TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」82

2018年06月29日 | 物語「約束の夜」

大将の部屋を後にして、満樹は外へと出る。
息を吐き、歩く。

そう云えば、この先
京子とは、北一族の村で待ち合わせ、と云う話になっていた。

北へと向かえるだろうか。
許可は、下りるのだろうか。

「いや、最悪、個人的に行けばいいだけの話か」

東一族も当然、他一族の村への出入りは自由である。
どこで、何をしようと。
務めさえ、なければ。

「・・・あれ?」

満樹は首を傾げる。

何か

何かを忘れていないか。

「何だっけ?」

北に向かう前に、えっと。

えっと??

「兄さああぁああああん!!!」
「・・・??」
「に、いぃい、さぁあああああああああんんん!!」

この声は。

「水樹?」

水樹だ。
本日、門番当番体験の。

「なぜここにいるんだ?」

と、思いつつも、満樹はすたすたと歩く。

「いやいや、兄さんっ!!」

水樹はがしっと、満樹の腕を掴む。

「満、樹、兄さん!」
「くっ」

やはり、自分を呼んでいたのか。
このはっちゃけた水樹は。

「聞いてる、兄さん!?」
「いやほら、どこの兄さんを呼んでいるのかと」
「ここには満樹兄さんしかいませんー!」

幼稚園児のノリで、水樹はアゴを突き出す。

「お前、今日門番だろ」
「もう、行っていいって、云われた!」
「まじでか・・・」

めんどくさがったのか!
めんどくさがったのか、門番付き添いは!!

「このあと、鍛錬に行くんでぇい!」
「ふぅん」
「俺、鍛錬好き!」
「真面目で感心するよ」
「俺は、満樹兄さんの武術にも感心している!」
「そうか」
「でも、これからの鍛錬は成院兄さんとなんだ!」
満樹は頷く。
「なら、もう、成院も師匠(せんせい)なんだな」
「そうか! 成先生って呼ばなくちゃ!」

ウキウキ水樹。

「でも、水樹」

満樹は首を傾げる。

「この前の課業、落第点で居残りじゃなかったか?」

課業。
つまり、坐学。

机に向かって勉強。

「そっちの勉強もした方が、・・・って」

何だか静かになった水樹。

「おい、水樹?」

どうしたらいいんだ、これ?
水樹は立ち尽くしたまま
両手の平で、顔(と云うか、目)を覆っている。

ピクリとも動かない。

「えっ。もしや、その話には触れたくない、てこと?」

何その、幼稚園児並みの反抗。

「兄さん」
「何」
両手の隙間から、ちらりと水樹の目が見える。
「俺は何も聞いてない」
「・・・・・・」
「俺にだって、苦手なものはある」
「うん」
「この格好が可笑しかったら、笑うがいい」
「・・・えっと」
「さあ、動画でも撮ってくれ!」
「いや、静止画でいいだろ!」

「・・・あの」

突然第三者の声。

「そろそろ、いいかな?」

満樹は、水樹の後ろに立っている者を見る。

「はっ! もしや!?」

「あ、そうそう。この方を連れてきたの」

水樹が手を向ける。

「海一族のお方ですっ!!」



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「約束の夜」81

2018年06月26日 | 物語「約束の夜」

「おなかすいた」

夕飯の食材を集めるため
京子は出かける。

一度ハンバーグが食べたいと思ったら
口の中がハンバーグで構えている。

「材料揃えても良いけど、
 出来合いもありよね」

西一族は観光の村では無いが
見て回る所も多いし、
ご飯の美味しい店もある。

「あそこの肉料理最高なのよね。
 満樹、は食べないか。
 ツイナには食べさせてあげたいな~」

いや、満樹だって食べたら
美味しい、お肉大好きって
言うかもしれない。

「おうい、京子」

狩りの帰りであろう集団が
京子に声をかける。

「おかえり~、今日の成果はどうだった?」
「ぼちぼちだな」
「それより京子、
 この前の狩りは休みやがって」
「大変だったのよ」
「ごめん、ちゃんと別の日に出るから」

定期的に行われる狩りには
当番制で出る事になって居る。

先日、同じ班だった巧が問いかける。

「次は大丈夫なんだろうな」
「それが、
 次回もちょっとお休みするかも」

まじかー、とみんなが反応する中、
うーんと、巧が頭をかき
声を潜める。

「耀の事、
 あんまり思い詰めるなよ」
「………ありがとう。
 迷惑かけるわね」

全く、とため息をつく。

「2人も抜けてたから
 穴を埋めるのが大変だったんだぞ」

2人。
そう、つまり

「そう言えば、京子。
 美和子とは―――」
「………んん!!」

不意打ちで尋ねられ、
思わず変な声が出る京子。

「あ、美和子は、その」

どうしよう!!

