TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」22

2017年09月29日 | 物語「約束の夜」

外へ出ると、空では月が輝いている。

満樹はひとり、歩こうと、辺りを見る。



待ち構えていたかのように、誰かがいる。

「何だ」
「待ってた」

満樹は、彼を見る。

「戒、・・・。いや」

云い直す。

「成院か」

同じ顔に、満樹は、この兄弟を見間違えることがある。
性格は似ても似つかないのに。

満樹は歩く。

「何か用か?」

満樹に、成院も続く。

「次は何をするよう大将に云われたのか、気になって」
「気に・・・?」

満樹は息を吐く。

「何だよ。お前ら兄弟で俺を見張っているのか」
「そう云うことじゃなく」
成院は首を振る。
「俺もたまには外での務めがしたい」
「ついてくるのか」
「そう」
「戒院と同じこと云うなよ」

満樹は嫌そうな顔をする。

「成院は村の守りを任されているんだろう」
「でも、たまには」
「やめておけって」

満樹が云う。

「他一族と下手に接触すると、病をもらうぞ」
「必ずしもじゃない」
「戒院はふらふらしているから、案外、何かもらっているかもな」
「それなら満樹だって!」
「俺は、うん。大丈夫だ」
「何!?」

特に根拠はない。

満樹は立ち止まり考える。
その様子に、成院も立ち止まる。
空を見る。

月が輝いている。

「大将に云ってみたらどうだ」
「何を?」
「外で務めがしたいと」
「いや、云ってはいるんだけど」
「ならいいじゃないか」
満樹が云う。
「いつか、外での務めを任される日が来るさ」
「そうかな・・・」

