鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

九年母図鐔 埋忠明壽

2009-10-08 | 






 桃山時代の埋忠明壽(うめただみょうじゅ)が、江戸時代に隆盛した諸金工の技術的に、表現においても強い影響を与えた琳派の芸術家の一人であることは言うまでもない。また、室町時代に隆盛した墨絵を金工上で模倣するという表現を試み、見事に独創世界を生み出したことでも良く知られている。ところが、現在では琳派の創造者というと、絵画や工芸分野の本阿弥光悦や俵屋宗達のみ多く採り上げられて知名度が高く、金工世界における美意識の変革をもたらした明壽の影が薄れているのは寂しい。
 作品は真鍮地に赤銅の平象嵌(ひらぞうがん)を施して破墨の如くに表現した九年母(くねんぼ)図鐔である。平象嵌とは鐔などの表面を平滑に仕上げ、その面とほぼ同じ高さに、しかも平面的に描画する象嵌技法のこと。図柄は説明するまでもないので、ただただ堪能してほしい。実際に手にすると、表面に施された石目や鑢目や腐らかしによる微妙な凹凸と、その上に描かれた平象嵌の線の凹凸も微妙に指先に伝わりくる。真鍮や赤銅の肌合いは鉄のそれとはもちろん異なる。写真でどこまで伝えられるか心許ないが、また、微細な線がモニターではモアレを生じてしまい、不明瞭な点も多いが、部分拡大を鑑賞してほしい。
 本作は、次に紹介する同じ埋忠明壽の、同じ九年母を素銅地で表現した鐔と共に『鐔Tsuba』で紹介している。