大木昌の雑記帳

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「敗北日本 生き残れるか」?―平成の30年は敗北の時代―

2019-02-10 07:13:47 | 社会
「敗北日本 生き残れるか」?―平成の30年は敗北の時代―

同友会代表幹事の小林喜光さんは朝日新聞のインタビューで、これまでの日本の実態とこれからの
展望について、危機感を語っています(注1)

公益法人経済同友会は、終戦直後の1946年、日本経済の堅実な再建のため、当時の新進気鋭の
中堅企業人有志83名が結集して誕生しました。設立趣意書には、「全く新たなる天地を開拓しなけ
ればならない」「同志相引いて互(たがい)に鞭(むちう)ち脳漿(のうしょう)をしぼって」と
熱い言葉が並んでいました。

小林氏の頭を離れないのは、日本が2度目の敗北に直面している、との危機感だという。

一度目の敗北は第二次大戦の敗戦です。その後、日本は必死の努力により復興と経済成長を成し遂
げました。

しかし、平成に入ってからの30年間に日本は世界の激変に立ち遅れ、挫折したのに挫折の自覚が
ないまま過ぎてしまった。小林氏はこの状況について「平成の30年間 日本は敗北の時代だった」
との認識に到達しました。

自身も三菱グループの大企業(三菱ケミカルホールディングス)の会長でもあるトップリーダーの
口から「敗北 日本」という言葉が出るのは衝撃的です。

現役の経済人のトップの言葉だけに、評論家や経済学者のコメントとは違って、説得力があります。
以下に、インタビューの内容を手掛かりに、日本の現状を冷静に見てゆきたいと思います

小林氏の話に真摯に耳を傾ければ、安倍首相が「(18年は)名目GDPは過去最高を更新」「有効求
人倍率が改善」(実は、労働人口が減ったからで、政策とは関係ない)とか、18年6月の現金給
与総額が「21年五か月ぶりの高い伸び」などという言葉が実に虚しく響きます。

小林氏は、「なんてことを言うんだ、と各所でおしかりを受けます。しかし事実を正確に受け止め
なければ再起はできません」と反論します。

確かに、世界の中で日本の地位は驚くほど没落しています。「例えば30年前で世界の企業の株価
時価総額を比べると、トップ10入りした米国企業はエクソン・モービルなど2社ほど。NTTや
大手銀行など日本企業が8割方を占めていた。中国は改革開放が始まったばかりで影も形もありま
せんでした」。

ところが現在は、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンという『GAFA』と、アリバ
バ、テンセントなど米中のネット系が上位を占め、モノづくりの企業はほとんどありません。日本
の輸出の稼ぎ頭のトヨタ自動車でさえ四十数位です。

「企業の盛衰を反映する国のGDP(国内総生産)でも伸び悩む日本に対し、米中はこの30年間
に倍々ゲームで増やしていったのです」。

しかも、日本の没落の中でも「テクノロジーは、さらに悲惨です。かつて『ジャパン・アズ・ナン
バーワン』などといい気になっているうちに、半導体、太陽電池、光ディスク、リチウムイオンバ
ッテリーなど、最初は日本が手がけて高いシェアをとったものもいつの間にか中国や台湾、韓国な
どに席巻されている。もはや日本を引っ張る技術がない状態です」。

そして、現在、米中間でせめぎ合いが続く通信の世界でも、次世代規格の5Gに至っては、日本メ
ーカーのシェアはごくわずかで、中国の華為技術(ファーウェイ)が先行し、北欧のエリクソン、
ノキアがどうにか追随している状況です。

このような状況から「自動車の自動運転や遠隔医療など次世代の基幹的技術になる5Gでこの有り
様では、敗北と言わずに何を敗北と言うんでしょうか」、と断定します。

「事実を事実として受け止めないから『GAFAみたいな世界もすぐ追いつける』とのんきな気分
でいられるんでしょう」と、挫折と没落に気付かず、根拠のない楽観論に手厳しい。

そして、安倍政権の経済政策に対しても鋭く批判します。

そもそも失われた20年とか、デフレマインドの克服とかいうこと自体が本末転倒です。安倍晋三
政権で、アベノミクスが唱えられ『財政出動、金融の異次元緩和を進めるから、それで成長せえ』
といわれました。しかし本来は時間を稼ぐため、あるいは円高を克服するために取られた手段で、
それ自体が成長の戦略だったわけではないのです。この6年間の時間稼ぎのうちに、なにか独創的
な技術や産業を生み出すことが目的だったのに顕著な結果が出ていない。ここに本質的な問題があ
ると言います。

安倍政権の支持率が高いのは、失業率が下がったり、株価が上がったり、と足元の状況に満足して
いるからで、心地よい、ゆでガエル状態になっている、という。

日本全体は挫折状態にあるのに、挫折と感じない。この辺でいいや、と思っているうちに世界は激
変して米中などの後塵(こうじん)を拝しているのに、自覚もできない。「カエルはいずれ煮え上
がるでしょう」。

