人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

ゲルギエフ+PMFオーケストラでショスタコーヴィチ「交響曲第8番」他を聴く/「独裁者と小さな孫」を観る

2016年08月10日 07時34分26秒 | 日記

10日(水).昨日は「猛暑~がない」ほど暑い一日でしたね 太陽が真上にある時は建物の陰が出来ないので直射日光を避けるすべがありません.太陽燦々と~ なんていい気になって歌っている場合じゃありません ということで,わが家に来てから682日目を迎え,白ウサちゃんと体操日本復活を喜ぶモコタロです

 

          

             白井くんの ひねり技 は凄いねえ! おひねり が飛んできそう

 

  閑話休題  

 

昨日,神楽坂のギンレイホールで映画「独裁者と小さな孫」を観ました これはモフセン・マフマルバフ監督による2014年,ジョージア・仏・英・独合作映画(119分)です

 

          

 

ある独裁政権国家で,ある日大規模なクーデターが勃発する 家族が海外逃亡を図る中,地位を追われた年老いた大統領は幼い孫を連れて逃亡を余儀なくされる 行く先々で住民の衣服を奪い,変装して逃亡を続ける.逃亡中,自分が大統領だと気が付かない住民が,自分のために家族が殺されたりひどい目にあったりしたと非難する声を聞くうちに,次第に人間性を取り戻していく

最後に大統領と孫が人々によって捕らえられ銃殺されそうになると,「もっと苦しませてから死なせろ.首を吊れ」「孫がひどい目にあった.孫から首を吊れ」「苦しんで死ぬように火あぶりにしろ」と叫ばれる中で,一人だけ「大統領を殺せば,負の連鎖が起こる.殺すべきではない」と主張します.しかし,それまで家族や知人がひどい目に遭ってきた住民は納得しません 映画は大統領の首をめがけて斧が振り下ろされるシーンで終わるので,大統領の命の行方は分かりません.が,孫は助かる予感があります

ところで,私が関心があるのは この映画でどんな音楽が使われているかです 映画の冒頭はきれいに飾られた目抜き通りを車が走っていくシーンが映し出されますが,バックに流れるのはヨハン・シュトラウスⅡ世の「美しく碧きドナウ」です また,宮殿の広間で孫が少女と踊るときの音楽は同じシュトラウスの「皇帝円舞曲」でした 孫はいずれ皇帝(大統領)になる身分ですからね

 

          

 

  も一度,閑話休題  

 

昨夕,サントリーホールで「PMFオーケストラ日本公演」を聴きました プログラムは①メンデルスゾーン「交響曲第4案イ長調”イタリア”」,②ブラームス「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」,③ショスタコーヴィチ「交響曲第8番ハ短調」です このプログラムを見たとき「これは3時間かかるな」と思いました.チラシによると②のコンチェルトが後から追加されたようです その②のヴァイオリン独奏はレオ二ダス・カヴァコス,指揮はワレリー・ゲルギエフです

PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)は故レナード・バーンスタインが1990年に札幌に創設した国際教育音楽祭で,今回が第27回になります PMFオーケストラはオーディションで選ばれた世界27か国・地域出身の20代の音楽家90人で構成されています.7月から8月の約1か月間,芸術監督ゲルギエフをはじめ,超一流の教授陣から指導を受け,演奏活動を展開します

 

          

 

今回はゲルギエフの指揮ぶりを正面から見たいのでオーケストラの後ろのP席を選びました.P6列17番,センター左ブロックの最後列です.WEBでチケットを手配する時に最前列と最後列を間違えてしまった席です.しかし,決して悪くはありません.会場はほぼ満席です

オーケストラは舞台に向かって左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,その後ろにコントラバスという態勢です.コンミスは日本人らしき女性です.ステージ上には指揮台もなければ譜面台もありません.指揮者のゲルギエフがタクトを持たずに登場します.ご存知の通り,ワレリー・ゲルギエフはマリインスキー劇場芸術監督・首席指揮者です 2015年にはミュンヘン・フィルの首席指揮者に就任,同年から6代目のPMF芸術監督を務めています

1曲目のメンデルスゾーン「交響曲第4番イ長調」は「イタリア」の愛称で知られていますが,これは作曲者が1830年10月から31年7月までイタリア各地に滞在したときの印象を音楽にしたことから名付けられたものです ゲルギエフは両手で指揮をとりますが,手の指を細かく動かして指揮をします.まるでピアノのトリルを弾いているかのような動きです こういう指揮をする人は他にいません.そうした細かな動きからメンデルスゾーンのイタリアの印象を音として紡ぎ出します ゲルギエフは,演奏に緊張感を保たせるためか,楽章間をあまり空けずに次の楽章に移ります.したがって,遅刻してきた人たちは後方の扉に釘づけされて席に着けません.しかたないですね

