大木昌の雑記帳

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パンドラの箱を開けた安倍氏銃撃(1)―初期報道の異様さと違和感(その2)―

2022-08-04 09:02:44 | 政治
パンドラの箱を開けた安倍氏銃撃(1)―初期報道の異様さと違和感(その2)―

前回の記事では、安倍元首相銃撃に関する報道が、同じ映像とコメントの繰り返しと、
安倍氏の礼賛という内容になっていった、という点までを書きました。

これは、ある意味で当然であったかもしれません。容疑者は白昼、衆人環視の中で、
抵抗もせず逮捕され、同期もはっきり語っているわけですから、謎もないわけです。

そこで時間を埋めるためには繰り返し色々な人のインタビューを流さざるを得なく
なる。そうすると当然のこととして「安倍元首相を賞賛し、死を悼む声」ばかりが
集まることとなる。

なぜならいくら日頃対立関係にあろうと、安倍元首相のことが本音では嫌いであろ
うと、凶弾に倒れた直後にカメラに向かって彼を批判するコメントを語る人はいな
いからです。

すると意図しなくても、結果的に「安倍元首相を褒め称える」側面ばかりを強調す
ることになってしまいます。

このタイミングを考えると、参院選投票日の直前の選挙期間中であるから、こうし
た特性の政党の首相の死に関して「偏った意見ばかりを放送する」ことに、テレビ
局は一番気をつけなければならない時期のはずです。

さらに、「これまでの安倍元首相の足跡をまとめたVTR」にしても、編集に時間は
かけられず、慌てて編集したものだからどうしても内容は表面的な浅いものになっ
てしまいます。

この際、有識者などに分析してもらうようなインタビューをとることも十分にはで
きませんでした。

しかも、自身が元ニュースデスクであった鎮目氏によれば、こういう特番で振り返
りVTRを長時間放送することには「ライブ感がない」ということで、プロデューサ
ーなどにも抵抗感があるから、どうしてもVTRは短めになってしまうという。

その結果、「安倍元首相を誉めている内容」ばかりが目立つ数時間となってしまう。
これであれば、いっそ夕方のニュースや夜のニュースなどで、きちんと更新情報を
伝え、その間は通常編成の番組を放送したほうが良かったのではないかと鎮目氏は
思ったそうです。

安倍元首相の死は大ニュースだから、改めてきちんと後日特番を放送すれば良かっ
たのではないかという鎮目氏のコメントに筆者も同感です。

(4)各局揃って「喪服」はやり過ぎでは

そして最後に気になったポイントは、各局揃ってキャスターたちが「喪服」を着て
いたことです。

といういのも、安倍昭恵夫人ですらまだ喪服を着ていない8日の時点で、「各局横
並びでキャスターが喪服」だったことに、鎮目氏は若干の違和感をもったそうです。

鎮目氏の経験では、ニュース番組のスタイリストはどの番組でもほぼ必ず「色目が
地味なコーディネイト」と「喪服」を必ず用意している。

いつどんなニュースが発生するか分からないから、「派手な色味を避けるべきニュ
ース」が発生したら地味な衣装を、そして「喪服を着るべきニュース」が発生した
ら喪服をいつでも着られるように準備しているのです。

では、8日のニュースの場合はどう考えるべきか。果たして安倍元首相が殺害され
たというニュースが「派手な色味を避けるべきニュース」だったのか「喪服を着る
ニュース」だったのかという判断の問題になる。

一般論で言うと、通常、有名人が亡くなったからと言って「喪服」を着ることはニ
ュース番組ではまずない。では、多数の人が亡くなった場合などはどうか?例えば
最近で言えば「知床の遊覧船事故」の際にキャスターは喪服を着ていただろうか?
私の記憶では、多分着ていなかったと思う。

ニュース番組のプロデューサー経験者として鎮目氏は、喪服を着るのは例えば「追
悼番組」のような場合に限られるのではないか、あまり通常「ニュース番組でキャ
スターに喪服を着させる」という判断はしにくいのではないかと思う、と感想を述
べています。

8日のニュース番組の場合、どのような判断があって各局ほぼ「喪服」ということ
になったのか。なぜ「知床の事故では喪服ではなかったのに、安倍元首相は喪服だ
ったのか」を放送局関係者はどう説明するのだろうか。

そこで鎮目氏は、「みなさんの目には「横並びの喪服」はどのように映っただろう」
かと、問いかけます。

さて、テレビニュースの関係者として鎮目氏は「、「安倍元首相殺害事件報道」に関
する「気になったポイント」を提示しましたが、これらの4点に関して私たちはどの
ように受け止めたでしょうか?

