大木昌の雑記帳

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「高速道路を逆走する安倍政権」―“木枯らし紋次郎”の怒り―

2019-02-17 05:23:00 | 政治
「高速道路を逆走する安倍政権」―“木枯らし紋次郎”の怒り―

「木枯らし紋次郎」といっても、今では誰の事だかわからない若者が大部分かも知れません。これは、
笹沢佐保の股旅物小説をテレビドラマ化した超人気テレビドラマのタイトルで、その主役を演じた俳
優が中村敦夫さん(以下、敬称略)です。

紋次郎は旅の途中で悪を成敗するも、その場に居続けるのではなく、「あっしには関わりのねえこっ
てござんす」と言って、大きな網笠を被りぼろぼろの合羽を羽おり、楊枝をくわえて立ち去ってゆく
ラストシーンは、一世を風靡したあまりにも有名なシーンです。

中村は1940年の生まれ、今年で78才。敗戦時には4~5才、戦争の記憶がある最後の世代です。彼は
疎開先でB29爆撃機が飛来すると防空壕に飛び込む、危機感の中ですごしたという。

その中村が、「関わりのねこって」どころから、小説を書き、司会者、ニュースキャスターを務め、
1998年(平成10年)から6年間、国会議員(参議院議員)として活躍するなど、現実と正面からぶつ
かる濃密な関わり方をしてきています。

中村は『日刊ゲンダイ』のインタビューを受けて現代日本、とりわけ政治に怒り、これを鋭く批判し
ています。その内容は後で書きますが、このインタビュー記事の人物紹介があまりにも興味深いので、
少し長くなりますが、以下に引用します(『日刊ゲンダイ』2019年2月1日号)。

中村は東京外国語大学のインドネシア語科を中退(“インドネシア語科”がいいですね)し、そのこ
ともあって『ジャカルタの目』などの小説を書いています。

最近では2017年から反原発の一人朗読劇『線量計が鳴る』を全国公演中で、後で触れるように大好評
です。

また菅官房長官(?)をパロディーにして日本の改憲を笑い飛ばした新作喜劇『流行性官房長官―憲
法にかんする特別談話―』(KADOKAWA『憲法についていま私が考えること』に収録)を書いています。

この喜劇について中村は「日本は民主主義でも独立国家でもないのに、間違った前提で議論が進んで
いることを描く不条理演劇です」と語っています。

つまり、「日本は民主主義でも独立国家でもないのに」そのような「フリ」をして議論をしているこ
とが「不条理」だと言っているのです。これは、なかなか思い切った発言で、一般の俳優やタレント
にはなかなか言えません。

しかし、彼のインタビュー記事を読んでみると彼の現代世界と日本に対する批判は決して思い付きで
はなく、現実を冷静に見つめた筋の通った思考から発していることが分ります。

インタビュー記事の見出しにしたがって整理すると、全体のタイトルが「おいおい経済成長ってオイ
チョカブかよ!」となっており、中身は4つの部分から成っています。

第一は、「平成の次は大混乱の恐ろしい時代へ」です。ここで彼はこれまでの日本を大まかに、昭和
は侵略戦争、太平洋戦争、経済復興、バブル経済と、激動の時代と位置付けます。

戦争で行犠牲を払ったけど、先進国に追いついていく時代。ところが昭和の終わりくらいから、それ
までの経済成長のあり方、資本主義の行方が怪しくなってくる。つまり、オーソドックスなモノづく
りから金融経済にシフトしてゆく。

その結果、平成になると、世界を操る権力構造が変わり、資本はグローバルになり、金融中心となる。
そして、国籍そのものが重要性を失い、多国籍化したものに権力がシフトしていく。

ところが、ここで奇妙な現象が起き始めています。トランプ政権下では、金融の覇者、米国が一国主
義を唱えているのです。

これにたいして中村は「そう、私は平成の後半の特徴は、金融中心のグローバルな資本主義も崩壊し、
世界中が混乱していく過程に入った」と考えます。

政治的にはナショナリズムが台頭し、反グローバリズムを叫ぶ勢力が強くなってきている。

これは明らかに矛盾です。「資本主義を肯定しているのであれば、グローバリズムに行き着くしかな
いのに、何をいっているのか。それじゃあ、昔の資本主義に戻れるかというと、もう戻れませんよ」。

平成の時代を「恐ろしい時代」と規定する感覚は、このブログでも取り上げた、経済同友会代表幹事
の小林氏が、「平成の30年は敗北の時代」と言った認識と奇しくも一致しています。

第二点は「高速道路を逆走しているような時代錯誤を感じる」という彼の見解です。

インタビュアーの、資本主義は成長拡大するものだという前提でもがいているが、日本は成長戦略と
いって、原発輸出にシャカリキだったが、失敗した、との指摘に次のようにコメントしています。

