TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」56

2018年03月30日 | 物語「約束の夜」

「ちょっとした植物・・・」

満樹と繭里の前に、人為的に育てているであろう植物群が広がる。

確かに、この植物も、人里離れたところならば、
普通に、そして、ひっそりと咲いている。

けれども、これは、

「どちらかと云うと、毒となる植物」

満樹は、繭里を見る。
繭里と目が合う。

「詳しいんですね」
繭里が云う。
「植物の名まえも、その成分もご存じなんでしょう」

東一族なら、これぐらいの知識は普通だ。
隣に、毒を扱う一族がいるのだから、
自ずと、それを学ぶことになる。

「別にこれを、一族ぐるみで育てているわけではありません」
「え?」
「私の友が、ひとりで育てていました」

「ひとりで?」
「そうです」

満樹は再度、息をのむ。

「こんなにたくさんの毒植物を、何のために?」

ざっと見積もっただけでも、何種類もの毒が採れる。
これがもし、裏一族や悪人のもとへと流れれば・・・、

「私が思うに、その友の」
「うん」
「趣味だったと思います」
「そう、趣味か」

ん?

「趣味?」
「そうです」

あれ?

「こう、毒を使ってみたいとか、売ってお金にしたいとか」
「・・・・・・?」

繭里は、目を細める。

「そんな悪人じゃありません」
「単なる趣味ってこと?」
「そう」
「えーっと、」
「植物を育てるのが趣味だったんです」
「いや、全部毒植物なんだけど」
「趣味なんです!!」

まさかの

「ハシリドコロ、ジキタリス、ダチュラ・・・以下略」

「実は、その友が失踪しました」
「え?」
「だから、あなたをここへ案内したんです」
「長期の狩りに出たとか、そんなんじゃなく?」
「違います」
「でも、そのうちに帰ってくるとか」

「こんなにも愛していた植物を置いて、失踪しますか!?」

植物への愛、半端ない。

満樹は少し考える。

もしや

「その、友。なんだけど」
「はい」
「もしや、手にアザがあった?」
「アザ?」

繭里は首を傾げる。

「手に……、あ!」

満樹を見る。

「手のひらに、何かアザがあったわ」
「本当に?」
「生まれつきだとは云っていたけど……?」

繭里は、口元に手をやる。
考える。

「滅多に来ることがない東一族のあなたが来たから、聞きたいのです」

繭里は何か、知っているのだろうか。

「与篠(よしの)の失踪に、ひょっとして、あなたは関係がありますか?」

「…………」

「何かがあって、この山一族の村へと来たのでしょう?」

「まあ、そう、なんだけど」

「判りました」

繭里が歩き出す。

「では、こちらへ案内します」



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「約束の夜」55

2018年03月27日 | 物語「約束の夜」

一方その頃は、で
山一族の村付近で野営の準備中の
京子とツイナ。

「そうなの、人捜しの旅。
 大変ね」

かち合ってしまった、
山一族の女性と
たき火を囲んで会話が弾む。

「さっきは、
 驚かせてしまってごめんなさい」

そう。

互いに不可侵の決まりを結んでいる。
西と山。海と山。

その決まりの通り
村には入っていないのだから、
堂々としていて良かったのだ。

山一族の女性は
京子に視線を送る。

「西一族の女の子を見るのは初めてなの
 つい、声を掛けちゃって」
「そうなんだ。
 私も山一族の人に会うのは初めて、かも」
「狩りの一族って言うけれど、
 勇ましいだけじゃなくて
 かわいいのね」
「ええ、そんな。
 えへえへへへっへへ」