「ところで」

満樹は、話題を変える。

「戒院からもらったのか?」
「戒から? 何を?」
「おみやげ」
「おみやげ!?」

成院が声を上げる。

「おみやげ?? って?」
「何か買っていたぞ」
「え、何だろう。もらってな、」
「お前から杏子に渡す用って云ってた」
「杏子に!!」

成院の声が裏返る。

「あん」
「ず」
「ええぇええええ!?」
「まだ受け取ってないぞ!」
「そうか」

うーんと、満樹は首を傾げる。

「じゃあ、杏子に直接渡したのかな」
「何!!」
「晴子と杏子用だと云っていた」
「おい! あいつ!!」

務めの話を忘れ、成院は走り出す。

その後ろ姿を見ながら
よし
このまま東を出て、南の務めに行こう。

と、満樹は思った。

思ったが

一応、最後に声をかける。

「戒院が買っていたの、砂一族製のおみやげな」

「あいつはばかか!!」



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「約束の夜」21

2017年09月26日 | 物語「約束の夜」

「考えたのだけど」

狩りの帰り道。
美和子が提案する。

「いっそ、逆を探してみたら」
「逆?」
「私達、北一族の村とその往復しか
 探してないじゃない」
「ええっと、
 ………南一族の村、って事!?」
「そう」

と言われても、
なぜそこで南一族の村になるのか
京子は首を捻る。

「うん?」

「例えば、
 耀が自分の意志で失踪したなら、
 行き先はあえて逆を伝えるかもしれない」

「………」
「………と、思うのだけど。
 私の考えすぎ?」
「凄い美和子。
 確かにそうかも!!」

思いつきもしなかった。
誰かと共有できるって素敵だ、と
京子は嬉しくなる。

「今度、出かけるならいつ?」
「そうね、次は―――」

数分後には、日程も決まり、
じゃあ、当日の朝に馬車乗り場でと
約束をして二人は別れる。

手を振って、ほう、と
京子は感嘆のため息を漏らす。

「美和子と居ると。
 計画がどんどん進んでいくわ」

突っ走る事の多い京子だが、
躊躇っていたり
どうしようか、と悩んでいる事も多い。

美和子が2つ年上なのもあるが、
ぐんぐんと
引っ張ってくれている。

「南一族の村。
 小さい頃に旅行に行って以来だな」

母と兄と、
一泊二日の小旅行だった。

大きな観光地があるわけではないその村で
ゆっくりと過ごすだけの旅行だったが
とても楽しかったのを覚えている。

「あえて、南一族の村、か」

そう言えば、と
その足で京子は病院に向かう。
予防接種を延期したまま
済ませていなかった。

なんとなく、だけど
出かける前には
色々と用事を済ませておきたい。

「あ、京子久しぶり」

受付にいた医師見習いに
京子は、うわぁと嫌悪の声を上げる。

「この前の事は謝るから
 京子、その顔、止めて」

笑われた事を京子は忘れていない。
根に持つタイプだと自覚している。

ごめんって、と謝る医師見習いに
それじゃあ、と京子は言う。

「例えば、の質問なんだけど」

兄の、耀ぐらいの年頃の男性の考えは
京子には分からない。
だから、聴いてみる。

「この村を出て行きたいほど
 嫌な事って何だろう」

考えつかなかったのもある
けれど、
考えたくも無かった事でもある。

耀が

自らの意志で

失踪する、なんて事。

耀の事だとは、すぐに察したのだろう。
きわめて冷静な声で
医師見習いは答える。

「見切りを付けたいほど、嫌な事なんて、
 あげればきりがないよ」

「………」

「ただ、逆もあるんじゃないか」
「逆」

今日はそればかりだ、と
京子は思う。

「大事だから、
 行き先を告げずに、行かなきゃいけなかった」
「なにそれ、例えば?」
「そこまでは分からないけど」
「説得力が無いわね~」

これでも一応慰められているんだ、と
京子は気付く。

「そうね。
 そう考えてみるわ」



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「約束の夜」20

2017年09月22日 | 物語「約束の夜」

東一族の村へ戻った満樹は、
すぐに大将のもとへと招集される。

満樹は部屋へと入る。

「戻ったか」

満樹は顔を上げ、部屋の中を見る。

そこにいるのは大将だけ、ではない。

大将と並び、
戦術師を担う、実力のある者。
地位の高い者。

大将は首を傾げる。

「戒院はどうした」
「え?」
「戒院も北に同行したのでは?」
「・・・えっと」

満樹は頭を触る。
一応、そのまま答える。

「戒院なら医師見習いの実習に向かいましたが」

「何?」
「だから、医師見習いの」
「務めに向かったものとして、招集をかけたのだが」

大将は頭を抱える。

ふっ、と
大将の横にいる者が、笑う。

「戒院らしい」
「申し訳ありません」

いない戒院の代わりに、その兄が頭を下げる。

大将の横にいるのは、現宗主の孫に当たる者。
つまり、次々代の宗主である。
彼は問題ない、と、手を上げる。

戒院の兄は、満樹を見る。

「北では、戒院と共に行動を?」
「そのはず」
「なら、兄さんの報告だけで足りますか」

問われて、大将は頷く。

「仕方ない。では、はじめよう」

大将の言葉に頷き、満樹は話し出す。

北一族の地図を広げ、ありのままの報告をする。

東を標的にするであろう西一族と砂一族には、
大きな動きは見られない、と。

「そうか」

大将は満樹を見る。

「ほかに気になることは?」
「北では、裏一族と名乗る者が」
「裏一族?」
「名乗っているだけです。脅しを」
「裏とは無関係だが、と云うことか」
「そうです」

戒院の兄が云う。

「最近、裏一族の方に動きがあるようです」
「そのようだ」
「だから、無関係でも、裏と名乗って悪さをする者も多いとか」
「しかし、本物の裏には謎が多すぎる」
「動きがあっても、目的が掴めない」

大将が云う。

「裏が、東に諜報員としてまぎれる可能性は低いが」

東一族は、8一族の中でも珍しい黒髪である。
つまり、
他一族が東一族のふりをして入り込むことが、難しいとされる。

「用心はしておくべきだろう」

その場にいる者たちが頷く。

「戦術師たちにはそう伝えるように」

皆が解散し、部屋には大将と満樹が残る。

「満樹。お前はこの務めは終わりとする」
「え?」

満樹は大将を見る。

「なぜ?」
「お前は通常の務めに戻ってもらう」
「まだ、何の手がかりも得られていません」
「何者かが東を窺っている件。これは別の者に託す」

満樹は首を振る。

「俺が、この件を続けます」
「駄目だ」
「大将」

満樹は云う。

「俺は・・・、皆のように魔法を使うことが出来ません」
「それが何だ」
「誰かと組む通常の務めでは、足を引っ張ってしまう・・・」
「そんなことはない」
大将が云う。
「お前が足を引っ張ったことはないだろう」
「大将・・・」
「弱気になっているのか」
「いえ、」
「誰も、お前が役に立たないと云ったことはない」
「・・・・・・」
「満樹?」
「俺は、・・・魔法をうまく扱えないことを恥じているんです」

