鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

桜花文図鐔 光忠(埋忠派)

2009-10-06 | 
 



 季節に合わないが、埋忠(うめただ)系統の時代の上がる作例として光忠(みつただ)の鐔を採り上げた。図柄は文様化された桜花で、山銅とも真鍮とも判断し難い古調な地金に鮮やかな金と渋い銀の布目象嵌を簡潔に施した作。同趣の作例が幾つか確認されていることから、無銘光忠と極められている。光忠は、明壽と同じ桃山頃あるいは少し時代の上がる京都の工とみられている。
 素朴な色合いの地金を打返耳と打ち込み強く働かせて抑揚変化のある地面に仕立て、表面には鑢目を施して金と銀の布目象嵌にて桜花文を散らし、叢に漆を塗り施して意図せぬ景観を造り出している。桜花文には、墨染の桜というわけではないが、金や銀一色で表現せずに、対極の色調でもある黒い金属などを用いて陰の表現になる桜を交えることがある。これによって金の桜花が視覚的に映えることは明らか。本作でも、文様化の独創と同時に、色彩を考慮した表現意識を鮮明にしている。この背後に、京都の織物産業と深く結びついた文様文化が存在したことも想像される。
 また、茶にあるような侘び寂びの美意識も忘れることができない。朝鮮渡来の雑器などの、土を母とする自然な肌合いを視覚だけでなく掌中や指先で鑑賞するような、華美とはかけ離れたところに魅力のある作である。一般に金属工芸品は素手で触ることは禁じられているが、この鐔はむしろ指先で表面に施された漆や布目象嵌象嵌、さらには浅く切り施されている鑢目の微妙な凹凸を感じとってほしい作品である。