3月17日、市議会本会議で議案の採決が行なわれ、閉会しました。以下、私が反対した議案の討論原稿をUPします。
【反対討論(4議案について一括で討論)】
議案第6号 江南市後期高齢者医療に関する条例の制定について
議案第15号 江南市国民健康保険税条例の一部改正について
議案第16号 江南市国民健康保険条例の一部改正について
議案第38号 平成20年度江南市後期高齢者医療特別会計予算について
私は社民党所属の議員を代表し、後期高齢者医療制度そのものに強く反対する立場から、「議案第6号 江南市後期高齢者医療に関する条例の制定について」「議案第15号 江南市国民健康保険税条例の一部改正について」「議案第16号 江南市国民健康保険条例の一部改正について」「議案第38号 平成20年度江南市後期高齢者医療特別会計予算について」、一括で反対の討論をいたします。
1. 総論
2006年6月「医療制度改革関連法案」が強行採決されました。老人保健法は実質的に廃止され、「高齢者の医療の確保に関する法律」によって後期高齢者医療制度がスタートします。
医療制度改革は本来、国民の命をどう守るかに重点を置いて議論するべきであったのに、その手段でしかない財政政策中心の議論に終始しました。そのため、医療費の抑制・削減が自己目的化し、本末転倒の改革になってしまいました。
すでに、高齢者の負担増が相次いで実施されています。小泉内閣の「骨太の方針2005」(2005年6月21日閣議決定)にもとづき、2006年度から5年間かけて、医療費総枠1兆1000億円の削減が行われています(年間2200億円)。また、診療報酬の引き下げ、現役並み所得がある70歳以上の医療費窓口負担の引き上げ、70歳以上の療養病床入院患者の食住費の全額自己負担化、高額療養費(定額部分)の自己負担限度額の引き上げなどが実施されており、安心して医療を受けられなくなっています。後期高齢者医療制度はこうした一連の医療改悪の集大成として位置づけられます。
政府(厚生労働省社会保障審議会)は、75歳以上の高齢者は①老化に伴う生理的機能の低下により、治療の長期化、慢性疾患が見られる(複数の病気にかかっている)②症状の軽重は別として、認知症の人が多い③いずれ避けることができない死を迎える-という「心身の特性」に応じた医療サービスを提供する必要がある、ともっぱら医療内容の面から後期高齢者医療制度の必要性を訴えてきました。しかし、高齢者の医療の確保に関する法律に掲げられた「医療費の適正化」「国民の共同連帯の理念」という目的を大義名分にして「高齢者は応分の負担をせよ」と迫り、さらなる医療費抑制に向けた高齢者の負担強化を迫る意図があることは明白です。
政府が目の敵にする医療関連給付は年間約30兆円です。しかし、保険の効かないおむつや薬代などの自己負担を合わせると1.5倍の45兆円になり、国民は強い負担感を持っています。
実際、総医療費に占める自己負担割合(現金支払い経費)はアメリカ14.1パーセント、フランス10.2パーセント、ドイツ10.3パーセントに対して、日本は17.3パーセントと先進7カ国で最高となっています(OECDの2005年データ)。
逆に、日本の医療費は本当に高いのでしょうか。OECD(経済開発協力機構)が2006年に発表したデータによると、GDPに占める医療費の割合はアメリカ15.3パーセント、ドイツ10.9パーセント、フランス10.5パーセント、カナダ9.9パーセント、イタリア8.4パーセント、イギリス8.3パーセント、日本8.0パーセントとなっており、先進7カ国で最低となっています。また、OECD加盟国30カ国の中でも21位となっています。
日本の経済規模に照らした適正な医療費とはどのくらいなのかという議論をせず、高齢者の負担増を強行することは許されません。
2. 後期高齢者医療制度の本質的問題
後期高齢者医療制度の本質的問題は、弱者連合ともいえる75歳以上の高齢者を切り離した上で、保険料と医療サービスを密接にリンクさせていることです。
国民皆保険崩壊の危機
そもそも、経済力の弱い75歳以上の高齢者だけを切り離した保険制度は理論的にはありえません。リスクを社会的にシェア(分け合う)ことが保険の意義であるのに、医者にかかるリスクが高く、かつ経済力が弱い高齢者だけを対象とした制度を設計したことに無理があります。また、「後期高齢者」という形で一律・強制的に分けるのは年齢差別であり、高齢者の尊厳を踏みにじる暴挙です。
それに、大企業労働者の健康保険組合、公務員の共済組合、中小企業労働者の政府管掌健康保険、空洞化が深刻な国民健康保険、これらに加えて後期高齢者医療制度というふうに制度を分断することが、少子高齢社会のセーフティネット作りではないはずです。
1961年に国民皆保険を達成してから47年、わが国は世界最長の平均寿命や高い保健医療水準を達成してきました。WHO(世界保健機構)が2000年に行った報告では、日本の保健システムは世界1位であると評価されています。このままでは不十分ながらも堅持されてきた国民皆保険が崩壊してしまうのでないでしょうか。
