鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

猿回し図小柄 Kozuka

2013-01-11 | 小柄
猿回し図小柄


猿回し図小柄

 江戸時代の猿回しとは、このようなスタイルであったことが、歴史や風俗的な意味からも興味深く鑑賞できる作。綱と鞭で猿を操る親方。その腰には剣を意匠したものであろうか、御幣であろうか、飾り物も描かれている。壷のようなものもあるし、不明な器物がある。貴重な資料であり、面白い。赤銅魚子地高彫金銀色絵。

猿と注連縄図鐔 Tsuba

2013-01-10 | 
猿と注連縄図鐔


猿と注連縄図鐔

 注連縄の下で猿が遊ぶ図にも見えるが、被り物をみると、どうやら猿回しの猿のようだ。即ち、正月を祝って家々を廻る門付芸の一つ。現代でも演芸の一つとしてみることが出来るも、江戸時代には主に正月を彩る風習の一つであった。赤銅魚子地を高彫にし、金銀素銅の色絵を巧みに配している。裏の注連縄の構成も美しい。無銘で、京都金工一宮派と極められている。

福神相撲図小柄 Kozuka

2013-01-10 | 小柄
福神相撲図小柄


福神相撲図小柄

 多くの古い太刀や武具などを所蔵していることでも知られる大山祇神社では、田植えの頃と収穫の頃に一人相撲行がわれている。一人相撲は自然の恵みをもたらす神と相撲をとることによって豊作を祈り、また、祝う儀式。一方、七福神の相撲は正月の祝い事の一つであり、室町時代の後藤家の目貫にこの図があることから、七福神思想が大流行した江戸時代に至る以前に、すでに意識され理解されていたことが分かる。

羽子板図鐔 壽盧 Toshiyoshi Tsuba

2013-01-08 | 
羽子板図鐔 壽盧


羽子板図鐔 銘 壽盧

 正月の風物に題を得た鐔。羽根突きなどは見る機会も少なくなったし、凧は新種のカイトに替わってしまった。カイトは誰でも揚げられることから人気らしいが、揚げることへの工夫という面白みが失われてしまった。地域に残る大凧や連凧は伝統としてうれしいが、正月、広い野原で昔ながらの凧が揚がっているのを見つけると、本当にうれしい。朧銀地高彫金銀赤銅素銅のカラフルな色絵平象嵌。壽盧は岩間政盧の門人。
 鉄地地透になる羽子板図鐔も併せて紹介する。この図になる鐔もちょっと珍しい。

越後獅子図目貫 土屋 Tsuchiya Menuki

2013-01-07 | 目貫
越後獅子図目貫 土屋


越後獅子図目貫 無銘土屋

 正月の風景として、子供が主役の越後獅子も忘れることは出来ない。獅子舞という姿ではあるが軽業としての角付芸である。越後国三日月村に越後獅子の本拠地があり、親方が数名の子供の獅子舞をまとめ、各地を廻っていたという。子供であるが故の身軽さからの芸であろう、人気も高く、かなり多くの人々が関わっていたようだ。土屋安親が活躍していた江戸時代中期には既に定型化していたと考えられ、作品がある。この目貫も、その一門あるいは安親の典型的作例。素銅地を容彫にし、金銀赤銅の色絵を加え、獅子の被り物が身体と一体化しているかのような表現。きびきびとした動きの様子が巧みに表現されている。
 別の流派の、同図の目貫を併せて紹介する。


獅子舞に海老図縁頭 Fuchigashira

2013-01-06 | 縁頭
獅子舞に海老図縁頭


獅子舞に海老図縁頭

 海老と獅子舞の取り合わせ。特に海老の様子がいい。胴体が丸々と肥えており、赤銅の艶のある目玉も図として活きている。獅子舞は滑稽味があり、迫力があり、動きもあり、作品としては楽しい。鉄地高彫象嵌。
 獅子は、装剣小道具では後藤家の作例で知られるように霊獣として見られてはいるも、ライオンの意匠化であることは間違いなかろう。東洋各国に獅子舞に似た様々な舞曲がある。正月の街を彩る風物としての獅子舞だが、歌舞伎で演じられる連獅子などとは異なっていかにも土俗的な面白みがある。

