大木昌の雑記帳

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平成とはどんな時代だったか(2)―成熟なき老化と「政治の失敗」―

2019-05-05 06:52:03 | 社会
平成とはどんな時代だったか(2)―成熟なき老化と「政治の失敗」―

前回は、四人の識者による総括を手掛かりに平成の30年がどんな時代であったかを考えました。

特に、経済に焦点をあててのコメントを求めたわけではないのに、期せずして、四人ともバブル
崩壊以降の「経済の失敗」「経済の後退」を指摘しています。

「経済の失敗」と表裏一体の関係で平成の30年は「政治の失敗」が続いた時期でもありました。

平成が始まった年の暮れ、米ソ(現ロシア)の首脳がマルタで会談し、冷戦の終結を宣言しまし
た。これと時を同じくして、グローバル経済も始まりました。

この頃日本ではリクルート事件が起きて自民党が下野し、細川政権が誕生しました。

当時は政治改革熱の真っただ中にあったのに、冷戦の終わりに何をすべきか、という認識が著し
く欠けていた。そのツケが平成の政治を実りないものにした。田中秀征氏(注1)は、その理由
を次のように述べています。
   世界の大変動に合わせて日本の針路を考える好機だったのに、前向きな議論はせず、関心
   の中心は小選挙区制の導入で、逆に政治劣化を招いた。30年たっても日本は国際社会で
   どんな役割を果たすのか、少子高齢化の中でどんな社会を築くのか、新時代の進路につい
   て国民の多くが合意するような政治の方向性を打ち出せないでいる(『東京新聞』2019年
   4月30日)。

全く田中氏の指摘どおり、日本は内政においても、日本は国際社会の中で方向性を見失ってしま
いました。

日本はバブル経済崩壊後の後始末に追われ、技術革新や投資など、前向きな施策が遅れてしまっ
たのです。この状況の中で政治を劣化させる動きがさらに進行します。

選挙で必要な地盤(組織)、看板(知名度)、カバン(資金)、を政党から供給され、政治家と
して鍛えられないまま、国会に出てくるようになった。党に異を唱えることもない。自分の党と
闘えない政治家は政治家じゃないね。政治家は小選挙区で勝つことに目を奪われ、長期的な課題
にとりくまなくなった。日本の針路を示せない要因の一つである(同 上記の『東京新聞』)。

とりわけ安倍晋三政権下(2006-2007年、2012年から現在まで)で、安倍一強体制ができ上がっ
てしまい、政治・行政が安倍政権の官邸支配の下に置かれるようになってしまいました。

小選挙区制の下で、国会議員(候補者)は選挙での公認を得るため、議員となれば大臣その他
の重要ポストに就かせてもらうため、安倍政権の意向に逆らうことができない状況にあります。

それだけでなく、行政機関(各省庁)の幹部(官僚)も官邸によって任命されるようになった
ため、安倍首相の意向に反する言動はせず、むしろ進んで意向に沿うように行動する、つまり
「忖度」するようになってしまいました。

こうした背景の下で、「モリカケ」問題のような、」が発生し、本来国のために働く官僚が、
安倍政権のために文書の改ざんまでしているのです。これは、日本国民に対する重大な裏切り
行為です。

反面、国民は政治家の言葉を信用しなくなってしまいました。安倍首相は、ことあるたびに、
「住民の皆様の声に真摯に耳を傾ける」と言いつつ、たとえば沖縄の辺野古新基地建設に関し
て、沖縄の住民は知事選と県民投票と、補選で3度も「ノー」を突きつけたのに、まったく耳
を傾けることなく、「粛々と」工事を続けています。

次に、国際社会の中で日本はどのような役割を果たすべきか、を考えてみましょう。

それは、端的にいえば安全保障面でアメリカとの連携と一体化を強化し、そのための法制化を
整備し続けていることです。

具体的には、外国の戦争に参加できるようにする、集団的自衛権の行使を可能にする、いわゆ
る「集団的自衛権容認」の閣議決定(2014年7月1日)、そして安保関連法案の参議院での強
硬採決(2015年9月19日)は、戦後の安全保障政策の大転換でした。

しかし、これらの安保関連法制は、戦争の放棄、国際紛争の解決のための戦力の保持を禁止す
る憲法9条に抵触する可能性が極めて高いのです。事実上の、9条の無効化でした。