「海一族ボーイも居るよ!!」

頑張れツイナ。
女子トークについて行くんだ。

「貴方達も不思議な組み合わせね。
 西一族に海一族。
 それに、もう1人は東一族って」

言われて、確かにと
京子とツイナは顔を合わせる。

「満樹ね。
 そう言えば戻って来ないわね。
 何してるのかしら」
「そだねー」

すぐ戻るとは言っていたが、
具体的には何時間程なのか。

そろそろ、日が沈みそう。
そして、夕飯の準備をしたい所。

さて、と
山一族の女性は立ち上がる。

「私はそろそろ村に戻らないと。
 お茶ごちそうさま」
「私達も楽しかった、です」
「時間もつぶせたし」

あ、そうだ、と
京子が言う。

「村で満樹を見かけたら早く帰るように
 声を掛けてくれない」

「………」

「えっと。
 会えたらで良いのだけど」
「いいえ。そうじゃなくて」
「て?」
「もしかして、
 身動きが取れないんじゃないのかしら」

ぽつり、と。

「ウチの一族は警戒心が強い所があるから。
 監視がついている、のかも」

「満樹兄さんピンチなのか!!!」
「ほらやっぱり
 私達がついて居ないとダメじゃない」
「兄さんの様子が分かればなぁ」

「どうしよう」

京子がしおしおと
元気を無くしていく。

「満樹も
 お兄ちゃんみたいに戻らなかったら」

「………京子」

繊細な所もあったのか、と
思いつつも
とっさの判断で口には出さないツイナ。

空気の読める子。

「それなら、私の家に来ない?」

急に静まりかえった雰囲気に
あわあわと、
山一族の女性が提案する。

「村の外れだから、入りやすいし、
 滅多に人は来ないの。
 そこで様子を探ってみる?」



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「約束の夜」54

2018年03月23日 | 物語「約束の夜」

「こちらが、鳥舎です」

繭里は手を掲げる。

「すごい・・・」

そこに、数十羽の鳥。
止まり木に、所狭しと整列している。

「私たち山一族が飼い慣らしています」
「なら、それぞれの家に連れて帰ればいいのに」
「意味が判りません。鳥はここで、まとめて面倒を見ます」

繭里は餌を取り出す。

「ちょっと待っていてください。食事をさせます」

案内の途中なのに。

「じゃあ、手伝うよ」
「いえ、見知らぬ者には危険ですので」
「何が?」
「基本、フタミ家以外には慣れさせていません」

フタミ家は、通称、鳥師家系。
山一族の中でも、鳥を従える能力があると云う。

「でも、君は、」
「ハラ家です」
「なのに、鳥の面倒を?」

鳥=フタミ家に懐く。
ハラ家=懐かない。
繭里=危険・・・?

