大木昌の雑記帳

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北朝鮮問題(3)―安倍政権の対応は?―

2017-09-24 08:34:13 | 国際問題
北朝鮮問題(3)―安倍政権の対応は?―

9月に入ってから、北朝鮮のミサイルと核実験は、勢いがついたように続けざまに行われました。

9月3日には6回目の核実験が強行されました。北朝鮮中央テレビでは、今回のICBMに搭載可能な大きさに小型化に成功した、
と発表しています。

韓国やアメリカによる観測結果も、周辺でマグチチュード6.3の揺れを観測しており、これは水爆であることは、ほぼ間
違いないと発表しました。

ノルウェーの核研究機関(NORSA)によれば、この規模の核爆発は、120キロトン(1キロトンは、TNT火薬の爆発エネル
ギーの1000倍)に相当し、広島の15キロトン、長崎の20キロトンと比べても、比較にならないほどの威力をもち、
水爆であることは間違いない、との見解をしめしました。

安倍首相はこれに対して、「もし北朝鮮が核実験を強行したとすれば、断じて容認できず、強く抗議をしなければならない」
と官邸で記者団に話しました。

唯一の被爆国として、日本が核実験を非難することは、当然で、強く抗議すべきところです。

ただ、その抗議も、「断じて容認できない、」という決まり文句を繰り返すだけでなく、何か被爆国としての切実な表現を考
えて欲しいと思います。

すでに、前回の記事で書いたように、9月11日(日本時間12日)の国連安全保障理事会で、北朝鮮に対する制裁決議が行われた
3日後の15日の早朝、今度は長距離ミサイルが、日本の津軽海峡の上空を通過して、推定3700キロメートル飛んで太平洋に
落下しました。

この時、テレビ画面に「J アラート」(全国瞬時警報システム)が繰り返し映し出されました。

内容は、北朝鮮からミサイルが発射されたこと、外にいる人は安全な建物の中へ、家の中では窓から離れて、頭を低くしてくだ
さい、との警告と、不審な落下物があったら直ちに警察に通報するように、という要請です。

しかし、この「Jアラート」に関しては、幾つか疑問があります。

まず、ミサイルが発射されたことを知らせることは良いとして、この放送が流れたときには、既に日本の上空を通り過ぎていま
す(北朝鮮から日本の上空を通過するまで、せいぜい6~7分です)。

それに、もし、安全な場所に隠れようとしても、各家にシェルターでも持っていない限り、通常の木造家屋の場合、ミサイル、
およびそれが搭載しているかも知れない爆発物、から身を守る安全な隠れ場所はありません。

まして、家の中で窓から離れて、頭を低くかがむ姿勢をとって、少しは安全性がたかまるのだろうか?

さらに私が疑問に思ったのは、ミサイルはとっくに日本から数千キロ離れた場所に飛んでしまっているのに、列車を止めたり、
小学校を一時休校にしたりしたことです。

ミサイルの発射が失敗して、落下部があるかも知れませんが、それも、20分以上経てば、もうその可能性はありません。

ちなみに高度500キロ以上に達したミサイルの破片が日本の上空に落ちることは現実的にはあり得ませんが、洋上にいる船舶
には警告は必要です。その場合でも、安全な建物に隠れたり、部屋の窓から離れるなどは、意味のない警告です。

こうした、現実を冷静に考えるのではなく、各テレビ局が、政府の指示通り、無批判にJアラートを、危険が去ったかなり後まで、
繰り返し流していたのは、とても違和感をもちました。テレビ局には、政府から、そのように言われているのでしょうか。

政府は、この警戒画面をできるだけ繰り返し放送することで、国民の危機感を煽っているのではないか、それによって、日本を
軍事的に強化しようとしているのではないか、とさえ感じます。

一方、北朝鮮と国境を接し、常に攻撃の危険にさらされている韓国は、北朝鮮のミサイル攻撃にどう反応しているでしょうか。

韓国の『中央日報』(日本語電子版)は8月23日に韓国で行われた、北朝鮮のミサイル攻撃などを想定した退避訓練の際にも、
「ソウル駅前広場にいた人たちは、退避要領の通りに地下に下りていこうとする人はほとんどいなかった」と報じています。

朝鮮日報東京支局長の金秀さんは、日本の対応に関して次のようにコメントしています。

危機に備え訓練するのはもちろん重要です。しかし、断言はできませんが、はるかかなたに着弾するであろうミサイルのために、
学校を休校にしたり、電車の運行を止めたりするのは過剰反応に見えてしまいます。

金さんによれば、韓国にはリアルな危機感があるからこそ冷静にふるまうのにたいして、「日本がこの問題の直接的な当事者でな
いからではないか」と分析する。
 
金さんによると、現在の韓国と北朝鮮は休戦状態。言い換えれば「戦争が継続している」ということだ。本当に危機が差し迫った
状況になれば、韓国経済は、すぐに大きな影響を受ける。韓国の男性には約2年間の兵役義務があるが、それを終えた人でも予備
役に編入され、招集される可能性が出てくる。韓国の人にとって、北朝鮮の脅威や有事はリアルな日常の一部だ。そんな現実感が
あるからこそ冷静に行動するという(以上、『毎日新聞』2017年9月1日 東京夕刊より)。

