人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

ジョナサン・ノット+東京交響楽団でモーツアルトの歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」を聴く~アンサンブル・オペラの傑作を堪能

2016年12月12日 08時04分07秒 | 日記

12日(月).わが家に来てから今日で804日目を迎え,オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」のCDの解説書を前にして,何やらつぶやいているモコタロです

 

          

            「女はみんなこうしたもの」だってさ 男はどうなのかな?

 

  閑話休題  

 

朝日カルチャーセンター新宿で「生誕260年 モーツアルト最後の4年」というテーマの講座が12月28日午後1時から開かれるという新聞広告が載りました 講師はクリストフ・ヴォルフ著「モーツアルト 最後の4年」の訳者である国立音楽大学招聘教授・礒山雅氏です.どうやら,モーツアルトの「貧困にして不遇な生涯」という広く流布された俗説を覆す内容のようです 興味があるので,さっそく同センターにウェブサイトから申し込みました.受講料の決済がクレジットカードのみというのが融通の利かないところですが,仕方ありません 会員登録をせず1講座単発で申し込みました.受講料は会員3,024円,一般3,672円となっています.この料金ならヴォルフの本を買っておつりがきます(2,500円+税)が,直接話を聞くことによる付加価値に期待します

 

  も一度,閑話休題  

 

昨日,池袋の東京芸術劇場コンサートホールでモーツアルトの歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」(演奏会形式)を聴きました 出演はフィオルディリージ=ヴィクトリア・カミンスカイテ(ミア・パーションの代演),グリエルモ=マルクス・ウェルバ,フェルランド=アレック・シュレイダー(ショーン・マゼイの代演),ドラベッラ=マイテ・ボーモン,デスピーナ=ヴァレンティナ・ファルカス,ドン・アルフォンソ・舞台監修=サー・トーマス・アレン,合唱=新国立劇場合唱団,管弦楽=東京交響楽団,指揮とハンマーフリューゲル=ジョナサン・ノットです

 

          

 

自席は2LbーI列ー1番,2階の左サイドのバルコニー席左通路側席です.会場は9割方埋まっている感じでしょうか よく入りました 拍手の中,東京交響楽団のメンバーが入場します.総勢30数名の小編成です.女性陣はいつもの定期演奏会と違い,ほとんどがロングスカートではなくパンツ・ルックです いつも思うのですが,女性奏者はパンツ・ルックで統一した方がずっと機能的でカッコいいと思います これは数年前にアジア・フィルを見たときに女性全員がパンツ・ルックで統一していて颯爽としていたのが新鮮ですごく良いと思いました

コンマスは水谷晃です.舞台中央にはノットが指揮をしながら弾くためのハンマーフリューゲルが置かれています これについては,プログラム・ノートに「チェンバロだとちょっと古めかしい感じがして,ハマーフリューゲルを選んだ」と書かれています.その手前には歌手のための椅子4脚とテーブルが1つ置かれています

舞台上方のスペースに日本語訳テロップが表示されるようになっています.舞台の客席側の3カ所には歌手が見えるようにモニター画面が設置されています.画面には指揮者が映し出され,歌手は画面でノットのタクトを見ながら歌うようになっています

ノットが登場,ハンマーフリューゲルに対峙し,手で指揮をして序曲の演奏に入ります 私は今までこれほど起伏に富んだ”おしゃれ”な序曲を聴いたことがありません.ノット特有の解釈による演奏です 軽快なテンポで楽しい音楽が奏でられますが,荒木奏美のオーボエ,相澤政宏のフルート,福士マリ子のファゴットが冴えわたります よく見ると,トランペットは細長い古楽器を使用しており,またティンパ二も現代の楽器でなく小ぶりの楽器を使用しています 小編成オケのためか透明感のある豊かな音楽が会場いっぱいに広がります

 

          

 

序曲が終わり,男性陣3人が登場しますが,スーツ姿です 一方,女性陣はフィオルディリージ役のカミンスカイテが濃紺の衣装,ドラヴェッラ役のボーモンが緑や赤のギンギラの衣装です また,後で登場するデスピーナ役のファルカスは黒のシンプルな衣装です.あくまでも黒子に徹するという演出でしょうか

客席に背を向ける形でハンマーフリューゲルを弾きながら背中側にいる歌手陣に指示を出すノットは大変です 歌手たちはモニター画面を見ながら歌を歌うとはいえ,指揮者としては彼らの動きを把握しなければなりません.右に左に後ろを振り返りながら指揮をし,また身体を戻してハンマーフリューゲルを演奏します せわしない動きにも関わらずスムーズな音楽の流れを絶えさせることはありません ノットはフランクフルト歌劇場時代にこうした通奏低音の演奏を数多くこなしていたとのことなので,弾き振りは朝飯前なのでしょう

