人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

米原万里著「オリガ・モリソヴナの反語法」を読む~スケールの大きな物語

2016年08月17日 07時50分31秒 | 日記

17日(水).今朝は台風一家の青天の霹靂,もとい,台風一過の青天ですね わが家に来てから689日目を迎え,リオ・オリンピックの卓球男子の大活躍をクイズにして楽しむモコタロです

 

          

           卓球男子 銀以上というのは「金か銀」ですね・・・ピンポン!

 

  閑話休題  

 

米原万里著「オリガ・モリソヴナの反語法」(集英社文庫)を読み終りました これは,現役時代にT社のSさんから薦められた本です.やっと手に取って読みました 

米原万里は1950年東京生まれ.59~64年チェコのプラハ・ソビエト学校で学ぶ.同時通訳として活躍後,95年『不実な美女か貞淑な醜女か』で第46回読売文学賞の随筆・紀行賞を受賞したのをはじめ各賞を受賞 2006年5月に逝去,今年が没後10年となる

 

          

 

1960年,チェコのプラハ・ソビエト学校に入学した志摩は,舞踏教師オリガ・モリソヴナにすっかり魅了される 老女にも関わらず踊りは天才的だった.彼女が「美の極致!」と濁声で叫んだときは,それは強烈な罵倒を意味していた(これが『反語法』).しかし,彼女の行動には謎が多かった あれから30数年が経過,翻訳者となった志摩はモスクワに赴きオリガの半生を辿る.関係者の話を聞くうちに,オリガはスターリン体制下の厳しい政治情勢の中で,生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた経験を経ながら生き抜いて来たことを知る

この作品は彼女の初小説で,2003年「第13回Bunkamura ドゥマゴ文学賞」を受賞しています この賞の審査員はたった一人で,池澤夏樹氏でした この本の巻末に著者の米原万里と池澤夏樹の対談が載っていますが,その中で池澤氏は,この作品を選んだ理由として次のように語っています

「何がそんなにいいかというと,まず,話として格が大きい 日本の本はだんだん話が痩せてきて,やたら長いだけの本は多いけれども,中身が充実した上で一定のサイズの本は少ない その中でこれは単にページ数だけではなくて,全体としてとても豊穣な印象を与える

文庫本で500ページにもなるこの小説を読み終ると,たしかに「話として格が大きい」つまりスケールが大きいと思います 当時のソ連やチェコという国の歴史から政治情勢,市民生活に至るまで,詳細に把握していないと書けない内容です

対談の中で,米原万里はこの作品を書くキッカケについて次のように語っています

「本当は私,ノンフィクションを書きたかったんです.その方が迫力があるし,そもそもオリガ・モリスヴナは,実在した先生ですから ソビエト当局が『彼女を解雇しろ』と校長に命令したのに対して,先生たちが,彼女がすばらしい教師で,彼女を失うことはいかに大きな損失かという,電文にしてはあまりにも長すぎる嘆願文を書いた そこに私の知っている先生たちの署名があった ロシア外務省の資料館で,それを読んだときには,もう涙が止まらなかったですね.これを追求していって,資料に当たって,本当にあったことを書けば,感動的なノンフィクションになると思ったんです ところが,それ以後,まったく資料が出てこない.出てこない以上は,その周辺資料を読むしかない.それでああいう物語になりました

これによって,この作品が ロシア外務省の資料館にあった『嘆願文』を見て心を揺さぶられ,その感動を何らかの形で書き残したいと思ったことが動機となったことが分かります

ところで,対談の中で,池澤氏から共産圏での学校生活について聞かれた米原真理は,次のように語っています

「私は中学2年の3学期に日本に帰ってきたんですが,もう受験モードになっていて恐ろしくつまらなかった 授業も退屈だし,学校は規則ずくめだし.ところが,私を取り囲んだクラスメートたちが,米原さんがいたのは共産主義社会だから,きっととても不自由だったんでしょうねと言うんです プラハの学校は,ここよりずっと自由で,色彩豊かで,みんな個性的でおもしろかった・・・・みんな違って当然だというのがプラハの学校の考え方で,だから何か共通点を見つけるととても喜ぶんですが,日本の場合は,みんな同じが当然で,みんな同じになることが幸せで,それから外れると劣等感を持ったり,不幸だと考えたりする.だから違うのが許せない.それが最大のショックでした

こういうことは,この小説を,またこの対談を読むまでは知りませんでした われわれの心の中にある「共産主義社会」に対する先入観を払拭するのは容易ではありません  もっとも現代では,「民主主義人民共和国」を名乗りながら世襲的独裁主義をとる某国も存在しますが,こういう国では当時の共産圏のような自由のカケラもないのは想像に難くありません

この作品は物語として非常に面白い小説です.お盆休み明けのあなたにお薦めします

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