風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

森は生きるために眠りつづける

2015年01月14日 | 「詩集2015」

近くに小さな森がある。
あるいは林かもしれない。さまざまな雑木が密生する一角がある。
山が宅地に開発されたとき、そこだけが自然のままに残されたのだろう。道も山道のような細い坂道になっている。だから森に入るというより、山に分け入っていくようなわくわく感がある。
サワグルミの木がある。トチの木や山桜の木がある。しかし今は、どの木も枝ばかりの裸木である。あらゆるものがひっそりと眠っているようにみえる。
森のなかでは、ぼくもすでに冬眠しているのかもしれないと思わされてしまう。葉っぱも実も落ちつくして、ただ寒さに耐えて震えている。小さな森は、一瞬の幻想の森でもある。

*

近くに小さな森がある
魔女も赤ずきんちゃんもいない
妖精も小人もいない
むろん熊楠博士も縄文人もいない

サワグルミの木がある
トチの木がある
両手をまっ黄色にしながら
固くて苦いトチの実とたたかった
いまは落葉の記憶ばかり

餓死するまえに森へ逃げ込む
赤い実をたべて赤くなる
青い実をたべて青くなる
苦い実をたべて生まれかわる
だが1月は残酷な月だ

苦い実はひと粒もない
赤い実も青い実もない
森は生きるために眠りつづける
冷たい森に
朽木のように転がっているのは
行き倒れた縄文人だ





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