人は食べ物を食べると、美味しいとか、不味いという反応をします。この反応は、食べ物や料理に対して、人が最初に持つ期待に左右されるところがあるのです。「この肉は美味しそうだな」とか、「このワインはブドウの当たり年のものだからおいしいだろうな」という食べ物や飲み物に対する期待が、食体験に大きな影響を及ぼすのです。その期待を高める仕組みが、レストランには備えてあります。たとえば、高級なワインほど、グラスの空の部分が大きくなり、ワインの量が少なく感じます。でも、これには理由があるのです。グラスの上部を空にすることで、グラスに注がれたワインのアロマと香りがその空間に漂うことになります。空間に漂う注がれたワインのアロマと香りが、飲む者の鼻を喜ばせます。最初に嗅ぐ香りが、のちに味わうワインの期待を創り出すのです。、最初の一口が、もっとも大切なのです。最初の一口が美味しければ、次に口をつけるワインも同じだと、脳は感じてしまうのです。ある意味で、脳の未熟さともいえます。
そこで、脳の曖昧な性質を利用して、食物やその他のものを節約する仕組みを考えてみました。塩分は、料理を美味くする調味料です。塩がなければ、調理という文化は成立しなかったでしょう。長いフランスパンの塊を想像してみて下さい。そのパンは、外側に美味しさを演出する多くの塩分が含まれ、内部に行くほど少なくなるように作られています。消費者が、そのパンを一口かじります。一口目は、良い味がします。一口目の良い味が、脳に伝達されます。脳は、二口目も美味しいと解釈していきます。三口から四口と期待通りだという流れになって、最後に美味しいパンを食べたという食体験になるわけです。もし、このようなパンが作れるようになれば、塩分の消費量は減らせます。
余談ですが、塩分を減らすことは、日本人にとって喫緊の課題になっています。塩分の取り過ぎが、日本人の生活習慣病の増加を招いているともいえます。脳の曖昧さを利用して、塩分摂取を減少させる方法を開発してほしいものです。蛇足ですが、体内で塩分を濾過し、余分な塩分を塩線から体外に排出する鳥がいます。できればこの仕組みを解明して、日本人の塩分摂取を減らす方法を開発してほしいものです。もちろん開発できれば、大きなビジネスチャンスになりますね。話は戻ります。期待を演出する仕組みは、レルトランだけではありません。スーパーなどでも、利用できる手法です。新鮮な生鮮食品が、店に入ると目の前に並んでいる風景は心地良いものです。心地良い光景は、お客に心に健康や自然のイメージを呼び起こします。入り口の心地良い体験が、店の中に入っても続くという効果をもたらします。これは、脳の曖昧さを利用した演出になります。最初にお客に最高の演出を体験してもらい、中間部分では演出を減らしていく工夫をしていくわけです。
食体験を心地良くするする多く演出があり、それら演出が売上げに影響を与えることが分かってきました。経営者は、演出を無視することができなくなりつつあります。でも、演出にはコストがかかります。演出のコストと売上げのバランスをどのように取るのか、経営者の腕が試される場面も増えたようです。