満樹は、大将から目をそらす。

「それで、父さんにも恥をかかせているのではないかと」
「そんなことは、」
「大将」

満樹は云う。

「務めは果たしたいのです。でも、それは村外で、ひとりで・・・」
「満樹・・・」

「俺の気持ちを汲んでいただけませんか」



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「約束の夜」19

2017年09月19日 | 物語「約束の夜」


「耀、
 見つからなかったって?」
「そうなのよ」

北一族の村から帰ってきて数日。
狩りで使った道具を磨きながら
京子はうなだれる。

「でも、まぁ。
 思ったよりは落ち込んでないわよ」

はい、と
研ぎ終えた小刀を渡し、
次の道具にとりかかる。

「それは重いだろ。代わるよ」
「ありがと、巧(たくみ)。
 じゃあお言葉に甘えて」

今日の狩りは良い成果を出した。
班のメンバーが粒ぞろいだったこともある。

「………捌き終えたけど」

川沿いから広司(こうじ)が帰ってくる。

「もう終わったの!?
 早いわね。どれどれ」

獲物を捌き終えるまでが狩りだ。

「上手に出来てるわ。
 狩りの時も思ったけど
 あなた、手際が良いわよ」

広司は嫌がって避けるが
京子は頭をよしよしとなで回す。

「年上ぶるな」
「年上だもの」

西一族の若者は、
一族の風習として狩りを行う。

幼い頃から訓練を始めるが、
広司ぐらいの年頃になると
本格的に狩りの一員として参加するようになる。

「腕前が良いのは分かるけど。
 頑張りすぎず、息抜きもしないと」
「俺は役立たずとは違う」
「なに?
 広司は役立たずじゃないわよ。
 そんな事気にしていたの??」

おぅい、と巧が割って入る。

「京子、あんまり広司を
 からかってやるな」
「からかってません。
 これは、そう。
 先輩からのアドバイスよ」

それがからかってるって言うんだ、と
巧が呆れる。

「悪いな広司。
 こいつ初めて後輩?が出来て
 先輩風を吹かせたいだけなんだよ」
「知ってる」
「だよな」

「なによ。
 男二人で意気投合して」

頬を膨らませかけた京子は、
あ!!!
と、突然大きな声を上げる。

「美和子だ。
 巧、ちょっと行ってくる!!」

それだけ言うと
京子は、美和子の名を呼びながら駆けていく。

「………騒がしい」

やっと解放された、と
広司が呟く。

狩りの間も
よく口が動くんだよ。と
今日の班長である巧はあきれる。

「早く終わらせて帰ろう」
「そうだな。
 広司の方がちゃんとしている」

それにしても、と
広司は京子が駆けていった方を見る。

「珍しい組み合わせ」
「確かに」

わいわい騒がしい京子と
落ち着きがあって
すっと、仕事をこなすタイプの美和子。

「なんか、共通の趣味でもあるんじゃないのか」
「………趣味」
「小物細工、とか。
 西刺繍とか……女子会、とか」
「美和子はともかく」
「京子がなぁ」

こっそりと、巧と広司が笑う。



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「約束の夜」18

2017年09月15日 | 物語「約束の夜」

裏一族

と、名乗る者たちが襲ってくる。

相手は5人。
こちらは、ふたり。

見た目は北一族。
北一族式の魔法を使ってくるかもしれない。

満樹は、剣に触れる。

「満樹」
「何」

戒院が云う。

「何だっけ。こう、うちの掟的な」
「他一族の村では、武器と魔法を極力使わず」
「そうだったっけ?」
「お前、宗主様の尋問だぞ」
「判ってる。でも」
「でも?」
「極力、だもんな」
「・・・うん?」
「絶対使うな、じゃないよな」
「・・・戒院」

「満樹、剣を抜くなよ」

「お前ら何を話している!」
「北一族式魔術を見ておけ!!」

「いやいや、裏じゃないのかよ」

云いながら、戒院が構える。

「なら、魔法対決だな」

「東め、何を云う!」
「なめやがって!」

と、

目の前に陣が現れる。

「!!」
「!!?」

瞬間

発光。

月夜が、一瞬、光輝く。

「っつ!!」
「あぁああああ!?」
「目がっっ!!」

裏と名乗る者たちが、怯む。

視界を奪う、魔法。

「東一族式紋章術!」

彼らはよろける。

満樹が訊く。

「俺は何をすれば?」
「見てろって」
「転送術でも使うのか?」
「そんな高度な魔法は高位しか使えねぇよ」
「いや。お前も高位家系だろ」

もうひとつ、陣。

「次は、」
「・・・!!」

突然、矢が飛んでくる。
満樹と戒院はそれを避ける。

「危なっ!」
「よく見えてもないのに、矢なんか放つなよ!」
戒院は指を差す。
「俺に当たるだろ!!」
「戒院・・・」

満樹は息を吐く。

「相手にしてる暇はない」
云う。
「早いとこ捕えて、北の自警団に引き渡そう」

「満樹」

戒院は陣を張り直す。
満樹は、縄を持つ。

「行くぞ!」

戒院の紋章術発動。
合わせて、満樹は縄を放る。

「何だ?」
「何が、」
「!!?」

満樹の放った縄が、生き物のように動く。

「こう云う風に魔法と組合せるんだよ!」

戒院が手を動かす。
それと同時に、縄が大きく囲む。

「!!!」
「まさかっ」

そのまま

視界を奪われた裏一族と名乗る者たちを、取り押さえる。

「動けない!」

「よしよし、お前らそのまま動くなよ」

さあ、と、戒院は満樹を見る。
「早いとこ東に戻るか」
「そうだな」
「急いで帰らないと、明日の実習に間に合わないからな!」
「・・・あ、そう」



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