Takepuのブログ

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ラスト・コーション(色,戒)1

2009-02-25 16:11:00 | 映画鑑賞
米アカデミー賞といえば、台湾出身のアン・リー(李安)。アジア人で初めてオスカーの監督賞を獲った。06年第78回の「ブロークバック・マウンテン」で、カウボーイの同性愛を描いた映画だった。07年製作、日本では08年公開だった「ラスト・コーション(色,戒)」が僕にとっては強烈だった。ベネチア映画祭の金獅子賞(グランプリ)を獲っている。ここ数年見た中ではベストの映画だ。日本でもDVDが発売されたので、映画館で見逃した人が見るチャンスがあると思って書いてみた。

舞台は事実上日本の占領下に置かれた1940年代初頭の上海と、その前の導入部に1930年代の香港。戦乱を避け上海から香港に逃げてきた女子学生・王佳芝(湯唯=タン・ウェイ)は、同級生の鄺(王力宏=ワン・リーホン)が発案した抗日演劇の成功に味をしめ、夏休みに学生たちで貿易商とその夫人らを装い、現代中国が「日本傀儡政権」と呼ぶ汪精衛(兆銘)政権幹部の易(梁朝偉=トニー・レオン)を暗殺しようと計画し、夫人(陳冲=ジョアン・チェン)に近づく。易は抗日組織摘発の特務機関を仕切っている。夫妻は上海に戻り、計画は終わったかに思えたが、上海に戻り日本語を勉強していた王佳芝を、国民党の特務になった鄺が探し出し、再び易家に接触する。易と王は互いに惹かれあい、逢瀬を楽しむことになり、王はスパイの仕事を超えた愛情を持ち始め・・・、といったストーリー。
写真は松江区の映画セット村「影視楽園」内の撮影用偽ガーデンブリッジ。

アン・リーの地元・台湾で観客動員が「海角七号」に抜かれたが、作品の質は圧倒的に「色,戒」の方が上だ。激しいセックスシーンがあって、誰でも見られないことが影響したのだろうか。日本でもR18指定。最初は劇場で見たが、ぼかしが入っていてかえって違和感。香港・台湾版のノーカット・無修正DVDを入手し見たが、別にナニが見えるわけでもなし、その激しい3回のセックスシーンそれぞれに意味がある。
1回目は易が自らの死の恐怖を忘れるためにベルトを鞭のように使ってサディスティックに自分の欲望をぶつける。2回目はお互いの愛情を確認し合う。3回目は完全に主導権が逆転し、易は王に心の安らぎを求め、王は易の恐怖を忘れさせようとしている。中国はこのシーンを計十数分間カットして上映したらしいが、このシーンなくして二人の心理状態やストーリーを理解することなど出来ないだろう。3回目の情事のあと、学生時代に好きだった鄺にキスされても、それをはねのける王は、すでに易を深く愛してしまっている。李安の心理描写への配慮はスキがない。暗く、悲しく、緊張迫られる内容で、ポルノ映画のように鼻の下を伸ばしている暇はない。ところで、湯唯の腋毛がそられていなかったのも、李安監督細かくリアル。
ラスト・コーションは「Last」ではなく「Lust」。「欲望」の意味で仏教用語だそうだ。

李安は2000年「グリーン・ディスティニー(臥虎蔵龍)」でもオスカーの外国語映画賞など4部門で賞を獲っている。ワイヤーアクションを多用した、武侠映画と呼ばれるカンフー映画だが、これもすごい。英語以外の言語の作品ながら作品賞候補にもノミネートされていた。張芸謀が「英雄」を撮った後、「アン・リーを真似したんじゃないか」といわれて、張自ら「中国人はみな武侠映画のDNAを持っている。似たといわれても盗作ではない」と言い訳していたぐらいだ。その後の「LOVERS(十面埋伏)」など一連の中国武侠映画の新たな展開を導いた作品といえる。


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