲を 木の枝先は触れようとする 空の大きな動きの中で ボクの木も運ばれている 木の体はどこにあるのか きのうまでは空にあって きょうは水の上にあるのか あさの水面では 葉っぱの舟が行先を探している とつぜんシラサギが 空を目指して飛び立つ 細い体を一直線にして 長い脚をきちんと後ろに揃えて たしかな指針を その先に伸ばしていく 水面は静かだが空は動いている ケヤキであるボクの木の 木の葉の舟は ただ水の上で動けずに シラサギの風を欲しがっている

 

 

 

 


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