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言葉を重ねる

2016-10-19 21:43:38 | 日記
我が家の近い親戚の中での理系人間はただひとり、ボクちゃんのパパである。ボクパパは、慶應義塾大学の理工学部を出て、エンジニアとして東芝に勤務している。娘はパソコンの調子が悪くなると、ボクパパに修理してもらう。娘の依頼に、ハイハイと応えてくれる。「休日なのに申し訳ない」と言うと、「大丈夫です、大丈夫です」と言う。よく言われるような二つ返事で引き受けてくれる。快諾である。ボクパパは気持ちのよい人柄である。

車椅子を家人か娘に押してもらって病院の中を移動する。皆さんが気遣ってくださる。エレベーターの前では「どうぞ、どうぞ」と先を譲ってくれる。「あ、おそれいります。どうも、どうも」とご厚意に甘えることになる。乗用車から車椅子への乗り移りも簡単ではない。「ゆっくり、ゆっくり」と娘の声がかかる。

「お昼ごはんは、何にいたしましょうか?」、女中さんが祖母と私に訊きに来る。まだ女中さんがいたのだから、太平洋戦争の前だ。「オムライス、オムライス」と私が叫ぶと、「同じことを二度言ってはいけません。下品になりますよ」と祖母の声が飛ぶ。祖母は幼い頃の私の教育係だった。明治19年の生まれで、女子高等師範(お茶の水女子大)の出身だから、ホンモノである。下品という言葉を、よく使った。「うん」と返事をすると「はい」に直され、「ハイハイ」と答えると「ハイは一度だけです。二度言うと下品になります」と叱るような口調になった。


朝昼夕と、家人に呼ばれて食卓に着く。家人がすぐに「タオルタオル」と言う。タオルはエプロンの代用で、私がよく食べ物をこぼすので、襟元から胸前にぶら下げている。

私は時々、祖母のことを思い出す。祖母がいま、ここにいたら何と言うだろうかと考えてみる。「タオルタオルは下品ですよ」と、家人に向かって言うだろうかと考えてみる。 祖母はたぶん、家人にではなく私に向って、「きちんとなさい。それにしても、よくこぼしますね。食事はゆっくりとしなさい」と言うだろう。もちろん私は反射的に「ハイハイ」と応えてしまうだろう。

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