大木昌の雑記帳

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放射線被ばくの疫学的調査不要?―明らかになる政府・専門家の不可解な言動―

2019-02-24 10:29:15 | 原発・エネルギー問題
放射線被ばくの疫学的調査不要?―明らかになる政府・専門家の不可解な言動―

最近問題となっている、厚労省の統計偽装疑惑は、官僚が政府の意向を忖度して、あるいは政府関係者の誰か
から指示されて、統計数字の偽造や改ざんが行われた可能性が濃厚となってきました。

官僚による文書の改ざんは、森友問題でも明らかになったように、官僚が自分の出世や保身のために自ら進ん
で、あるいは“上”の方からの指示により行われました。

官僚による文書や統計の改ざんではありませんが、「専門家」と称する人たちが政府の命を受けて問題を検討
し、政府に進言する「~委員会」、最近流行りの「第三者委員会」、さらに特定の研究機関が幾つもあります。

政府は、こうした専門家の報告や進言を根拠として政策の正当化をします。しかし、「専門家」や「第三者」
から成る委員会や政府から調査を委託されている研究機関の報告や進言には、予め政府寄りの結論が決まって
いる場合がしばしばあります。

今回、『東京新聞』(2019年2月18日)は、国の研究機関・放射線医学研究所(放医研)の明石真言理事の
政府への進言に不可解な点があったことを明らかにした。

2011年3月11日、東日本大震災により発生した東京電力福島第一原発事故の1か月後の4月11日に、放医
研理事の明石氏が福山哲郎官房副長官(当時)に、「住民の疫学調査は不要」と進言していました。

疫学的調査とは、ある健康被害の程度や原因を知るために地域や集団を対象として行う統計的な調査のことで
す。原発事故の疫学的調査では一般的に、多発が心配される甲状腺がんの患者数や分布を調べ、放射線被爆の
影響を分析します。

原発事故による放射線被ばくの健康調査は人の命かかわる深刻な問題であるのに、十分な調査をしないで、い
きなり「調査は不要」と進言したことは重大です。

今回、問題が発覚したのは、『東京新聞』が2011年4月26日に明石氏ほかの関係者が福山氏と首相官邸で
面会し、住民の被ばく調査について説明した会合の議事概要を情報開示請求で得たからでした。

それによると、この会合には明石氏の他に、西本淳哉・経済産業省技術総括審議官、伊藤宗太郎・文科省災
害対策センター医療班長、塚原太郎・厚労省厚生科学課長(いずれも当時)も同席していた。つまり、関係
三省の代表が会合に参加していたのです。

経済産業省の幹部(西本氏?)が、「論点として疫学調査の必要性の有無があろうが・・・」と切り出すと、
明石氏が「住民の被爆線量は高くても100ミリシ-ベルトに至らず」したがって「(疫学調査は)科学的
に必要性が薄い」と述べていました。

ところが福山氏は、「(疫学調査は)大切なことなので進めて欲しい」と返したことが記録されています。

しかし内部文書には、国の他の主要機関が早々と「放射線被害は出ない」との判断が記されています。

国の公表資料や明石氏らの説明によれば、甲状腺の内部被ばくで100ミリシーベルトを、がんが増える
目安にしていた。国が11年3月下旬に行った測定では、そこに達する子どもがいなかったため、「被爆線
量は小さい」「健康調査を行うまでもない」と判断されてきたようだ。

しかし、ここで「国」(実施主体は放医研?)の測定は、対象地域が原発から遠い30キロ圏外で、しか
も、本来広範囲の住民を対象にすべき疫学調査であるにもかかわらず、実際に調査委したのは1800人
にすぎなかったことも明らかになりました。

こうなると、明石氏の「必要性が薄い」という根拠はほとんど正当性を失います。

明石氏は、「必要性が薄い」ということを政権の中枢の官房副長官に進言したことについて「私の意思で
伝えに行ったのではない」と言っています。では、いったい誰が官房副長官に伝えに行けと言ったのか、
との(『東京新聞』の)質問にたいして明石氏は名前を挙げませんでした。

このことが、明石氏の行動と発言の背景をはからずも語っています。容易に想像できるのは、それが原発
を維持・推進しようとしてきた経産省なのか官邸なのか、東京電力なのか、そして具体的な個人名までは
分かりませんが、そこには原発事故の影響をできるだけ小さく見せようとする何らかの「力」が働いてい
た、ということです。

さらに驚くことがあります。明石氏の進言に先立つ2011年4月上旬には、経産省が国会答弁用の資料
で「放射線量が増加し始めた頃には避難完了」と記しているのです。

また、経済産業省中心の「匿名班・原子力被災者生活支援チーム」は、「今般の原子力災害における避
難住民の線量評価について」というタイトルの文書で、避難者の甲状腺内部被ばくを調査せずに、原発
正門近く近くに居続けても「線量は1・1ミリシーベルト程度」と説明し、この間に避難すれば「線量
は相当程度小さい」「健康上問題無いとの評価を提供可能ではないか」とまとめています(『東京新聞』
2019年。2月11日)。