安倍政権は経済成長を神のように崇めているが「内容がないんですよね。いろんなことをブチあげて
いますが、どれも不成立でしょう。金融政策で株が上がっただけで、いつ崩れるか分からない、バク
チ経済です」。

実体経済で売るものがないから原発でも輸出するかということになるが、「自分の国で始末に負えな
いものを他国に押し付けるなんで商道徳に反しますよ。しかもことごとく失敗、破談じゃないですか。
残るのは大阪万博にからめたカジノ構想ですか?おいおい、経済成長ってオイチョカブと同じかよっ
て。そういう貧しい発想でしか経済を捉えていないんですね」。

中村の世界認識の鋭さは、安倍政権が、「いま、人類はどういう時代に突き進んでいるか、という認
識が決定的に欠如していて、高速道路を逆走しているような時代錯誤を感じます」。本当に、“言い
得て妙”とはこのとこです。

第三は、「経済至上主義を止めなければ破滅の道」です。中村は『簡素なる国』という本も出してい
ますが、そこで「小欲知足」(欲望を抑えて充足を知る)が重要になります。

というのも、このまま「大きいことはいいことだ」という経済哲学が膨らんでいったらパンクするに
決まっている。そこで「小さいことこそ、よいことだ」という逆転の発想が必要となる。

経済至上主義は、貪欲を限りなく推奨し、経済成長を追求するが、資源も環境も有限だから、このま
ま続けばゼロになってしまう。

これまでどういう時に経済成長したか。一番手っ取り早くて効果があるのは戦争だ。戦争は一時的に
経済を救う。「米国は戦争を続けることで成長を確保しているし、そもそも戦争は経済政策なんです
よね」と、本質を突いた指摘をしています。

経済成長がもたらすもう一つは環境破壊です。環境破壊をやったら終わりなのに、核兵器と環境破壊
で人類は滅びる運命にある。「このまま拡大経済を神として崇めていったら終わりです。いや終わっ
ていて、だからバカなことをいう指導者が、各国で出てきているでしょう。バカの行く先は大変です
よ。必ず悲劇になります」。

彼は反原発の朗読劇『線量計が鳴る』を全国公演していますが、「凄いですよ。4月いっぱいまで公
演が詰まっています。4月末までに70回くらい上演できる」と予想しています。国民は、ひそかに
悲劇を予感しているのでしょう。

中村は行動する表現者・芸術家です。しかも、並の政治家よりも大きな影響を人びとに与えています。
彼がこのような活動をするには、政治家としての過去の過去の経験があるからです。

第四は「政治家の9割は選挙活動が就職活動」。本当は政治家が頑張らなくてはダメなのに、議員に
なって分かったことは、政治家は与野党とも、みんな就職のために議員になるんだということだった。

原発の危うさはわかってはいても、票にならないから反対しない。逆い票になるなら何党でも構わな
い、次に当選できるのであれば、どこでもいい。「そんな議員が9割ですよ」と実感を込めて言う。

私もまったく同感です。実際、現職の世襲議員をみると、政治信条のために政治家になっているとい
うより、家の「家業」として親の地盤、看板、鞄(金)を相続している場合が珍しくありません。

これでは、日本の政治は良くなるはずはありません。せめて同一選挙区での世襲は二世まで、三世以
上は認めない、程度のルールは必要だと思います。

インタビュー全体をとおして感じたことは、中村敦夫という人物の懐の深さ、表現者としての抜群の
才能と行動力、問題の本質を突く透徹した視線です。

とりわけ、資本主義を肯定するならグロ-バリズムは当然の方向なのに、反グローバリズムを叫ぶこ
との矛盾に指導者も国民も気づいていない、との指摘は鋭いと思います。

こうした発想から自国第一主義に走り、露骨にナショナリズムを煽ることには危険を感じます。

もう一つ、日本は「民主主義でも独立国でもないのに」という指摘は、口には出さなくても、多くの
国民が感じていることではないでしょうか。

森・加計問題における政治家と官僚の忖度関係、統計の改ざんなどをみていると、このブログでも書
いたように、本当に日本は民主主義の国と言えるのか、疑いたくなります。

そして、米軍機が我が物顔に日本の空を飛行し、飛行訓練の回数や時間についての申し合わせを破っ
て夜間訓練をしたり、米軍基地のために辺野古の海を埋めさせたり、米の軍人が犯罪を犯しても、日
本側に裁判権がほとんど与えられていないなど、日本は本当に独立しているのか、国民は心の奥底で
本能的に感じ取っているのではないでしょうか。

私は、今回のインタビュー記事を読んで、気が付かされたことも多々ありました。中村敦夫氏の今後
の活躍に期待しています。






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