大木昌の雑記帳

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厚労省の統計不正―これでも日本は近代国家ですか?―

2019-02-03 07:43:20 | 政治
厚労省の統計不正―これでも日本は近代国家ですか?―

一体、日本の政界・官界はどこまで腐敗してしまったのだろうか、という深い落胆を感じます。

私たちはすでに、森友・加計学園問題を通じて、官僚の文書改ざんや証拠の隠滅について、うん
ざりするほど聞かされ見せられてきました。

政権や官僚はその都度、「調査中」「隠蔽、改ざんの意図はなかった」と繰り返してきました。

今回の厚労省の統計改ざんについては後で触れますが、昨年だけでもデータ偽造は、裁量労働制
をめぐる厚労省の調査データの(意図的)誤り、28の中央省庁機関による障害者雇用数の水増
し、失踪した外国人技能実習生に対する法務省調査の、意図的とも思われる隠蔽と過小評価問題
など、次から次へと統計データに関する、「捏造・隠蔽疑惑」が噴出しました。

そして、今回の「毎月勤労統計」は、政府の諸統計の中でも「基幹統計」といわれる、非常に重
要な統計です。「毎月勤労統計」は、自業所ごとに労働者がどれほどの時間働き、いくらの収入
を得ているかを、実際に事業を訪れて調査した結果を集計するものです。

「毎月勤労統計」は雇用保険や労災保険の金額算定の基礎データです。もし、その基礎データが
実際より低く抑えられていたら、当然ながら雇用保険や労災保険という、不幸にして職を失った
り労働で災害を受けて働けなくなった人たちの、最後の拠り所、本来支払うべきセイフティー・
ネットが「値切られて」しまうのです。

この意味で、この調査と数字が不正にねじ曲げられたとすると、その影響は、他の不正とは比較
を絶して大きな影響があります。

東京都の場合、500人以上の雇用者を抱える大手企業の労働実態について、全ての企業の調査
を行うことが義務付けられています。

しかし、実際には2004年以来、全数調査ではなく、その3分の1のサンプル調査しか行って
いなかったことが明らかになりました。それは、全国平均を高い賃金水準が想定される大手企業
の全数調査と行うと、平均賃金が高くなり、その分、雇用保険や労災保険の支払いが多くなって
しまいます。

厚労省は、これらの支払いを低く抑えるため、とは口が裂けても言わないと思いますが、実際に
何が起こったかといえば、保険対象者の受取金が本来もらうべき金額より少なくしか支払われて
こなかったのです。

ではどれほど人がどれほどの金額をもらい損ねたのかと言えば、これまでの累計で2000万人
以上、金額はおよそ600億円と見積もられています。

さらにとんでもないことに、この問題の処理(調査のし直し)のための事務処理費が195億円
もかかるのです。

この事務費も、私たちが払った税金から支出されるのです。もし、この事務処理を厚労省の職員
が残業のような形で行うとすれば、まるで「焼け太り」のようです。

なぜ、厚労省のいい加減な調査の後始末の事務処理費まで私たちの税金が使われるのかを考える
だけでとても腹が立ちます。

今回のデータ改ざんに関しては、金額の問題だけではありません。

この「毎月勤労統計」は、たとえば政府の政策の結果を客観的に評価する際に、果たして実質賃
金は上がったのか下がったのか、残業などの労働時間は増えたのか減ったのか、などを判断する、
最も重要な基本統計の一つなのです。

1月30日、厚労省は2018年の実質賃金が実際にはマイナスになる可能性があることを始め
て認めました。これまで、この年の実質賃金の伸び率として公表された1月から11月分のうち、
プラスは五か月であったが、専門家が実態に近づけて試算したところ、プラスはわずか一か月だ
けで、厚労省発表のマイナス0.05%より大幅なマイナスで、マイナス0.53%、通年でも
前年を下回っている見通しとなりました。

細かくみてゆくと、厚労省が最も大きく伸びたとしている6月(2%の上昇)も、計算し直して
みると0.6%の伸びにすぎなかったのです。

           
     『東京新聞』2019年1月31日』より

この日、野党によりヒヤリングで、統計問題にくわしい明石順平弁護士による試算を野党が提示
したところ、厚労省の屋敷次郎大臣官房参事官は「(厚労省が試算した場合にも)同じような数
字が出ると予想される」と認めました。

それでも安倍首相は、過去5年間、実質賃金が上昇していると、国会で強弁しているのです。

この問題は、厚労省が18年度に賃金が伸びやすいよう企業を入れ替え、実際に伸び率が課題に
なったためでした(『東京新聞』2019年1月31日)