管楽器のメンバーが一部入れ替わり,ヴァイオリン・ソロのためのスペースが空けられ,譜面台が置かれます.さすがのゲルギエフも協奏曲では楽譜を見て指揮をするようです ギリシア出身の長身のカヴァコスが指揮者と共に登場します カヴァコスは1985年のシベリウス国際ヴァイオリン・コンクール,1988年のパガニーニ国際コンクール等で優勝している実力者です 

 

          

 

ブラームス「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」は1878年に作曲されましたが,当時の三大ヴァイオリニスト,レメーニ,サラサーテ,ヨアヒムからアドヴァイスを受けています ゲルギエフの合図で第1楽章に入り,スケールの大きな音楽が展開します カヴァコスのヴァイオリンが入ってきますが,1724年製のストラディヴァリウスが良く鳴り響きます カデンツァは泣く子を黙らせる見事な演奏でした.第2楽章はオーボエの息の長い旋律が続きますが,この演奏が素晴らしかった P席からは演奏者の後ろ姿しか見えないのですが,日本人らしき女性が吹いていました.第3楽章は情熱的なロマ風(ジプシー風)の音楽が展開します カヴァコスのヴァイオリンがますます冴えわたります

満場の拍手とブラボーに応え,カヴァコスはバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番BWV1003」から「アンダンテ」をしみじみと演奏し,聴衆を唸らせました ここでプログラムの前半が終わったわけですが,この時点で午後8時半です.しかし,これから20分の休憩に入ります.ますますオペラ並みの3時間コースに突入です

 

          

 

プログラム後半はショスタコーヴィチ「交響曲第8番ハ短調」です 彼は15曲の交響曲を作曲しましたが,このうち第7番,第8番,第9番は作曲時期が,ソ連から見ればファシズムとの闘いである第二次世界大戦と重なっていたことから 戦争3部作と呼ばれています この第8番は1943年夏という世界大戦の真っただ中に作曲され,その年の11月にモスクワで初演されました

オケは拡大してフル・オーケストラで臨みます.ゲルギエフの前には譜面台があります.ステージに登場したゲルギエフの手には短いタクトが握られています 割りばしよりも短いと思われます.さすがに1時間を超える超大作を指揮するのにはタクトによる明確な指示が要求されるのでしょう 第1楽章は,第5番”革命”の出だしに少し似ていますが,極めて暗く思い雰囲気の曲想です 終盤ではコーラングレ(イングリッシュホルン)によるソロがありますが,これが素晴らしい演奏でした 第2楽章は暴力的とでも表現できるような激しい曲想です.第3楽章はヴィオラの激しい刻みから入りますが,切羽詰まった感じの曲想です トランペットの独奏が冴えています 全体的に,ますます戦火が拡大していくような感じがします

第4楽章は暗く沈んだ葬送行進曲のような曲想です.そして最後の第5楽章を迎えます 「国家と労働者に奉仕する社会主義リアリズム」の立場から言えば,勝利の音楽ではなくてはなりませんが,フィナーレに向けて,穏やかである反面,何となく奇妙な感じのする曲想はいったい何なのでしょう まるで,ショスタコーヴィチが最後に皮肉を言っているようです 1時間にも及ぶ深刻な音楽を展開してきて,最後に「なんちゃって」と言っているような

曲が閉じて,ゲルギエフのタクトが下ろされるまで しばし会場にしじまが訪れました 物音ひとつしません.ずいぶん長い時間に感じました.ゲルギエフが力を抜くと,会場一杯の拍手とブラボーがステージを取り囲みました 演奏時間を図っていましたが,65分かかりました.終演は午後10時を回っており,まさに3時間コースでした

ゲルギエフは管楽器,打楽器を中心に立たせましたが,最後に全員で会場に一礼し,今後は後ろを振り返ってP席の方に一礼しました これは嬉しかったです.両手を上にして大きな拍手を送りました 多くのオーケストラは会場に向かって一礼をするけれど,後ろを振り返ってすることは滅多にありません 指揮者で言えばコバケンこと小林研一郎は必ずこのパフォーマンスを実行します オーケストラでは日本フィルがやるかな.これは良いことだと思うので是非,他のオーケストラもマネしてほしいと思います

なお,この曲についてはこの1週間,ベルナルト・ハンティンク指揮アムステルダム・コンサルトへボウ管弦楽団によるCDで予習してきました それが良かったと思います  こういう手ごわい曲は予習なしでは理解不能です

 

          

 

ところで,今回驚いたことがあります それは隣席(通路側)の中年男性がコンサートの最初から最後まで一度も拍手をしなかったことです こういう人を間近で見たのは40年以上にわたるコンサート人生で今回が初めてです しかも,コンサートが終わって席を立つ時,椅子の座面を上に畳まないで帰ってしまうので通路に出にくいのです.さらに椅子の下を見るとチラシの束が置きっぱなしでした どういう神経をしているのでしょう 私には理解不能です.長い間コンサートに通っていると色々な人に出会います.家でCDを聴いていたら経験できません

          

コメント
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