負担増大かつ医療サービス抑制
近年、相次ぐ年金給付の切り下げ、定率減税の廃止、扶養控除の廃止、公的年金控除の廃止、老齢者控除の廃止、介護保険料の天引き、医療費の自己負担の引き上げなどによって、高齢者の年金収入は大幅に減っています。本当に、新たな医療保険料の負担に耐えられるのでしょうか。
愛知県後期高齢者医療広域連合の試算によれば、1人あたりの平均保険料は年間で93,204円、月額で7,767円と高額です。これまで被用者保険や国民健康保険の扶養家族になっていた高齢者も、扶養からはずされ保険料を負担しなければなりません。
さらに、東京都や練馬区などの調べで、国民健康保険加入者1,100万人について、年収170万円~200万円層で保険料負担が2倍前後にまで増加する一方で、300万円以上の人の保険料はむしろ軽くなるデータも出されています。貧しい人々により多くの負担をさせるということは社会保障の理念に反するものといわざるを得ません。
今後、少子高齢化が進み被保険者が増え、また医療給付費が増えれば、保険料を値上げするか医療給付内容を劣悪化するかが迫られます。どちらをとっても高齢者は「痛み」しか選択できない、あるいは両方を促進する仕組みとなっています。
特に、「保険料収入が頭打ちなのだからこの程度の医療しかできない」という流れが強まるのではないか懸念されます。「心身の特性などにふさわしい医療体系」の名目で、疾病単位や患者単位の定額制として、医療行為や医療材料をまとめた報酬が導入されると、個々の患者の病態に応じて必要な治療を何回行っても、同じ報酬ということになります。治療の難易度に関わらず支払われる報酬は同じであるため、積極的に治療すればするほど医療機関の持ち出しになり、医療に制限が加えられ、治療内容の劣悪化するのではないでしょうか。
保険料の天引きと厳しい罰則
保険料は年金からいやおうなく天引きされます。生計費は非課税にするという原則に反しており、「消えた年金」「宙に浮いた年金」問題を棚にあげた横暴と言わざるを得ません。
また、保険料を滞納すると保険証取り上げ、資格証明書発行という厳しい制裁が課せられます。これに関連して、条例案の第7条から第9条で、国民健康保険にはなかった罰則規定(過料)が盛り込まれていることには強い憤りを覚えます。
現在、市町村国保の滞納世帯は480万世帯を超え、全世帯の20パーセント近くを占めています。資格証明書の発行は35万世帯を超えました。こうした滞納者が保険料を支払う能力があるでしょうか。保険証を取り上げると、適切な医療が確保されないばかりか、受診抑制、重症化、医療費増大の悪循環を引き起こすことが強く懸念されます。
この他にも、指摘したいことがたくさんありますが、話しをすればするほど、怒りがこみ上げてきますので、この程度とさせていただきます。
3. 成人一般への悪影響
後期高齢者医療制度ばかりが注目されていますが、私たち若者をはじめとして成人一般もこの制度と無関係ではありません。新たに創設された後期高齢者医療制度の保険者負担分である支援金を支払うため、現行の医療給付費分及び介護納付金分に加え、後期高齢者支援金分の課税限度額(12万円)が定められます。これに伴い、全体の課税限度額が引き上げられ最高57万円の保険料を支払わなければなりません。ただでさえ高い国保税を引き上げることに市民の理解が得られるでしょうか。
世帯内の国保被保険者全員が65歳以上75歳未満の世帯主から、国民健康保険税が特別徴収(天引き)されます。「消えた年金」「宙に浮いた年金」問題が一向に解決されない中で、天引きを強行することは許されません。介護保険料に加えて国保税も天引きされると、老後の生活の糧がなくなってしまうことを懸念します。
4. 後期高齢者医療制度は廃止するしかない
75歳以上の高齢者は戦前に生まれ、戦時中、「若者はお国のために死んでくれ」と徴兵され青春を台無しにされました。戦後の貧しく苦しい時代においては、平和憲法のもとであたらしい社会づくりに参画され、わが国の発展に多大な功績を残してこられました。いま、国は高齢者の尊厳を守り、安心して生きることができるよう尽くす義務があるにもかかわらず、財政の論理を優先して「お年寄りはお国のために死んでくれ」と言わんばかりに、問答無用に高齢者の生きる権利を奪う「姥捨て山保険制度」をつくりました。命の沙汰も金次第ということでしょうか。まさに、一連の医療制度改革は、憲法25条の「生存権」、14条の「法の下の平等」、13条の「幸福追求権」を侵害する稀有の悪法です。絶対に認めることはできません。
2月28日、社民党、民主党、共産党、国民新党の野党4党は、後期高齢者医療制度を廃止する法案を衆議院に共同提出しました。社民党は、いつでも、だれでも、どこでも平等に医療が受けられ、持続可能な国民皆保険制度を目指していくことをお約束し、反対討論を終わります。