不器用

テーブルの上にオレンジジュースの壜と空っぽのペットボトルがあったとして、そのジュースをボトルの方に移そうと私が試みたとすれば、テーブルクロスの小さからぬ部分がオレンジ色に染まると思う。これは私の手指の老化によるものではなく、若い頃からこの種の作業は苦手なのだ。私の手指の動きが普通人より勝ったのは麻雀の牌捌きと靴磨きの２つだけかもしれぬ。　イクメンという新語があって、これは、育児に積極的に参加する夫のことのようだ。子供達が幼い頃、私が「今夜は俺が」と風呂に入れようとしたら、家人が手を左右に大きく振った。「石鹸が目に入ったら大変よ！」となって、私は（遊ぶことを除いて）イクメンになることはなかった。　腰痛人間になる前は、私もガス台の前に立つことがあって、八宝菜、エビチリなどは、家人に勝るものを作っていた。そんな得意顔の或る日、ふと手にした本に「料理はまず材料を選ぶことから始まる」とあって、そうだろうなぁと頷くしかなかった。材料の買い出しだけでなく、エビの皮むきだって、家人の手によるものであり、料理といっても、せいぜいが終盤の仕上げ仕事みたいなものだった。それでも、「エビチリは女房より上」と自慢を続けていた。