ところで、安倍首相の北朝鮮問題にたいする姿勢は一貫して、圧力、それも「異次元の圧力」を加えるというものです。

これが、もっとも端的に表現されたのは、現在行われている国連総会でもスピーチです。

9月19日の、国連総会におけるトランプ米大統領が一般討論演説で核実験などを強行した北朝鮮を世界共通の脅威と非難し、米国が
自国や日本など同盟国の防衛を迫られれば「完全に破壊」するしか選択肢がなくなると、強い調子で警告しました。

一つの主権国家を「完全に破壊する」という表現は、いくら脅迫的な表現であるとはいえ、言い過ぎでは成りだろうか。

このトランプ演説を受けて、翌ジ、安倍首相は、トランプ氏を上回る激しい口調で、北朝鮮が繰り返す核実験とミサイル発射につい
て、「(核)不拡散体制は史上最も確信的な破壊者によって深刻な打撃を受けようとしている」と批判しました。

また、「対話とは、北朝鮮にとって我々を欺き、時間を稼ぐため、むしろ最良の手段だった」、北朝鮮に対する11日の安全保障理
事会決議の採択後もミサイルが発射された事実を踏まえ、「決議はあくまで始まりにすぎない。必要なのは行動だ」とも強調しまし
た(注1)。

安倍首相は、自国と同盟国が危機にさらされれば軍事オプションも辞さない、北朝鮮を「完全に破壊する」「あらゆる手段がテーブ
ルの上にある」(つまり武力行使も辞さない)という、トランプ大統領の姿勢を支持する、とも発言しました。

つまり、安倍首相は、トランプ大統領の言葉に、完全に同調した強行路線のスピーチをしたのです。しかし、私は安倍首相のこの姿
勢に大きな危惧をいだきました。

トランプ大統領が、北朝鮮を「完全に破壊する」とまで言った、その同じ日に、国防長官のジェームズ・マティス氏は、アメリカはあ
くまでも対話による問題解決を視野に入れている、と語り、また国務省(日本の外務省)の報道官も対話による解決を示唆しています。

トランプ政権では、一方でトランプ氏が過激な発言をし、他方で、他の閣僚などが現実的な見解を示す、という方法を採っています。

しかし、安倍首相の場合、安倍首相の発言を公に修正したり、別の見解を述べる人物はいません。

このような状況で、トランプ氏の発言だけを頼りに国際社会で発言することには大きなリスクを伴います。

というのも、圧力一辺倒であると思っていたアメリカが、ある日突然、日本を飛び越して米中交渉で問題解決に向かうかも知れないの
です。

もう一つ、トランプ氏の、軍事攻撃をも示唆する圧力を強化することには、強い批判もあります。とりわけ、ドイツのメルケル首相も
フランスのマクロン大統領も、北朝鮮の核が脅威であり食い止める必要があることは認めながらも、この問題は対話によって解決すべ
きである、との姿勢を示しています。

おそらく、主要国の中でトランプ氏の姿勢を支持するのは安倍首相だけでしょう。それを象徴するように、安倍首相のスピーチの時、
席はガラガラで、カタールやイラン首脳の合うピーチよりも出席者は少なかったのです。

残念ながら、これが、国際社会における安倍首相の存在感であり評価でしょう。

韓国の文大統領は、制裁と圧力に賛成しながらも、対話をも重視する平行政策を目指しています。最近も、北朝鮮の子どもの教育のた
めに日本円で9億円の援助を与えることを発表しています。

国際関係は、非常に複雑なジクソーパズルから成っており、単純にアメリカに従っていれば安全、ということにはなりません。

首相は演説に先立つ20日昼(日本時間21日未明)、フランスのマクロン大統領と会談し、北朝鮮の行動は「これまでにない重大か
つ差し迫った脅威だ」と強調。マクロン氏は「断固として対応したい」と応じたという(注1)。

しかし、これは『朝日新聞』か安倍首相が勝手に作り上げた話のようです。原文を忠実に訳すと、マクロン氏は、「(北朝鮮への)私
の論点は、圧力を増やすことや、言葉と言葉の応酬ではないです。 私たちがやらなければならないのは、北朝鮮との間の緊張をほぐし
て、人々を守るための適切な方法を見つけることです。」としか言っていないのです(注2)。

安倍首相がスピーチを行った5時間前、別の部屋では核兵器禁止条約の署名式が行われていましたが、河野外相は出席しませんでした。
北朝鮮の核には猛反対し、米、英、仏、中、露の核には反対しない、という。人間で言えば思想、精神の「分裂」状態にあります。

それにしても、 麻生太郎副総理兼財務相は23日、宇都宮市で講演し、北朝鮮で有事が発生すれば日本に武装難民が押し寄せる可能性
に言及し「警察で対応できるか。自衛隊、防衛出動か。じゃあ射殺か。真剣に考えた方がいい」と発言したことは問題です。

これは麻生氏の本音なのでしょうが、そもそも「武装難民」なる概念はないし、難民=武装して日本人に危害を加える存在、とみなす思
考回路はあまりにも思慮に欠けています。このような人物が副総理兼財務相であることに危惧を感じます(注3)。

 

(注1)『朝日新聞』デジタル(2017年9月21日09時55分)wwww.asahi.com/articles/ASK9N7V6DK9NUTFK01X.html
(注2)BLOGOS 2017年9月21日 http://blogos.com/article/247487/
(注3)『琉球新報』電子版(2017年9月24日)https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-582051.html





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