海老正月飾図鐔 戸張直知 Naotomo Tsuba

2013-01-05 | 
海老正月飾図鐔 戸張直知


海老正月飾図鐔 銘 戸張直知(花押)

 極上質の赤銅魚子地。それだけでも贅沢な風情が漂っているにもかかわらず、ここに大きな海老、注連縄を描いて正月飾りを演出している。金の色合いを違えているのも巧みであり、注連縄を尾で弾いているかのように、まさに生きているかのような海老の姿が魅力。
小柄笄も正月飾りの図。海老は素銅地で色合いを再現しようと試みたようだが、鐔の金地の海老のほうが非現実的ではあるが贅沢感があり、視覚的にも面白い。


萬歳図小柄 常直 Tsunenao Kozuka

2013-01-04 | 小柄
萬歳図小柄 常直


萬歳図小柄 銘 常直(花押)

この萬歳もまた激しい動きを再現した作。常直は一宮長常の門人。長常は片切彫平象嵌というこの作品のような表現技法を得意とし、殊に祭や市井に取材した人物など動きのある図を、簡潔な描法ながら表情豊かな活気のある作としている。常直もまた同じ作風で、この小柄では縦長の画面を活かしている。構図が特に良い。片切彫の線にも強弱変化があり、これによって動きは極まる。先に紹介した秀鏡の作とは、武家の家中と街中という状況が異なるので比較できないが、面白味はこちらに軍配が上がるであろうか。

正月 萬歳図小柄 Hideaki Kozuka

2013-01-03 | 小柄
日本東都市中年中行事図十二ヶ月揃小柄 塚田秀鏡作から


正月 萬歳図小柄

 上質の朧銀磨地に金銀素銅の平象嵌と片切彫を駆使し、正月の風習の一つである萬歳の場面を彫り描いた作。これまでに揃金具中からいくつか紹介してきたが、この正月からはじまっている。街中では門付芸としての萬歳も普通に見られたが、武家屋敷に上がることを許された萬歳は格式も高かったであろう、加賀に伝わる万歳とは少し趣も異なるようである。

萬歳図鐔 源左衛門桑村克久 Tsuba

2013-01-02 | 
萬歳図鐔 源左衛門桑村克久


萬歳図鐔 銘 源左衛門桑村克久(花押)

 加賀金工を代表する名工。正月の風俗でもある万歳に題を得た鐔で、動きのある空間構成が巧みな作品。加賀金工は、赤銅地などに金銀の平象嵌と毛彫を組み合わせた簡潔な描法で、秋草に虫図などのような洒落た平面構成を得意としたが、この鐔では、同時代に生きていたであろう人物に焦点を定め、激しく踊る人物を写真で捉えたように再現している。動きのある顔の表情、手足の伸び伸びとした様子、太鼓を打つ手指、扇を振り上げるのの仕草なども面白い。強く切り込んだ片切彫も活きている。
 お正月の風物詩とも捉えられる萬歳は、三河万歳、尾張萬歳などで良く知られているが、実は各地にあり、この鐔に描かれているのは、越前にて隆盛し加賀に伝わった加賀萬歳。現在でも保存会があるそうだ。

二見ノ浦初日の出図小柄 Kozuka

2013-01-01 | 小柄
二見ノ浦初日の出図小柄


二見ノ浦初日の出図小柄

海上に突き出した夫婦岩。その間に姿を現す太陽。神々しいその光景は、一度目にしたら忘れることは出来ないだろう。太陽神を崇め祀る伊勢神宮がこの地に定められた理由も、古代大和の都から見て太陽の昇る方角という点だけではなく、神の力を示すに充分すぎる要素をこの地に見出したからに他ならない。アマテラス大神の岩戸隠れを思い出さずにはいられない、そんな風景である。単に風光明媚なる景色としても二見ノ浦は絵になる。赤銅魚子地高彫色絵。縁頭などと一作で、拵に仕立られている。正月など目出度い席で用いられた、上級武士の祝い差しであろう。

 お正月ということで、併せて初日の出、若水とりの風習を示す井戸の図、太陽に向かって飛翔する鳥を加えた小柄を紹介する。