隠語

１年間だけ学んだ茨城の県立高校では、毎朝の登校時に、自転車の後部に隣家の１つ年下の女の子を乗せていた。当然に級友の目に入る。「あれ、ヤボのスケ（彼女）か？」なんて訊くのがいる。カノジョと言えばいいのに、わざとスケと言う。隠語を使うことで不良ぶってみたいのだ。私はいつも「ああ、そうだよ」と答えた。否定すれば、バカな奴は図に乗る。「なんだよ、本当はスケなんだっぺ」となるのに決まっている。

刑事ドラマ、犯罪ドラマでは、やたらと隠語（スラング）というか業界用語というのかが出て来る。刑事（デカ）、犯人（ホシ）、拳銃（ハジキ）、前科（マエ）、手錠（ワッパ）・・・本当に現場で警察官が使っているかどうか知らないが。とにかく、別の言葉の世界の如き感じになる。この前はちょっとかわいい顔の女優が演じる婦人警官が「ゲソコンが一致しません」と大声で言ったので、笑いそうになった。ゲソコンというのは足跡、履物の跡のことらしいが、婦警さんには不似合いだった。

再び茨城での話に戻るが、昭和20年代において、私の居た町では東京への憧れが強かった。中学生が友人に「オイドさ、いがねか？」と言う。オイドはお江戸、すなわち東京のことだ。オイドに行くには常磐線に乗って、まずウイノへ行かねばならぬ。そこから浅草へ行く。浅草をエンコと呼んだりしていたが、それがなぜだかはわからない。

隠語は地方によって違うことは前に書いた。全国共通の代表格はモク（たばこ）だろうか。輸入品は洋モクで、味もわからない学生時代に洋モクのフィリップモリスを吸っていた私もバカの一人だろう。半分吸って、残りをもう一度楽しむことをシケモクと言うが、これをマンゴロと言う関西人がいた。１人は大阪、１人は九州の人間だったから、マンゴロが通用する地域は案外広いのかもしれない。

トピックス

朝夕の６時、７時前後のニュースをテレビ朝日で観ている。特にその中の、トピックスのページとでもいえる部分がおもしろい。どうでもいいような事柄ではあるが、世の中いろいろなるなぁと思えて楽しかったりするのだ。或る小学校で＜競＞の字を使って短文を作れという宿題を出したところ、１人の生徒が、「じぃが、競馬で５万円すった」と書いて来たそうだ。私は笑った。気持ちよく笑った。よくぞこのネタを拾って来たと拍手したくなった。この話からひろいろな想像が広がる。まず、この爺は私と同じように馬券は電話で買ったはずだ。なのに、なぜ、家族にバレたのだろうか。バレたら婆に怒られたのか、息子に注意されたのか、息子の嫁にヒヤかされたのか。それとも爺はヘソクリを持っていて、５万円ならみんなに内緒で使えるのに、うっかり買い目を記したメモを置き忘れて婆にみつかってしまったのか。

私も、毎週土曜日と日曜日に馬券を買う。婆に内緒ではない。資金は預金通帳に入っている。以前は１日に４，５千円ずつ買っていたが最近は少し購入額が減った。勝負カンが鈍くなって来たからだ。テレビの競馬放送が終わると、婆に結果を訊かれる。私は正直に当たりはずれを答えるが、たとえば３千円買ったのが３万円になっても黙っている。その反対に、今月は８連敗だなんていうことも言わない。つまり、自分のことはあまりおもしろくないのである。テレビの短いニュースの中で、しかも小学生の短文にあるのがおもしろいのは、他人事だからこそだと思う。

身体の手入れ

朝は６時半過ぎに目が覚める。ベッドの上でストレッチを始める。９年前に居間で転んで立ち上がれなくなった。浴槽から出られなくなった。票介護Ⅰの身体になった。かわいい娘さん（理学療法士）がリハビリのコーチに来てくれた。ストレッチは彼女に教わったもので、だから９年来の習慣である。最初に片足を両手で抱えて胸部に引き寄せる。痛い！と小声が出る。家人はまだ眠っているので大声は出せない。ストレッチは最後の腹筋運動まで８つの動作があって、15分ほどかかる。早く済むときと遅い日があるのは、その日の肺の調子による。11年前の胸部大動脈瘤破裂のオペ以降、肺が小さくなった気がする。深呼吸がうまくできない。次に電動器具を取り出す。子供のゲンコツほどの鉄球が静かに回り動く仕掛けで、10分間動くと止まるようにできているので、それをふくらはぎに充て、大腿部の裏側に当てる。そろそろ家人が起き出すので、声が出せる。歌を唄う。声を出さないと声帯が錆び付くという。曲目は何でもいい。今朝は『琵琶湖周航の歌』『丘は花ざかり』、それに『旅姿三人男』『広瀬中佐』だったかな。それが１時間、やっとベッドから起き上がる。