しかし、このような重大な政策変更を、憲法改正の手続きを経ず、閣議決定と強硬採決で決め
てしまったのです。これも、安倍一強の表れでもあります。

また、最近では敵基地攻撃可能な巡行ミサイルを持つとか、事実上の空母とか、イージスアシ
ョアーのようなミサイル防衛レーダーシステムとか、「専守防衛」ではなく、積極的に戦争行
為に突入しかねない軍備に巨額の国費を費やしています。

加えて、直接的な軍備ではありませんが安倍政権は、特定秘密保護法や共謀罪など、国民の知
る権利や思想・行動の自由を抑制する可能性がある法律を次々と通過させました。

さらに、それまで国是とされてきた武器輸出禁止三原則は「防衛装備移転三原則」という名称
に変えられ、実質的に武器輸出が大幅に緩和されました。

こうした一連の法制度の変更に関して、党内で活発な議論が展開されることもなく、まして反
対意見などがでることもなく、首相の思い通りに進められたのです。

安倍首相が推進する、安全保障政策の背景には、日本は軍事的にも「強国」でなければならな
い、という民族主義的思想がある一方で、アメリカからの圧力・要請に積極的に応えるという
姿勢があります。

安倍首相は、とりわけトランプ氏が大統領になってからは、傍目にも恥ずかしくなるくらい、
トランプを持ち上げ、こびへつらうような言動をしています。

記憶に新しいところでは、ノ-ベル平和賞にトランプ氏を推薦したり、先の中間選挙では、ト
ランプ氏の共和党が、上院では現状維持でしたが、下院では逆転されたにもかかわらす、「歴
史的な勝利おめでとうございます」と言って、現地のメディアからも嘲笑されています。

また、4月26日のワシントンでのトランプ氏との会談の際には、メラニア夫人の誕生に出席
し、昭惠夫人が手作りのお茶をプレゼントしたり、新天皇の即位後の最初の国賓としてトラン
プ大統領を招待することを約束するなど、トランプ統領への「抱き着き外交」を精一杯演じま
した(注2)。

他方、アメリカからの武器を、予算が厳しい状況にもかかわらず、アメリカの言い値で、とん
でもない額(来年度予算で5兆円超)を購入することを決定しています。

そして、おそらく現在進行中の貿易交渉(物品だけでなくサービスや関税などを含む総合的な
貿易交渉 FTA)でも、大幅な譲歩を迫られ、理屈をつけて受け入れるでしょう。

安倍首相の外交は、「ジャパン・ファースト」ではなく「国際協調主義」でもなく、皮肉なこ
とに、愛国主義を標榜する安倍首相の言動は、トランンプ大統領と同じ「アメリカ・ファース
ト」のように見えます。

ある外務省幹部は正直にも「トランプ大統領を、どう気分よくさせるか苦心し続けている」と
本音を漏らしています(『毎日新聞』2019年4月30日)。

これに対して、党内から何の異論も出ませんが、これは安倍一強の結果です。

高村薫氏は、これまでの30年を振り返って、実に適切な評価をしています。
    世界は猛烈なスピードで変わり続ける一方、この国は産業構造の転換に失敗、財政と
    経済の方向性を見誤ったまま、なおも経済成長の夢にしがみついているのだが、老い
    て行く国家とはこういうものかもしれない。自民党の一党支配に逆戻りして久しい政
    治がそうであるように、この国はもはや変化するエネルギーがのこっていないのだ(
    『朝日新聞』2019年4月30日)

私自身の評価は、この30年間の日本は、経済的にも政治的にも、本当の意味で成熟すること
なくただただ、活力を失って「老化」した時代だった、というものです。

これから「老化」を防ぎ、活気を取り戻すためには、何よりも過去の成功体験(規格品の大量
生産で輸出を伸ばす)にしがみついている政治・行政や経済人には退場してもらう必要があり
ます。

そして、「変わる意志と力をもった新しい日本人が求められる。どんな困難が伴おうとも役目
を終えたシステムと組織を順次退場させなければ、この国に新しい芽は吹かない。伝統を打ち
破る者、理想を追い求める者、道の領域に突き進む者の行く手を阻んではならない」(高村氏、
上記の記事)。

(注1)田中秀征(細川内閣、橋本内閣で要職を歴任し、現在福山大学客員教授)
(注2)『朝日新聞』デジタル版 (2019年4月27日)
   https://www.asahi.com/articles/ASM4W2VCJM4WUTFK005.html?iref=pc_extlink

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滝のように咲き誇る藤の花                                よく見ると、本当に小さな手毬のように見えるコデマリ

 





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