京子は焦る。

確かに、京子1人帰って来たら
みんな疑問に思うはず。

美和子は裏一族。

本当に黙ったままでいいのか。
巧や高子、
信頼できる数名であれば話してみても。

「あの、実は」
「いいんだよ、京子。
 俺達知ってるから」
「……え、知ってる?」

安心しろよ、という表情で
皆がほほえみかける。

「美和子とケンカしたんだって?」

間。

「………んん?」

額に手を置き、
一呼吸置く、京子。

「えぇっと、ちょっと待って。
 私と美和子が何だって?」

パードゥン。

「ケンカしたんでしょう」
「………間違ってはいない」
「それで、旅先で
 2人は袂を分かったと」
「………そういう言い方もできる」

なにそれ、どこ情報?
疑問符が浮かび
京子は事態を理解出来ない。

「大丈夫、美和子はもう
 怒ってないって言ってたぞ」

「誰が!!!?」
「だから美和子が」

そうだろう、と
1人が後ろを振り向く。

「えぇ」

今、彼らと一緒に
狩りを済ませてきたのであろう。

美和子が、そこにいる。

「京子、この前はごめんね。
 仲直りしたいの」

さぁ、と手を差し出す。

「少し、2人で話しましょう」



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「約束の夜」80

2018年06月22日 | 物語「約束の夜」


「お帰り、満樹」

今は一線を引き、ほぼ卓上で務めをしている大将。

のもとに、やっとたどり着いた・・・。

「どうした?」
「いえ・・・」
「ずいぶん疲れているな」
「えーっと、」

トドメが、あなたのお孫ズでした。

首を傾げ、大将が訊く。

「報告の前に、皆を集めよう」

大将が人を呼ぼうとする。



「大将」
「何だ」
「皆に報告出来ることなのか、まずは訊いていただけますか」

満樹の言葉に、大将は持っていた筆を置く。
満樹を見る。

「何かしら情報があったのか」
「・・・・・・」
「満樹?」
「はい・・・」
「お前、いったいどこまで行ってきたんだ?」

満樹はうつむく。

「南と、その先。海もか?」

「あと、山一族の方にも」

「山へ?」
「はい」
「・・・そうか」

大将は、息を吐く。

「ずいぶんと、西の近くまで行ったものだ」
「西は経由していません」
「当たり前だ」

まあいい、と、大将は満樹を見る。

「では、報告を聞こう」

満樹は頷き、話し出す。

南一族、海一族、山一族のこと。
各一族で失踪した者がいると云うこと。
裏一族に会ったこと。

彼らの目的は判らないこと・・・。

満樹は、京子のことは伝えない。
西一族と接触することは、もちろんタブーである。

結局は、当たり障りのない報告となる。
満樹としても、不確かなことを伝えていいものか
迷ったからだ。

満樹が話し終わると、大将は頷く。

これで、報告として、受け取られただろうか。

満樹は、大将を見る。

「実はな、満樹」

大将が云う。

「ここ数日、北一族の商人とやらが頻繁に出入りしている」
「北の商人?」

大将の言葉に、満樹は首を傾げる。
商人の出入りは、けして珍しいものではない。

「その者と接触した者が多い」
「何をしに東へ?」
「外の品物を、配って回っていると」
「外の品物?」

もちろん、それも普通のこと。
商人は、商売に来ているのだから。

「でも、目的は売買ではない」

「・・・・・・?」

「東一族の誰かを探している」

「まさ、か」

「つまり、相手は、北一族のふりをした裏一族だ」

満樹は首を振る。

「なら、包囲網を」
「その商人は入れ代わり立ち代わり、何人かいる」

大将が目を細める。

「本当の北一族の商人と、間違えるわけにはいかない」
「・・・裏一族はいったい誰を探して、」
「それは、満樹が掴んできたのだろう」

その言葉に、満樹は目を見開く。

大将は続ける。

「どうも、東側の裏切りや諜報員、と云うわけではなさそうだ」

大将の目は、まっすぐ満樹を見る。

「いったい、うちの一族の誰を探している」



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「約束の夜」79

2018年06月19日 | 物語「約束の夜」
「ただいま~」

うぁああ、と玄関を開ける京子。
家の中は静まりかえっている。

「母さんは、まだ仕事中か」

そうよね、と
荷物をその辺りに放り投げると
キッチンでお茶を入れて
居間のソファに座り込む。

テーブルの上に置いてある
砂糖漬けの果物をつまみつつ
お茶をすする。

「ふ~、落ち着く~」

宿で体を休めるのとは違う、
勝手知ったる我が家だ。

「…………」

これから、京子がしないといけない事。

本来なら、
美和子の離反。
裏一族との接触。

東や、海一族と行動を共にしたこと。

これは村長への報告事項だ。

「でもなあ」

先程、千に話すのを躊躇ったのも
同じ理由。

きっと、京子は村から出してもらえなくなる。
狙われていると分かったならばなおさら。

身を守るためにみんなが動いてくれる。

ありがたいことだけど。

「これは自分で
 解決しないといけない事だから」

なぜ、裏一族は自分たちを狙っているのか。

それに。

自宅で気が緩んだのか
京子はウトウトし始める。
旅の疲れがどっと出てきた。

少しだけ、と
ソファに横になりながら呟く。

「北一族の村に行かなきゃ。
 満樹とツイナが待っているのだし」

起きたらしなくてはいけない事が
たくさんある。

だから、そう
少しだけ。

京子は瞼を閉じる。


「ほら、京子はそうやって
 すぐあちこちで寝る」

ブランケットを駆けながら
風邪引くぞ、と言う声が聞こえる。

あぁ、夢だなと
思いながらも
眠気で目が開けられない。

(……お兄ちゃんだ)

