白い花が咲いてた ふるさとの遠い夢の日……
そんな古い歌を思い出した。
遠い夢の日に、どんな白い花が咲いていたのだろうか。
近くの小学校で卒業式が行われていて、遠い夢の日の、小学生だった頃に引き戻された。
梶原先生、おげんきですか。
小学校の卒業式の日に、担任の梶原先生が『白い花の咲く頃』という歌を歌ってくれた。
いかつい大きな顔をした男の先生だったけれど、歌の声は低くて優しかった。
ふだん怒ると顔が真っ赤になったけれど、歌っている顔も真っ赤だった。声が少しかすれていた。
クラスのみんな、うつむいて泣いた。
最後の日、先生は黒板に
「心に太陽を持て」とチョークで大きく書いた。
クラスのみんなに贈る、それが最後の言葉だと言った。
国語の教科書に載っていた、詩人のだれかの詩のことばだった。
白い花の歌と太陽の詩と、この季節になると、最後の日のことばかり思い出すのはなぜだろう。
最後の日は、始まりの日でもあったはずだ。あれからどれだけの、最後の日と始まりの日を繰り返してきただろうか。
気がつけば、あの頃の先生の年齢をとっくに超えてしまっている。
心に太陽は持てただろうか。
いつのまにか遠い日は、まさに夢のように霞んで遠い日になってしまった。
木造校舎の長い廊下を走りぬける。古いオルガンをいたずらで弾いた。ペダルの音ばかりがカタカタ響いて、音階が風になってブーブー抜ける。お昼近くになると、小使い室の調理場から給食のスープの匂いがしてくる。下校前には、ぼろぼろになった雑巾で拭き掃除をする。
工作ノリの匂いがする教室。なぜか小さな白い花がいっぱい咲いている。
「きみたちどうして、そんなに小さな花になってしまったんだ」
手に竹の鞭をもち、顔を真っ赤にした梶原先生の叱咤する声が聞こえてくる。
「2024 風のファミリー」