大木昌の雑記帳

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ブラックバイトの実態と背景―企業の横暴と家計の貧困化―

2015-06-04 08:00:36 | 社会
ブラックバイトの実態と背景―企業の横暴と家計の貧困化―

ここ数年,若者を「使い捨てる」ブラック企業が問題とされ,政府も調査に乗り出しました(注1)。

しかし,ブラック企業と同時にブラックバイトもにわかに注目を集めるようになりました。

ブラック企業の場合は,一応,正社員が対象になっているため,政府としても労働行政の観点から放置できず,調査と指導に乗り
出したのでしょう。

これにたいしてブラックバイトは,身分も不安定で実態もわからないので,いまのところ政府も直接には調査を実施していないし,
対策も講じていません。

大学教授やNPOなどでつくる「ブラック企業対策プロジェクト」は4月28日、厚労省記者クラブで会見を開き、過酷な長時間労働な
どを強いられる大学生の「ブラックバイト」に関するアンケート調査の結果を報告しました。(注2)

調査は2014年7月、全国27の国公私立大学で授業などの際に調査票を配布して行われ、約4700人から回収しました。

その結果、76.4%にあたる3593人が大学生になってからアルバイトを経験していたことが分かりました。

このうち、就業時間の記載のある学生2150人を分析したところ、「深夜時間帯(22時〜5時)に勤務がある」と答えた学生は、全体で
42.8%なのに対し、居酒屋バイトでは90.7%に達していました。

また、現在、居酒屋バイトをしていると回答した228人のうち、「休憩が取れていないことがある」と回答した人の割合が48.2%と、
全体平均24.5%の倍近くにのぼっています。

この記者会見では労働組合「ブラックバイトユニオン」に寄せられた相談事例が紹介されました(注 同上)。

事例1 個人経営の居酒屋で働く大学生の男性は、週5〜6日でシフトに入っている。店長にシフトを減らしたい、休みたいと告げると、
    「お前に休む権利はない」と怒鳴られるため、やむを得ず週5〜6日の勤務を続けている。

事例2 勤務時間は、午後7時から午前2時、休日は午前5時までで、休憩はない。しかも、営業終了後は他の店員を車で自宅まで送
    り届けなければならないため、仕事から解放されるのは朝7時ごろになることもあるという。男性はその後、朝10時すぎに大学
    へ向かうが、授業中はほとんど寝てしまっているそうだ。

事例3 男性は店長に叩かれることが頻繁にあり、さらに「お前の価値は1円だ」「お前の人生なんて塵と同じだ」などと罵倒されるた
     め、恐怖心で店長に反論できず、理不尽な扱いを受けながらも仕方なく働いているそうだ。

また,同様の調査は同じころ『朝日新聞』でも行われ,いくつかの事例が紹介されています(注3)。

事例4 飲食店で働いた愛知県のある女子大生の場合,求人広告より,また県が定める最低賃金よりさらに低い賃金で働かされていた。
    また,夜10時以降の深夜労働にたいしても何の割増賃金は支払われないなど不当な待遇に抗議すると,店長は「どれだけ給料
    を払っていると思っているんだ」と来店客の前で叱ることもあった。辞めたいと何度も思ったが,怖くて言いだせなかった。

事例5 首都圏のドラッグストアで働く女子大生(19)の場合,残業代が支払われていなかった。店長からは「未払い賃金はないよね」
    と確認され,言い返せなかった。「店ではそれが当たり前で,どうしても切り出せなかった」。

事例6 「何度も店長にお願いしたけど、きついシフトは変わりませんでした」。福岡県の女子大学生(20)は、働いている書店の勤務
    表を記者に見せてくれた。1日4時間ながら、5月の出勤予定日は店長とほぼ同じ23日。ここ1年ほど、毎月20日以上働いて
    いる。「人手が足りない」として勤務を詰め込まれてしまう。「体調不良でも休めず実家にも帰省しづらい」「就職活動への不安も
    あるけど、辞めるとほかの人の負担が増える」ので辞められない。

こうした状況で,生活の中心がアルバイトになってしまい,学業に多大な悪影響が出てきます。

東京都内のある男子学生は,大手アパレル店と,契約では週3日,18時間の勤務ということで契約書を交わしました。

しかし2か月目に入ると,週70時間にも及ぶ勤務が組まれてしまいました。

社員に「シフトを変えてほしい」と頼むと「代わりのバイトを探さなければ休めない」と言われてしまいました。

この男子学生は授業やゼミを欠席せざるを得ず,その学期,多くの単位を落としてしまいました。

バイトのために試験や課題の準備時間がとれなかったことのある学生は4割もいました。

また,家庭教師派遣会社では,「辞める」と言った学生に50万円の損害賠償を求めたり,コンビニなどの店舗販売で,おでんやケーキの
販売目標を書かされ,達成するため自腹で商品を購入させられた事例もあります。(『東京新聞』2015年5月23日:注2)