キッチンで火を付ける音。

小腹が空いたのだろう。
夕食には少し早い時間。
具材を切る音と共に
小さく鼻歌が聞こえる。

何の歌だかさっぱり分からなかったけど
いつも同じ様に歌うから
メロディーは覚えてしまった。

美味しそうな匂いと
兄の声。

「京子、起きてる?
 一緒に食べるか?」

そうやって、2人で軽食をつまんでいると
母親が帰ってきて
ちゃんと夕飯入るんでしょうね?と
怒られるのだ。


「お兄ちゃん」

京子は起き上がる。

家には京子の気配しか無く、
キッチンの火は消えている。
ブランケットも掛かってはいない。

「…………夢か」

懐かしい夢だった。
何てことのない日常で
つい一年前までは当たり前だった景色。

千と、
兄と雰囲気が似た人に会ったからだろうか
こんな夢を見てしまうなんて。

少し泣きそうになって、
首を横に振る。

北一族の村に向かう、もう一つ、大事な理由。

「お兄ちゃんは
 絶対に私が見つけるんだから」



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「約束の夜」78

2018年06月15日 | 物語「約束の夜」

「ああ、ほら」

ぶつぶつと、満樹は呟く。

「思った通り・・・。体験だから付き添いがいる」

東一族の村。
正式な入口の方に戻って、満樹はその様子を見る。

幼い水樹と、もうひとりの門番当番。

ちょっと緊張の面持ちで、水樹は立っている。
ちゃんと、門番をやっているようだ。

物陰で、満樹はうんうんと頷く。

「・・・よし!!」

「何が?」

「っうう!?」

背後からの突然の声に、満樹は驚く。
が、精一杯声を抑えた。

「兄さん、戻っていたの?」
「はる、こっ!」
「はい?」

云いながら、晴子も物陰から水樹の様子を見る。

「よし、やっているわね!」
「様子を見にきたのか?」
「もちろん。弟ですもの」
「・・・そうか」
「ほら。水樹って、ちょっとはっちゃけてるし」
「・・・・・・」
「門番体験とは云え、心配で」
「お前の兄も、そう云っていたぞ」
「兄さんはここで何を?」
「えっと」
「もしかして、水樹の心配を?」
「いや、うん。まあ」
「あらあら」

晴子は、うふふと笑う。

「兄さんはひとりっこだから、弟が羨ましいのね?」
「そうじゃなく、」
「残念ながら、水樹はあげられないのよ」
「えぇえ??」
「ごちそうさま、よね~」
「えっ、どう云う意味?」

満樹は、晴子に微笑ましく見られる。

いや。違う。
違う、けど、
本当は、お前の兄に脅されたんだよ、とは、・・・云えない。

「じゃあ、水樹もちゃんとやっているし、俺行くから」
「ふふ、ありがとう」

あ、そうだ。
と、晴子は持っていたものを見せる。

「見て、これ! 果物を砂糖漬けしたの」
「えーっと。これは、晩柑?」
「そう。晩柑」

ミカン科ミカン属
ブンタン類に属する、標準和名「河内晩柑(かわちばんかん)」

「あ、これは、天草晩柑ね」

晴子は、砂糖漬けのそれを、3袋持っている。

「誰が作ったのがおいしいか、食べ比べしたのよ~」

晴子の女子トークが炸裂しだす。

「私と、杏子と篤子の3人で、ね!」
「・・・へえ」
「やっぱり一番上手なのは篤子姉さんのかなぁ」

満樹は一応頷く。

「水樹を心配してくれたお礼に分けてあげるわ!」
「えっ」
「ちょっと待ってて! 今、瓶に入れ直してくるから!」
晴子はくるりと、向きを変える。
「ちょっ、晴子! ちょっ!!」
満樹は、小声でそれを制止する。
「大丈夫。俺は大丈夫」
「え? 甘いものは苦手なの、満樹兄さん?」
晴子が女子フェイスで、うるるっとなる。
「違う! 違う、けどっ、大丈夫!」
「いいのよ、遠慮はしないで!」
「いや。俺より渡す相手がいるだろう!」

満樹は、とにかくてきぱきと指示を出す。
そうそう。
自分は大将のもとに、報告に行きたいのだ。

「杏子が作ったものは成院。篤子が作ったものは大樹」

そして

「晴子が作ったものは戒院、だ」

「まあ!」

晴子は首を傾げる。

「杏子が作ったものは、光の兄さんではなく?」

そっちかー!!

正直、どっちでもいい。

「うん、じゃあ。そうしよう!」
「そうね、そうするわ!」
「いや、でも、成院にもちょっと分けておけよ」
「はぁい」

うふふと、晴子は駆けだす。

「何だか、ごめんなさい。満樹兄さん!」

大丈夫。
お気遣いなく!!



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