歌手陣は6人とも完璧です まず,ミア・パーションの代演で歌ったヴィクトリア・カミンスカイテですが,リトアニア出身のソプラノで,ライプツィヒ歌劇場,ドレスデン国立歌劇場,バイロイト音楽祭等で活躍中とのことです.美しい声で,とくに高音が良く伸び,素晴らしい歌唱力の持ち主です さらに見栄えのする容姿なのでヒロインのフィオルディリージ役にはピッタリです 第2幕後半のレチタティーボの場面で,楽譜を見ながら歌う(語る)シーンがありましたが,さすがに急きょ代演を依頼されて準備の時間が足りなかったのでしょう しかし,その時間は10分もなかったかと思います.再び楽譜なしで歌いました 第1幕のアリア「嵐にも風にも」,第2幕のロンド「恋よ,どうぞゆるして」をはじめ,強い また 弱い女心の変遷を素晴らしい歌声で聴かせてくれました

ドラベッラを歌ったマイテ・ボーモンはスペイン生まれのメゾソプラノで,ハンブルク音楽大学でハンナ・シュヴァルツに師事しました 2005年にザルツブルク音楽祭で「コジ」のドラベッラ役でデビューしたとのことです.第1幕のアリア「私を苦しめる,やみ難い恋心よ」,第2幕のアリア「恋は小さな泥棒」をはじめ,揺れる女心を見事に歌い上げました

グリエルモ役のマルクス・ウェルバはオーストリア生まれのバリトンですが,ウィーン音楽大学等で学び,スカラ座,英国ロイヤル・オペラ他世界の主要なオペラハウスで歌っているとのことです  力強い歌声で,演技も素晴らしいと思いました

フェルランド役のアレック・シュレイダーは米国クリーブランド生まれのテノールで,2011年ザルツブルク音楽祭で「コジ」のフェルランド役を歌ってデビューを飾っています 気持ちの良いリリック・テノールを聴かせてくれました

ドン・アルフォンソ役のトーマス・アレンはイギリス生まれのバリトンで,2011年に英国ロイヤル・オペラデビュー40周年を迎えたという大ベテランです ちょっと動きが重いな,という場面もありましたが,歌はさすがに貫禄で聴かせます

今回,個人的に一番良かったと思うのはデスピーナ役のヴァレンティナ・ファルカスです ルーマニア生まれですが,ザルツブルク音楽祭には「後宮からの誘拐」ブロンデ役でデビューしたとのことです 第1幕のレチタティーボ「小間使いの生活のひどさときたら!」,第2幕のアリア「女も15になれば」をはじめ,コケティッシュな役柄にピッタリの歌を芝居気たっぷりに聴かせてくれました

このオペラは「アンサンブル・オペラ」の傑作です アリアよりも二重唱以上のアンサンブルが魅力です 第1幕の三重唱「風は穏やかに」(フィオルディリージ,ドラベッラ,アルフォンソ),第1幕フィナーレ「ああ,なんて一瞬のうちに」(フィオルディリージ,ドラベッラ),第1幕の二重唱「やさしい風よ,手を貸しておくれ」(フェランド,グリエルモ)をはじめ,二重唱,三重唱,四重唱,五重唱が惜しげもなく歌われます.いずれも素晴らしいアンサンブルでした

さらに付け加えれば,このオペラは合唱の魅力もあります 新国立劇場合唱団の精鋭16名による第1幕「軍隊生活はすばらしい」,第2幕「二人の花婿と,美しい花嫁に」は,とても16人だけの合唱とは思えないほど迫力に満ちていました

フィナーレを閉じると 会場いっぱいの拍手とブラボーの嵐がステージに押し寄せました   歌手陣はもちろんのこと,ハンマーフリューゲルを弾き振りをしたジョナサン・ノットに,軽快な音楽で歌手陣を支えた東京交響楽団のメンバーにも大きな拍手が送られました

今回の公演を観て 聴いて感じたのは,ハンマーフリューゲルを弾き振りするジョナサン・ノットと 歌手陣と 合唱団と 東京交響楽団が一体となって『モーツアルトのオペラの楽しさを伝えることに徹していた』ということです これはおそらく,ノットの意思が周りのメンバーに十分伝わったからこそ実現したのだと思います 間違いなく今年の「マイベスト5」に入る公演です

 

          

コメント (3)
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