Takepuのブログ

中国旅行記とか、日ごろ思ったことなどを書きたいと思います

江沢民健在

2011-10-10 09:36:14 | 時事
どうやら産経新聞、やっちゃったみたいだ。9日の辛亥革命100周年記念式典に、産経と香港の亜洲電視(ATV)が死去報道を流した江沢民前国家主席が姿を見せた。ATVは死去放送直後に訂正とお詫び記事を出し、局幹部を更迭するなどの処分を出しているが、産経もおわびを出したらしい。

さはさりながら、香港メディアもそんなに大きく報じてはいない。「明報」は2面。江沢民の様子を雑感的に報じながら、香港、日本メディアの誤報の経緯を紹介している。

江沢民の懐刀の曽慶紅・元国家副主席などが出席したが、朱鎔基元首相の姿は見えなかったとも伝えている。明報は江沢民について、依然として一定の政治的影響力を保持している、と伝えているだけで、上海閥、太子党と共産党青年団派の対立などには触れていない。

親中国系香港紙「文匯報」も5面。新華社配信の写真を使って「江沢民大見得。起立して国家を歌う」と報じた。演説をする胡錦濤に比べれば、写真の扱いも小さい。

「江沢民の席が用意されている!」午前9時、双眼鏡を持った日本人記者が低くうめいた--。との書き出しで始まる記事は、係員に手を添えられながらも起立して国家を歌ったこと、胡主席の演説が終わると握手をしたことなどに触れ、姿を現したことでの政治的な意味づけについては触れていない。また、江沢民のほか、李鵬、李瑞環、宋平、尉健行、李嵐清、曽慶紅、羅幹らの引退幹部の姿が確認できたという。

一方で台湾の中国時報は朱鎔基元首相は出席しておらず、直前に現政権の経済政策を批判した書籍を出版したことと関係があるのだろうか、などと報じている。

これに対して国内メディアでは人民日報は1面で江沢民が胡錦濤のとなりに座ったひな壇全体の写真は載せているが、江沢民個人を特別に報じたものは見られない。江沢民健在は香港や日本メディアが死去報道をした際に、新華社を通じて否定原稿を配信するなど規定路線で、いまさら騒ぐ必要はなく、処分を出した香港メディアや、台湾寄りの産経新聞を中国につなぎとめておくためにもあまり騒がず、紳士的な対応をしたのではないか。

その反対に、中国国内でさまざまな情報が飛び交う中国版ツイッターは、「江沢民」で検索すると、「関係法と政策に基づき、検索結果は表示されない」と出るなど、検索システムに圧力をかけている。

これは江沢民問題が中国にとって敏感だ、と特別な意味を持つということではなく、新幹線事故のときに当局に対するさまざまな罵詈雑言が飛び交ったことなどから、中央指導者の名前などは、およそすべてこのような検索結果になるようだ。それが証拠に「胡錦濤」や「温家宝」を検索しても、同様の表示が現れる

これらを見ても、胡錦濤が年長者に配慮しながら、江沢民は健在を示しながら、中国人民の前に姿を現した。深刻な権力闘争がおきているとは考えにくく、習近平・国家副主席が次代の最高指導者に内定、団派の李克強が次期首相に有力視(おそらく内定)されていることなどから、胡錦濤自身がすでに軽いレイムダック状態にある。
一方で、すでに情報が伝えられている地方幹部の人事異動などを見ると、団派の若手がかなり登用されていることなどを見ても、党内に深刻な対立が起きているとは思えない。むしろ、新幹線や上海地下鉄の事故、経済格差や米国のデモなど内外の問題により、中国共産党一党独裁の基盤が揺らぎかねないとの強い危機感から、党内の団結をアピールする意味合いがあるのではないか。中国現政権はどうやって2012年に新政権に権力を移譲するまで、どうやって大きな事件や混乱を起こさずに済ませられるか、いまの中国はそのような状態だと思う。

毎日、朝日が独自ダネ

2011-10-02 15:23:46 | 時事
プロ野球でどうした、こうしたと騒いでいた日、毎日新聞と朝日新聞は2日付の新聞で中国関連の独自ダネを掲載した。
朝日の「高速鉄道欠陥 開業前に把握」というのは、鉄道省装備部の劉剛副主任が、北京-上海間の高速鉄道の開業前、5月30日に上海で開かれた会議の席上、安全の根幹にかかわる装置に不具合があり、さまざまな部品で安全基準を満たしておらずトラブルが多発しているとの報告があったと明らかにしたというもの。朝日は、開業前からトラブルについて指摘されていたにもかかわらず、7月1日の共産党創設90周年の前日に開通させる、というメンツが安全より優先された、としている。

会議の中身を獲った、という意味ではわかりやすい特ダネだ。会議参加者がネタ元で、おそらく現状の鉄道省、というか中国当局に対する不満から情報を提供されたものだろう。話の流れは想像しやすいが、個別にどのようなトラブルがあった、とそれぞれ報告の中身が出ていることが興味深い部分だろう。
運転士だけでなくメンテナンス要因の短期間での育成、人材不足などは以前から言われていたことだが、今回、明らかになった。

毎日新聞の方は、一般の日本人のみならず多くの台湾大衆にとっても理解しにくいテーマだが、中台関係に大きな影響を及ぼす可能性のある特ダネだ。「一つの中国あいまい 中台交渉文書で確認 92合意の背景明らかに」だが、このブログでも何度も紹介している「九二共識」(92年コンセンサス)と呼ばれる、一つの中国を巡る中国と台湾の暗黙の了解についての問題だ。

台湾側は「一つの中国の原則について、中国とはそれぞれの解釈で」という「一中各表」を主張しているが、中国側はこの考え方を公式的には否認、台湾との交渉をスムーズに進めるために事実上「黙認」している。この「暗黙の了解」は文書化されておらず、中台交渉担当者の口頭での約束、とされていた。当時の李登輝総統も、交渉担当者の辜振甫氏もこの約束の存在を否定。来年1月に実施される台湾総統選で、野党・民進党の総統候補である蔡英文・党主席も「存在しない」と主張していた。
毎日の記事は、この合意について、中国側の交流窓口機関「海峡両岸関係協会」からの手紙の現物を紹介しているもので、台湾側が「一つの中国の意味は各自で異なることを認知する」と付け加えていることが記されていたという。これに対して中国側は「一つの中国の政治的意味には触れない」と記述、意図的に対立点をぼかし、事実上「黙認」しているという内容になっているという。

これはかなりすごい特ダネだ。毎日の編集が価値判断できなかったのか、内容があまりにマニアックすぎて国際面一本になってしまったのか。
中国との関係改善を進め次期総統選に再選を目指し出馬する与党・国民党の馬英九総統は、中国との関係に踏み込みすぎると批判を受けるのでは、と慎重だが、基本的には中国との蜜月状態を進めたい。中国側も将来の統一を見据えて、独立派の民進党を排除して、国民党と交渉を続けるためにも国民党政権を望んでいる。この特ダネはこの状態に風穴を開けるもので、中国側が「一つの中国について台湾側が中華民国だと主張することを妨げない」との姿勢を文字で残してしまったことが公になってしまったことで、中国側はどう対応するのか。出方を見守りたい。たぶん、報道そのものを黙殺するかとは思うが。
台湾メディアもネットで見る限り、あまり追いかけていないようだ。台湾メディア界は高等教育を受けた外省人が多く、親国民党的な論調が強い。毎日の記事の下のほうに載っているように、台湾で総統選挙の関心は低く、生活に直結した問題に目が行き、中台両岸関係のような政治的なテーマは二の次になっていて、関心が低いのは間違いないのだろう。