上記の手入れがないと体が動かない。朝食後、別の器具を使って筋肉をほぐすのだが、とにかく体を動かさねばならぬ。転ぶな、風邪ひくな、水を飲め・・・が３訓だ。それ以前に、身体の手入れが要る。発声も忘れてはいけない。唄いながら手入れをする。

小さい女の子

中学の２年生と３年生のときは、学級の体育委員をやっていた。学級委員は委員長以下、選挙でえらばれるのだが、私は運動部には入っていないし、別に体力・運動神経に優れているわけでもない。また委員選挙は立候補ではない。そんな私に票が集まるのは、「ヤボだと、野球やれっからなぁ」だったからだ。学校には体育の専任教師がいたのだが、その男が警察予備隊（現在の自衛隊）に入ってしまったので、体育はクラス担任が受け持っていた。私たちの担任は数学教師のIさんだった。私の役目はI先生と交渉して、体育の時間に野球をやらせてもらうことだった。I先生は東京物理学校（現在の東京理科大学）を出たばかりのパリパリの若者であって、張り切っている。生徒に、物わかりの好いとことを見せたい面もあるはずだが、その逆に、なめられないぞと見せる必要もあっただろうから、下手な交渉はできない。しかし、体育は週に２回あるから、それをくだらないランニングとか鉄棒に充てられたら困る。

クラスにミサ子という小柄な女生徒がいた。別にお互いに好意を持っているわけではない。ただ、私は、ミサ子がチビだということだけで、物事を頼みやすい感じがしていた。だから、I先生に頼みに行く前に、ミサ子に、職員室の様子を探ることを依頼した。小さいミサ子はいつも快く探偵を引き受けてくれた。戻って来ると、「いまI先生はB先生と笑いながら話しているよ。機嫌いいよ」と教えてくれた。雨の日がある。午後の体育の時間にI先生本業の数学の授業を受ける。その代わりに翌日の数学の時間に野球をやらせてもらうべく交渉する。成功率は高かった。私はミサ子のおかげで体育委員の役を全うした。しかし、なぜ小さい女の子だから頼みやすかったのかは、今でもわからない。普通なら体の大小と関係なく、気安く頼める相手は探せたと思うのだが。

２月28日

金曜日の東京マーケットの株価（日経平均）は1,200円安で引けた。３万円のラインをウロウロしていたのだから４％安であって、これはちょっとした2.26事件と言えるだろう。その13時間後のNY市場もダウは下げ、ナスダックはかろうじて踏ん張った。明朝の東京のスタートはどうなるか。

菅首相の長男が役員を務める会社から何度も接待を受けたとして、総務省の幹部役人が数人処分され、さらに、首相の記者会見などを仕切る女性報道官も、祖無償時代に７万円の接待を受けていたので給与の６割を自主返納するそうだ。大騒動である。かつてノーパンしゃぶしゃぶ事件なんていうのがあったのを思い出す。国会議員が女性報道官に「７万円の内容は？」と訊き、和牛ステーキとナントカカントカ・・・と答えるのを見ていると情けなくなる。そのメニューは、とっくに週刊誌で報道されているのだ。今回のことに限らず、最近は週刊誌探偵団が探し出して来たネタが国会での討論の材料になることが多い気がする。スキャンダル国会だ。

ワクチン接種が始まった。前にも書いたが、この件は、テレ朝の玉川徹コメンテーターが言うように、日本は買い負けしている感じがする。我が家は家人と娘さえ接種できれば、私はカンケイない（感染しない）のであるが。

バレンタインデーに長女からもらった高級チョコレートを毎晩１粒ずつウィスキーの水割りのツマミにしていて、これが旨い。昔、ホテルのバーなどにチョコを塗ったポッキーを噛みながら呑んでいる友人を見て、どんな味覚をしているのかと不思議に思ったが、ここ２，３年、ウィスキーとチョコの相性がわかって来た。今朝の血圧は128ー68。