田部康喜氏(コラムニスト)は、事件当日から3日経った7月11日のNHK番組「
クローズアップ現代」(7月11日)は、冷静かつ、安易な断定に踏み込まずに、事
件の背景に迫った、その後の報道の方向性の先駆となった優れた報道だと言える、と
高く評価している。

この段階になると、警察からの発表だけでなく、NHK独自の調査結果も加えて事件
の背景がさらに詳しくなる。

山上容疑者は「特定の宗教団体」に恨みがあり、安倍元首相がこの団体と近しい関係
にあると思い狙った、というところまでは直後の報道でも伝えられましたが、それ以
上のくわしい背景は分かりませんでした。

ところがNHKは、「特定の宗教団体」が旧統一教会(世界平和統一家庭連合)であ
ること、母親が統一教会にのめり込み、多額の寄付をするなどして家庭生活がめちゃ
くちゃになったことを報じました。

そして取材班は、山上容疑者の父親は建設会社を経営していた。そのあとを継いだ、
母親が世界平和統一家庭連合に入信、2002年に破産したことから、母親の教団に対す
る巨額の寄付が破綻の原因ではないかと推察しています。

メディアの事件報道は、短時間の取材の瞬発力と、日ごろからの準備ともいえる取材
活動にあります。

取材班は、教団の元信者と、山上容疑者の母親が通う「奈良教会」の信者の証言を得
ました。そこで「侍義生活ハンドブック」という、教団の信者向けの文書を入手し、
収入の10分の1を献金するようにうながす記述をまず明らかにします。

そして、取材班は「山上容疑者の母親の名前はときどき出てくる」という、同じ教会
に通う男性信者からつぎのような言葉を引き出しました。

「わたしも両親も多額の献金といえば、家を1軒売るぐらいの献金をしてきた。田ん
ぼとか家、屋敷、みんな抵当に入ったりして。二束三文になるわけですよ。それでも
やっぱり教会のことだから、2000万、3000万は出していたんじゃないですか」。

また、元信者の女性は、両親が信者であるという。彼女自身が、6年間で献金と印鑑
の購入などで約500万円を教団のために費やしたという。

「わたしたちの家庭は平和になれるからと親が本気で信じていて、自分の生活費とか
学費とか、そういうところも全部献金につぎ込んでしまう」

「親と信じるものが違うって、こんなにつらいんだって、自分じゃどうしようもない
ことと思う」
 
さらに、この元信者は、山上容疑者の母親が信者であることと、自分の境遇が似かよ
ったものであることから、いわれなき誹謗、中傷にこれからさらされるのではないか、
とおびえています。
 
「犯人(山上容疑者)の供述がまるで、自分の周囲で起きていたこと、周りの人たち
が経験してきたこととまるで同じことを言っていて。それがとんでもなく苦痛です」、
 「山上(容疑者)がやった暴力は絶対断固として認めない。

どんな立場であろうが。非難という言葉じゃ、表せないほどの強い憤りを犯人に感じ
ています。これはわたしだけではなくて、こうやって苦しんでいるわたしたちのよう
な境遇の人たちにも共通する意見です」と、元信者の苦悩をも伝えています)。

興味深いのは、山上容疑者が凶行に及んだひとつのきっかとなった、「安倍元首相の
ビデオメッセージ」と報道している。やはり、実物を見せることも映像報道の神髄で
です(注3)。

作家の平野啓一郎氏は、メディアには事件直後から安倍氏を礼賛する報道があふれる。
本来ならさまざまなことを切り分けて考えていくべきなのに、全てがないまぜになっ
ている、と懸念しています。

「容疑者がなぜ事件を起こしたのかを冷静に見ることが大事です。その過程で、なぜ
この団体が日本で拡大したのか、そこに政治の関わりがあるなら検証することを避け
て通ってはいけない。しかし、徹底した真相究明が必要という声はとりわけ与党の政
治家からは上がっておらず、論点のすり替えが起きているのが実情です」、と今回の
事件の政治的背景があいまいにされそうなことに、危惧を提出しました(注4)。

平野氏が抱いた危惧こそが、安倍元首襲撃が開けてしまったパンドラの箱の中身、つ
まり政治と宗教との関係で、これがこの事件の第二幕となります。

                      注
(注1)NHKWeb ニュース 2022年7月9日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220709/k10013709001000.html
(注2)『現代ビジネス 電子版』(2022.07.09 )
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/97303?imp=0
(注3)『MAG2 ニュース』(2022.07.29)https://www.mag2.com/p/news/546917
    新恭のコメント
(注3)WEDGE ONLINE 2022年7月21日 https://wedge.ismedia.jp/articles/-/27337
(注4) 『毎日新聞』デジタル( 2022/7/24 16:00 最終更新 7/24 16:00)https://mainichi.jp/articles/20220724/k00/00m/040/027000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20220725





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