10日(土)その2.昨日、午後7時から東京オペラシティコンサートホールで東京シティ・フィル「第361回 定期演奏会」を聴きました プログラムは①シベリウス「悲しきワルツ」、②グリーグ「ピアノ協奏曲 イ短調 作品16」、③吉松隆「交響曲第3番 作品75」です 演奏は②のピアノ独奏は務川慧悟、指揮は当初予定されていた藤岡幸夫氏が肺炎のため出演できなくなったため、①②を高関健が、③を東京シティ・フィルの指揮研究員・山上紘生が指揮をします
高関氏がプレトークで概要次のように話しました
「今回の公演は、指揮をとる予定の藤岡氏が肺炎のため入院を余儀なくされたため、前半を私が、後半を指揮研究員の山上が指揮することになった 1回目のリハーサルの時、藤岡氏が振ることも考えられたが、身体を休めて様子を見た方が良いという判断になり、代わりに山上君がリハーサルをやることになった 彼は相当頑張った それを見て2回目のリハーサルも彼に任せてみた。3曲とも私が振る選択肢もあったが、それでいいのだろうか?と、その場に同席した作曲家の吉松氏とも相談し、これなら彼に本番を任せられるのではないか、という結論になった 山上君は私が藝大教授時代の学生で、真面目な性格だ。大学では”指揮は学ぶものではない”ことを学んだと思う 指揮者になる人は勝手に指揮者になっていくものだ。彼はそういう学生の一人だ。いいかどうかは聴いていただく皆さんの判断です」と語りました
オケは10型で左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスという並び。コンマスは戸澤哲夫です
1曲目はシベリウス「悲しきワルツ」です この曲は、ジャン・シベリウス(1865-1957)が妻アイノの兄で劇作家のアルヴィド・ヤルネフェストの戯曲「クオレマ(死)」のために1904年に作曲した付随音楽の1曲です
高関の指揮で、静謐な音楽が奏でられます 私はディズニー・アニメ「ファンタジア」で使われたこの曲の演奏を思い出しながら懐かしく聴きました
2曲目はグリーグ「ピアノ協奏曲 イ短調 作品16」です この曲はエドワルド・グリーグ(1843-1907)が1868年に作曲、1869年にコペンハーゲンで初演されました 第1楽章「アレグロ・モルト・モデラート」、第2楽章「アダージョ」、第3楽章「アレグロ・モデラート・モルト・エ・マルカート」の3楽章から成ります
ピアノ独奏の務川慧悟は2019年のロン=ティボー=クレスパン国際コンクールで第2位、2021年のエリザベート王妃国際音楽コンクールで第3位入賞の実力者です
弦楽器は14型に拡大します。目等貴士のティンパニのロールの頂点で、務川の独奏ピアノが力強く入ってきます 務川のピアノは強靭で、その一方、弱音は粒立ちが美しい カデンツァにおけるトリルがとても美しく響きました 第2楽章では抒情的な演奏が印象的でした ホルンが素晴らしい演奏で華を添えました 第3楽章は再び力強い演奏が繰り広げられ、素晴らしいリズム感により熱演が展開しました 高関 ✕ シティ・フィルはスケールの大きな演奏でソリストを支えました
満場の拍手に務川は、ビゼー作曲ホロヴィッツ編曲「カルメン幻想曲」を目にも止まらぬ速さで弾き切り、聴衆を唖然とさせました
プログラム後半は吉松隆「交響曲第3番 作品75」です この曲は吉松隆(1953~)が1998年9月に完成した作品です イギリスのシャンドス・レーベルが藤岡幸夫氏に「どんな曲を録音しても良い」と提案したことがきっかけで、藤岡が吉松氏に作曲を依頼してできた作品です 第1楽章「アレグロ:アダージョ・グラーヴェ ~ アレグロ・モルト」、第2楽章「スケルツォ:アレグロ・スケルツァンド」、第3楽章「アダージョ」、第4楽章「フィナーレ:アンダンテ・マエストーソ ~ アレグロ・モルト」の4楽章から成ります
指揮をとる指揮研究員・山上紘生(やまがみ こうき)は宮崎県生まれ。4歳からピアノを小倉喜久子氏、ヴァイオリンを向井理子氏、瀬戸瑤子氏のもとで始める 埼玉県立浦和高校を卒業後、東京藝大指揮科で高関健、山下一史 両氏に師事。2021年10月から東京シティ・フィルの指揮研究員を務めています
山上が指揮台に上ります。笑みが浮かんでいるところを見ると、落ち着いている様子です 演奏に入りますが、プロのオーケストラを初めて振るのに彼は指揮棒を持っていません 無棒です
第1楽章は時に尺八のような音が聞こえてきたりして極めて「和風テイスト」を感じます オーボエが基調となる主題を演奏しますが、全体的に静と動が交互にやってくる曲想で、音楽が目まぐるしく変転します 第2楽章は軽快な音楽です。アジアの民族音楽とフリージャズがミックスされたようなリズム中心の楽しい音楽が展開します 第3楽章ではクァルテット・エクセルシオのチェリストとして活躍する大友肇と香月圭佑のデュオが素晴らしい演奏を展開しました 第4楽章は第1~第3楽章の素材の大集合といった感じで、同じリズムが繰り返され、フィナーレは熱狂的な大合奏で音の大伽藍を築き上げました
山上紘生はやり切りました 運命の女神は、常に準備が出来ている者に微笑む 山上は初めてプロのオーケストラを振ってアグレッシブな演奏を引き出しました 戸澤コンマス以下シティ・フィルのメンバーは渾身の演奏で若き指揮研究員を盛り立てました 吉松氏がステージに上がり、山上氏とハグをして健闘を讃えました カーテンコールが繰り返され、満場の拍手とブラボーが山上氏、吉松氏とオケに浴びせられました 山上氏の新たな門出を祝したいと思います それと同時に、今回のチャンスを次に生かすも殺すも これからの本人の努力次第だということを肝に銘じてほしいと思います