日本は、なぜこのような国になってしまったのか。それは国家の未来図が描かれないままの政治が、
与野党含めて続いてきてしまったからだと断じます。

この点は私も全く同感で、与党・野党を問わず、日本と言う国は、どのような国を目指すのかとい
う「未来図」を描けないまま、「今さえよければ、自分さえよければ」という本音の中で、国民も
政治家も生きてきたことが最も重要な問題です。

では、敗北を認めたとすると、日本にはどんな選択肢があるのでしょうか?これに対する小林氏の
見通しは、極めて厳しく悲観的です。

小林氏は「地政学」と「地経学」という二つの次元で考えられるコースを挙げています。地政学で
は三つの選択肢がある。①今も米国依存ですが、さらに従属を深めた米国の別種の州として生きて
いく(つまり名実ともにアメリカに吸収される)、②これを断ち切れば、うっかりすると中国の一
つの市、北京や上海になる形、③どちらも嫌だ。日本は日本だと、独立を守り、米中の間で中立を
保つ。ただし、③について、あくまでも「可能性としてはある」と断っています。

次に、経済、技術を通した地経学的な見通しです。現在は歴史的な革命期にあると認識すべきです。
5GもAIもサイバーセキュリティーも、日本は本当に遅れてしまい、基幹的な技術を欧米や中国
から手に入れなければ産業、社会も国家も立ちゆかなくなる。

もはやリーディングインダストリー(成長を引っ張る産業)を自国の技術で育てることができず、
他国の2次下請け、3次下請けとして食いつなぐ国になってしまうのです。

しかし、そこから抜け出すのも至難だと言います。なぜなら、息継ぎのために国債が乱発された結
果、財政に余力はなく、持続可能性が疑問になっているからです。

政府は、GDPを増やそうとして逆に国内の総負債を増やしてしまった。6年間の安倍政権下で約
60兆円のGDPが増えたといいますが、国と地方の借金は175兆円も拡大してしまい、次の世
代にツケを押し付けてしまっています。

一方で5Gや半導体、量子コンピューターなど、次世代が利用する技術の研究開発費は欧米や中国
に出遅れてしまっている。

しかし、アベノミクスに手をさしのべたのは、財界で、結果的に時間稼ぎに加担した責任は軽くな
いでしょう、というインタビュアーの問いに、その点は「非常に問われている。矜持(きょうじ)
を持つ財界人が少なくなりました」、と答えています。
 
小林氏によれば、経営者として、あるいは社会的公器のリーダーとして、社会に対して強く関わっ
て変革していこうという意志を持った人の絶対数が減ってしまった。かつて土光敏夫さんが臨時行
政調査会を率いて行政改革を進めた頃、財界には高い権威があった。

経営者の権威が低下した一因は、ネット社会のいまは、財界トップと言っても、持っている情報が
一般の社員と比べて特段に優れているわけでもないから、社会的地位も特段に高いわけでもない、
という状況です。

そのうえ、官邸1強体制の中、経済財政諮問会議や未来投資会議などが政府の意思決定過程に組み
込まれてしまっているので、財界の発言権は「たかがしれている」。

それでは、日本は変われるのでしょうか?

小林氏が提案するのは、まずは財界トップに権威のない時代だと自覚し、学界や知識人、若い人
たちも含めた幅広い団体、いわば知的NPOを作って意見を交わし、社会に問いかけ、政治に注
文することだ、というものです。

もう一つ日本が直面している問題は、世界で広がりつつある一国主義や分断です。

この点に関する小林氏の指摘は、まことに的を射ています。つまり、一国主義を主張する政治家
は選ばれた存在に過ぎず、選んでいるのは国民なので、悪いのは国民ということになる。結局、
各国で国民が劣化したから独裁者を生んでいる。

こうした傾向は、現代の文明的な老化ともいえる。「文明は老いるものです。ローマしかり、大
英帝国しかり。新しい血と混ぜることを嫌えば衰退に向かう。それが世界史です。トランプ氏が
壁造りに躍起になっていますが、外国からいろんな人がやってきて活性化してきたというエネル
ギーを馬鹿にしてはいけない」。

最終的に日本が生き残るには「『弱きを助け強きをくじく』といった大和心は残しつつ進取の気
性を培わないと、挫折したまま滅んでしまう。単なる労働力として外国人を入れるのではなく、
勉強する、考える日本人を増やす触媒の役割を担ってもらうべきです」。

小林氏の、「異文化を受容することによって社会にはストレスが生まれる可能性はあるが、それ
によって日本本来の文化も磨かれる」という言葉は、非常に重要な示唆を含んでいます。

つまり、テレビの「日本 スゴイ」的な番組が好んで取り上げられますが、これでは自画自賛だ
けが深まり、異文化との接触により日本の文化を磨くチャンスを失ってしまいます。

今回の小林氏の発言は、日本の現状に関して非常に厳しい内容ですが、この敗北と挫折という現
実から目を背けることなくしっかりと見つめることからしか、再生の道はないような気がします。

(注1)『朝日新聞』(2019年1月30日)。『朝日新聞 デジタル版』(2019年1月30日)また
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S13870560.html?rm=150(2019年1月30日05時00分)
    でもみることができますが、紙面とデジタル版とでは多少の違いがあります。
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初雪 偶然見た雪をうっすらと乗せた松がきれいでした
                     



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