以上,見てきたように,企業側の違法性は明らかで,学生側が労働基準監督署などに訴えて,未払い賃金を受け取った事例もあります。

不当な扱いを経験した学生は7割弱いましたが,その半数以上は泣き寝入りしたと答えています。

それでは,なぜ,学生はやすやすと泣き寝入りしてしまうのでしょうか?

これまでの事例でもわかるように,一つの理由は,企業(店)側の強圧的な脅しに気押されて,恐怖のため反論できなかったことにあります。

これは特に女子学生の場合,顕著です。

次に,多くの学生が言っているように,自分が辞めると,他の人に迷惑がかかることを心配して,我慢してしまうことです。

そして,明らかな不当労働であっても,それにどのようい対抗したらいいのか,法律的な知識や制度的な救済制度に関する知識が欠けている
ことです。

しかし,もう少し広い視点からみると,学生側にも深刻な事情があります。

調査に関わった大内祐和中京大学教授は「学生の貧困化,労働市場で非正規雇用が『補助労働』から『基幹労働』に切り替わったことがある」
と指摘しています。

比較的授業料が安い国立大学でさえ,現在は年53万円と,40数年で40倍以上になっています。

一方,世帯所得の中央値は2012年で432万円と,14前より100万円下がっています。

こうした事情を反映して,奨学金を利用する学生(昼間)は1990年代には20%台でしたが,現在は50%を超えています。しかも,ほとんど
は貸与です。いずれ返却しなければならないお金ですから,実態は外国で言う「スチューデント・ローン」です。

このため,多くの学生は生活費と学費を賄うために働かざるを得ない状況にあります。

上に引用した調査でも,「学費と交通費以外は自分で稼ぐよう親に言われています」という学生は,大学までの通学時間が長いので,自宅近
くでバイトせざるを得ないため,今のバイトを辞めたくても辞められない,という事情にあります。

こうしたすべての学生の弱みに付け込んで,不当な労働を強いるブラックアルバイトが続いています(『東京新聞』2015年5月23日)。

私の身近にも,生活費と学費,全てを自分で賄うため,バイト優先の生活をしている学生がいました。

以前,バイトといえば,友人との付き合いや旅行の費用を稼ぐため,といった印象が強かったのですが,現在は生活費や学費と賄うため,
というもっと深刻な状況が学生に過酷なバイトを強いています。

保護者の学費・生活費の補助は,2000年には年平均156万円でしたが,2012年度には122万円に減少しています。

また,2012年に大学を中退した学生は全学生の2.7%,7万9000人で,2007年の2.4%より微増しており,その20.4%が経済的理由を挙げ最大
でした(注4)。

アベノミクスによる株価の上昇や一部企業の利益増大,といった景気の良いニュースの陰で,家計の貧困化がくらい影を落とし,それがブラ
ックバイトの横行という異常な状況を生んでいると言えます。

(注1)平成25年9月に「使い捨て」が疑われる5111の事業所を対象に調査が行われ,その結果の一部は『厚生労働省』のホームページで発表
    されています。
    http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11202000-Roudoukijunkyoku-Kantokuka/0000032426.pdf
    (2015年5月28日アクセス)を参照されたい。
(注2)「弁護士ドッドコムニュース」(2015年4月28日)
     http://www.bengo4.com/topics/3030/ (5月28日アクセス )
(注3)『朝日新聞 デジタル版』2015年5月25日(同日アクセス)
     http://www.asahi.com/articles/ASH5P00QMH5NULFA05D.html?ref=nmail
(注4)『日経新聞』電子版。2015年9月25日(同日アクセス)
     http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG25H0I_V20C14A9000000/

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北陸新幹線の開通で行きやすくなったので金沢経由で東尋坊に行きました。


東尋坊の海岸線は,鋭く切り立った岩場で,近づくと思わず足がすくみます。ここは刑事ドラマなどでもよく使われます。


東尋坊は自殺の名所でもあり,域内には公衆電話が幾つも設置されています。この公衆電話ボックスの中には,
自殺を思いとどまるよう,連絡先の電話番号を書いた紙が貼り付けられています。

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