もし、このような実態がこれまでも続いていたとすると、今年の10月から消費税10%の値上
げが可能かどうか、また妥当かどうか、に大きな疑問符が付きます。

また、政府はアベノミクスにより、まず企業収益が増大し、その一部が働く人たちに滴り落ちで、
景気が上昇する「好循環」が働いてきた、と言い続けてきましたが、そんなことは起きてこなか
ったことが証明されました。

自民党の厚生労働部会に出席した総務省の担当者は、従業員500人以上の事業所を全て調べる
ことを義務付けているのに、総務省に届けることなく勝手にサンプル調査で済ませてしまったこ
とは、統計法違反の疑いがある、と指摘しています(『東京新聞』1月16日)。

今回のデータねつ造ともいえる不正は、調査方法だけではなく、その調査を監査する「外部有識
者」から成る特別監査委員会なる組織にも大きな問題があることがはっきりしました。

この監察委員会の委員長の樋口美雄氏は厚労省所管の労働政策研究・研修機構理事長で、労働政
策審議会(厚労相の諮問機関)の会長などを務める、いわば厚労省の「身内」です。

監察委は設置からわずか6日後の22日に中間報告書を取りまとめ、不正調査の動機などに関す
る検証は終結すると表明しました。

そして、1月22日に発表された特別監察委員会による中間報告では、延べ69人からヒアリングした
ことになっていましたが、閉会中審査での質疑によって実数は37人だったこと、しかも、身内で
ある厚労省職員がヒアリングを行っていたこと、厚労省の官房長が同席したことが明らかになり、
与野党から「身内によるお手盛り調査」と批判を集めました。また、直接に出向いて調査するの
ではなく、郵送で済ませてしまったことも明らかになりました。

中間報告書そのものについても、厚労省の事務方が深く関与していたことも発覚し、監察委員調
査の中立性は完全に失われたことになります。

しかし、この委員会の委員長の樋口氏は、中間報告に結果から組織的な隠蔽や捏造はなかった、
と結論付けています。

ところが、30日の委員会の会合で、委員の中から「複数の職員が不正を認識しながら長期的に
放置してきました。組織的な隠蔽があったと認めるべきだ」との発言が飛び出したという。

このような時、「外部有識者」とか「第三委員会」など、あたか客観的な目で調査をし、評価す
るような印象を与えます。しかし、政府が設置するこのような委員会は、政府が望まない結論を
出しそうな委員長は選ばないので、最初から結論は決まっている場合が多いのです。

ところで、今回明らかになったデータ不正がもはや隠せない状況になると、担当の根本匠厚労相
は、まるで他人事のように「職員の意識向上やチェック体制の強化が必要」と言いい、菅官房長
官は「甚だ遺憾だなど陳謝したものの、一連のデータ不正は「書き写しなど単純ミスが多かった
が、それでもあってはならない」とコメントしています。自民党も一斉に厚労省の批判に走りま
した(『東京新聞』2019年2月1日)。

しかし、国民は彼らのこうした言葉を聞いて素直に受け取ることができるだろうか。

官僚からみれば、時の政権が求める数字を忖度して、いろいろ工夫して作り上げただけなのに、
との思いがあると思われます。

ところで、2007に発足した統計委員会の初代会長の竹内啓氏は、statisticsという言葉には
“state”、つまり「国家」と言う意味と、「状態」という意味があり、正確な統計は国家運営
にとって基礎であること、しかし、統計専門職員を養成せず、むしろ減少していることに警告を
発しています(注1)

では現実はどうかというと、2004年には国の統計に従事する職員は6247人でしたが、小
泉政権下から急速に減少しはじめ、2018年4月には、なんと1940人まで激減しているのです
(『報道ステーション』2019年2月1日)。

なお、偶然かどうか分かりませんが、厚労省の「毎月勤労統計」不正が始まったのも小泉首相が
竹中平蔵内閣府特命担当大臣とともに日本経済の「聖域なき構造改革」と国の赤字削減を断行し
始めた年でした。

今回のような官公庁によるデータ不正は厚労省だけの問題ではなく、何と22の基幹統計に不適
切な処理が行われていることが発覚しました。

このような実態を知ってしまった今となっては、もう政府が出してくる数字を信用することはで
きなくなりました。これは極端にいえば国民の多くが国家に対する信頼を大きく傷つけました。

近代国家は、正しく現実を国民に知らせ、そのために正しい統計は不可欠です。しかし、今回明
らかになったことで、私は、果たして日本は本当に近代国家といえるのだろうか、という暗澹た
る気持ちになりました。

私たちは、たとえば中国や、北朝鮮、ロシアの統計も信用できない、と言いますが、そんなこと
を言う資格はあるのでしょうか?

(注1)『毎日新聞』デジタル(2019年1月27日)
http://mainichi.jp/articles/20190127/ddm/041/020/081000c


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