放医研は同年5月上旬には「住民は障害の発生する線量を受けていないと推定される」と記した文書を
作成していました。

同じころ、放医研(明石氏?)は文科省の副大臣だった鈴木寛氏への説明で、「住民への放射線影響は
科学的には問題とならない程度」と説明していました。

つまり、明石氏の進言の前後、事故対応の中心だった経産省、医療対策を担う文科省、厚労省の間で、
放射線被害について「結論ありき」が蔓延していたようだ(『東京新聞』2019年2月18日)。

ところで、明石氏が100ミリシーベルト以下だから疫学調査は必要ない、としていますが、これも大
いに問題です。

日本政府は2001年に発生した茨城県東海村の原子力発電の臨界事故の翌々年、原子力安全委員会で
は防災体制の見直しを進めていました。

当時、アメリカ、ドイツ、ロシアでは、かんが増える被ばく量を50ミリシーベルトとしていました。
このころ委員会のメンバーだった鈴木元氏は「がんは50ミリシ-ベルトでも増える」と考え、この
値になりそうな場合は甲状腺がんを防ぐために安定ヨウ素剤を服用するという手順を提案しようとし
ていました。

鈴木氏の提言は、年末に事務局が示した提言書に「50ミリシ-ベルト」が盛り込まれました。

ところが二週間後の上部会合の被ばく医療分科会で突然、服用基準から50ミリシーベルトが削除さ
れ、100ミリシーベルトにかさ上げされていたのです。

鈴木氏はこれに反発しましたが、そのまま2002年4月にまとめられた提言では100シーベルト
とされてしまいました。

ちなみに、国際放射線防護委員会(ICRP)の平常時の限度は「年間1ミリシーベルト」となって
います。日本の法律では、職業的に放射線を扱う人の年間被ばく量の限度を50ミリシーベルト、5
年間で100ミリシーベルト、一般人は年間1シーベルトと上限が定められています。

これらの数値を考えると、放射線被ばくが健康被害(とくに甲状腺がん)を防ぐためにヨウソ剤の服
用を含む何らかの防護措置をとる100ミリシーベルトに引き上げたということが、いかに住民の健
康を無視した措置であるかがわかります。

原安委の別の会合の議事録を見ると、ヨウ素剤検討会に名を連ねた前川和彦東大名誉教授が一連の経
過に触れ、「行政的な圧力に寄り倒された」と述べたことが記されています。
これが、実態なのです。

しかし、放射線被ばくの危険性を小さく見せようとした組織や人物は、さらに広範囲におよんでいた
ことが、今年2月24日の『東京新聞』で明らかになりました。

事故直後の2011年3月28日当初、福島県立医科大学理事長(菊池臣一)は「健康調査は県医大
の歴史的使命。狙いは小児甲状腺がんの追跡調査なお。県民からの怒りの前に体制を整える」と、被
災者本位の発言をしていました。

ところが副学長の安倍正文氏は4月19日に「広範かつ長期被ばくの影響に関する調査や研究を行い、
診療や治療に結びつける。理事長の言葉を借りれば、これは本学の歴史的使命」と発言しました。

一見、両者の見解は同じようですが、「甲状腺がん」と「長期被ばく」とは決定的に異なります。

甲状腺がんを引き起こす放射性ヨウ素は内部被ばくをもたらすが、その半減期は8日と短いため、
事故直後の迅速な調査が必要です。これに対して長期被ばくは、半減期が長い放射性セシウムが土
壌や森林などに残ってもたらす外部被ばくを指します。つまり、県医大は、住民がもっとも恐れて
いた小児甲状腺がんの調査は行わない方方針にスタンスを変えたのです。

すでに述べたように、経済産業省中心の「匿名班・原子力被災者生活支援チーム」が「線量は相当
低い」、また、放医研の明石氏が「住民への放射線影響は科学的には問題とならない程度」「科学
的に必要性は薄い」と説明していました。

このような状況の下で、公益財団法人「放射線影響研究所(放影研)」の大久保利晃理事長は、大
学、研究機関から成る「放射線影響研究機関協議会」の会合(4月27日)の席上、「現在のレベ
ルで健康影響がないことはその通りだが、影響がないからこそしっかりとした研究すべきだ」と述
べています。

この言葉は、住民の立場に立った発言に聞こえますが、そうではありません。放影研の主席研究員
の児玉和紀氏は、健康調査を行うことで、「この程度の被ばく線量では甲状腺がんが増えない結論
が導かれる可能性がある」「調査の目的は他にもあり、(補償などの)訴訟で必要となる『健康影
響について科学的根拠』を得ることも含む」と発言しています。

つまり、住民の健康被害の実態調査というより、調査が裁判対策としても位置付けられています。

2016年末に「ふくしま国際医療科学センター」が発足し、現在でも調査・分析を続けています。
現在すでに発症している小児の甲状腺がんが発症にたいして外部の専門家が、被ばくによる甲状腺
がんの多発を疑うべきだと指摘していますが、同センターの会合では被ばくと発症の因果関係を認
めていません。

以上、福島の原発事故への対応から、原発事故の危険性をできるだけ小さく見せ、原発を維持・推
進しようとしている大きな「力」が働いていたことがはっきり分かります。

私たちの命にかかわる問題については、官僚や専門家は、あくまでも住民の立場から真摯に対応し
て欲しいと思います。

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2週間ほど前には関東地方では木にうっすらと雪が着きました。            しかし、その2週間後には、春の野草野蒜(のびる)が成長し
                                         春の味覚を味わうことができました
 


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