下條村のことを話してきましたが、この村がどうしても譲れないとしたことは、入居者の選定についてでした。村独自の選定基準で、人を選びました。そのために、国の補助金を活用しなかったのです。過疎化対策として、若い人に来てもらえば良いという姿勢では、持続的な受け入れが困難になります。地域に溶け込んで、収入を得る人材でなければならないでしょう。
そこで、村に溶け込み、生産性を上げる人材について考えてみました。過疎化が進む農山村では、人材の受け入れを希望しています。でも、地域に魅力がなければ、継続的に仕事に従事することはできません。地域の魅力は、「天地人」にあるかもしれません。寒暖差のあれば、害虫の被害が少なくなります。寒暖差が大きければ、リンゴやモモの甘みを増す良い果樹園になります。狭い斜面の土地でも、小規模の農業は可能です。無農薬農業や有機農業の場合、広い土地では難しくなります。作物の種類により、土地の肥沃度など考慮して有機農法をしていきます。小さな耕作地で有機農業を行えば、土地に負荷をかけずに、作物を育て、収穫することができます。最後は、人になります。過疎化の農地でみんなと同じ作物を作れば、過当競争に巻き込まれ利益はでません。他の地域では作らない作物で、なおかつ手のかからない作物を作る人達もいるのです。天地人の最後の条件の中では、仕事を楽しんで明るく過ごす人材が求められるようです。
ある村で受け入れた若者は、多くの経験をした人材でした。日本中をボランティアのアルバイトをしながら、農業に従事してきた青年です。全国各地にコミュニケーション網を持っている青年でした。普通の農家で栽培する作物には手を出さず、誰も作っていない作物に挑戦したのです。ただし、初期投資はできるだけ少なくしました。機械を買ったり、農地を買ったりすれば、借金という負担が生じます。借金をせずに、自分の身の丈にあった農業に最初から徹したわけです。
無農薬や有機農法、そして美味しい野菜だけでは、消費者を満足させることができなくなりました。単なる有機野菜では満足しない意識の高い高齢者や一人暮らしの方が、増えてきているようです。高齢者は、大きな白菜やキャベツを敬遠する傾向があります。ミニ白菜やミニキャベツ、そしてミニ大根など小さめの野菜を好む人達がいるのです。それらを料理しやすいような工夫を加えて、何種類かの野菜を詰めてセットで送付します。直販の絆を深めていくと、都会の消費者も安心できる作物の供給基地を求めるようになります。小さな農地で、限られた資源で、最大の効果を上げる仕組みを創り出しているわけです。日本の過疎地には、可能性のある地域が数多くあるのです。それを掘り起こせる人材を、引き寄せることができれば、地域は少し安泰です。