「何か飲むか」
云いながら、巧が病室に入ってくる。
「巧・・・」
杏子が云う。
「今、・・・」
「圭になら、そこで会った」
「・・・・・・」
「いろいろ考えるな」
杏子はうつむく。
「考えるのは、退院してからでも遅くはない」
「巧、」
「なんだ」
「その、・・・」
「いろいろ考えるなと云っただろう」
杏子の顔が戸惑っているのを見て、巧はため息をつく。
「高子でもいい。沢子でもいい。気になるのなら相談しろ」
「・・・・・・」
杏子は、そっと顔を上げる。
「巧は、これから」
「俺のことはどうでもいい」
巧は立ったまま、杏子を見る。
云う。
「真都葉」
「・・・?」
「その子の名まえだ」
「真都葉・・・」
杏子は、その名まえを繰り返す。
そして、子どもを見る。
「慣れないか?」
「いいえ」
「東一族の名付けとは違う」
杏子は首を振る。
「素敵な名まえね」
「そうか」
巧は云う。
「よかったな」
その言葉に、杏子は巧を見る。
首を傾げる
「俺が付けたんじゃない」
「・・・・・・?」
「その子の名まえは俺が付けたんじゃない」
「どう云うこと?」
「その子の父親が考えた名まえだ」
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