大将の部屋を後にして、満樹は外へと出る。
息を吐き、歩く。
そう云えば、この先
京子とは、北一族の村で待ち合わせ、と云う話になっていた。
北へと向かえるだろうか。
許可は、下りるのだろうか。
「いや、最悪、個人的に行けばいいだけの話か」
東一族も当然、他一族の村への出入りは自由である。
どこで、何をしようと。
務めさえ、なければ。
「・・・あれ?」
満樹は首を傾げる。
何か
何かを忘れていないか。
「何だっけ?」
北に向かう前に、えっと。
えっと??
「兄さああぁああああん!!!」
「・・・??」
「に、いぃい、さぁあああああああああんんん!!」
この声は。
「水樹?」
水樹だ。
本日、門番当番体験の。
「なぜここにいるんだ?」
と、思いつつも、満樹はすたすたと歩く。
「いやいや、兄さんっ!!」
水樹はがしっと、満樹の腕を掴む。
「満、樹、兄さん!」
「くっ」
やはり、自分を呼んでいたのか。
このはっちゃけた水樹は。
「聞いてる、兄さん!?」
「いやほら、どこの兄さんを呼んでいるのかと」
「ここには満樹兄さんしかいませんー!」
幼稚園児のノリで、水樹はアゴを突き出す。
「お前、今日門番だろ」
「もう、行っていいって、云われた!」
「まじでか・・・」
めんどくさがったのか!
めんどくさがったのか、門番付き添いは!!
「このあと、鍛錬に行くんでぇい!」
「ふぅん」
「俺、鍛錬好き!」
「真面目で感心するよ」
「俺は、満樹兄さんの武術にも感心している!」
「そうか」
「でも、これからの鍛錬は成院兄さんとなんだ!」
満樹は頷く。
「なら、もう、成院も師匠(せんせい)なんだな」
「そうか! 成先生って呼ばなくちゃ!」
ウキウキ水樹。
「でも、水樹」
満樹は首を傾げる。
「この前の課業、落第点で居残りじゃなかったか?」
課業。
つまり、坐学。
机に向かって勉強。
「そっちの勉強もした方が、・・・って」
何だか静かになった水樹。
「おい、水樹?」
どうしたらいいんだ、これ?
水樹は立ち尽くしたまま
両手の平で、顔(と云うか、目)を覆っている。
ピクリとも動かない。
「えっ。もしや、その話には触れたくない、てこと?」
何その、幼稚園児並みの反抗。
「兄さん」
「何」
両手の隙間から、ちらりと水樹の目が見える。
「俺は何も聞いてない」
「・・・・・・」
「俺にだって、苦手なものはある」
「うん」
「この格好が可笑しかったら、笑うがいい」
「・・・えっと」
「さあ、動画でも撮ってくれ!」
「いや、静止画でいいだろ!」
「・・・あの」
突然第三者の声。
「そろそろ、いいかな?」
満樹は、水樹の後ろに立っている者を見る。
「はっ! もしや!?」
「あ、そうそう。この方を連れてきたの」
水樹が手を向ける。
「海一族のお方ですっ!!」
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