満樹は首を傾げる。

「私は大丈夫です」
繭里が云う。
「私はいずれ、フタミ家に嫁ぐ予定ですので」

「何と」

山一族にも、いろいろ事情があるらしい。

「・・・で」

餌を上げながら、繭里が云う。

「あなたも普通に、鳥に触れるんですね」
「ええ?」

鳥に囲まれながら、せっせと満樹は餌を与えている。

「いや、うん。まあ、平気・・・だね」
「・・・・・・」

とにかく、満樹はめっちゃ鳥に囲まれている。
頭とか、肩とか、足元とか。

「ほら、順番に食べるんだ」
「・・・・・・」
「こら、仲良く!」
「ムツゴ●ウ・・・」

順序良く、餌やりが終了。

「助かりました」

繭里は頭を下げる。

「いや、別にそんなこと」
割と東一族では当たり前。
「ぜひ、夜も手伝っていただければ」
「あ、滞在時間が大丈夫なら」
「まじめか」

繭里は歩き出す。

「では、次の場所へ案内します」

「あの、」

満樹もそれに続きながら、声をかける。

「なぜ、こんなに案内を?」
満樹が訊く。
「外から来た人には、こうやって案内をするのか?」
「そもそも、あなたはなぜ山一族の村に来たのですか?」

繭里が質問を返す。

「東一族の方がこんな所まで、どうして?」
「まあ、そうだよね」
満樹は、あくまでも見張られている。
「私、東一族の方を見るのははじめてです」
「実は、」

と、云って、満樹は云おうかどうか迷う。

裏一族が山一族に紛れ込んでいないか。

そう口にすることで
逆に満樹が疑われるかもしれない。

「・・・・・・?」

繭里は満樹を見て、首を傾げる。

「着きました」
「ん? 着いた?」
「次の場所です」

はい、と、繭里は指を差す。

「ここは、」

満樹は息をのむ。

「ちょっとした植物を育てています」



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「約束の夜」53

2018年03月20日 | 物語「約束の夜」

「満樹、うまくやってるかしら」

お茶で一服ついた後、
うーん、と伸びをしながら京子が言う。

「心配だよね。
 しっかり者の俺達がいない訳だし」

お菓子を頬張りながら
ツイナが答える。

「今頃、
 助けて、京子!!ツイナ!!って
 言ってたりして」

ツッコミ役が不在だとこうなります。

「それにしても、
 山一族の村がこんなに入りにくいとは」
「敵対しているとは言え
 閉鎖的よね。
 西一族でもここまでは無いわ」

「………」
「………」

うーん。

「そんな所に
 裏一族の拠点なんてあるのかな?」
「そう思うわよねぇ」

裏一族は各一族のはぐれ者達の集まり、
いろんな一族がひしめきあっている、はず。

市場があり、人の出入りの多い
北一族の村ならともかく。

ここが、拠点?

「ミツグ兄さん聞き間違えたんじゃ」

「やっぱり、そう思う?」
「兄さん、大事な所で
 うっかりさんだから」
「へー、意外」
「兄さん
 相方のコズエさんが(おそらく)好きなんだけど、
 この前兄さんの妹のカンナがさ」

「待って!!
 恋バナなら、お茶を入れ直すから、
 それから詳しく!!」

京子が女子トークに食いつく。

「ところで、ツイナって
 変な言い回しをするのね、
『妹の』で良いじゃない?」

『兄さんの妹』って。

「いや、だって、
 兄さんの妹じゃん」
「んん??」
「ええ??」

しばらく、首を傾げた後、
ああ、とツイナが言う。

「俺と兄さん
 兄弟じゃないから」

ここにきて、
舞台が海一族の村から
山一族の村付近に移動して

今、時差で
ちょっと衝撃の事実。

「そうなの!!!?
 わわわわ、これ、
 触れちゃいけない話題!?」
「あ~、確かに分かりづらかったな。
 小さい頃から一緒だったから
 兄さんって呼んでたけど」

ふっ、と
前髪で片眼を隠しつつ、
ツイナが謎ポーズを取る。

「俺って実は、
 秘密の過去がある系のキャラなんだよ」

「そう言えば、
 本名は、ユウトとか言ってたわね!!」
「おうとも」
「生まれが知りたいとか、なんとか」
「いかにも」
「ちょっと、設定詰めすぎじゃない!?」

「実は、本名は2つあり!!」

「なにそれ、
 ツイナと、ユウトと、もう一つ本名って、
 もうそれ、ツイナじゃなく、
 ミツナじゃないーーーーーーー!!」

ひゃーーっと
謎のテンションで盛り上がる2人。

「あの」

「待って、今
 大事なとこだから」

「そう、じゃあ、待っとくわね」

「それでツイナ
 ちょっと気になるミツグの恋バナも」

「私も、それ、聴きたいわ」

「……ん?」
「………んん?」

「どうしたの、続けて続けて」

年は京子達の親に近い。
どことなく、優しげな雰囲気、だが。

金色の瞳。額の入れ墨。
間違い無く、山一族。

村に入っていないとは言え、
そこに近いところで出くわす、とは。

「ところであなた達、
 西一族に、海一族?」

京子とツイナ、
大声で騒ぎすぎ問題。

まずい!!!!

京子とツイナの頭の中を
一族間の争いが、という
満樹の言葉がグルグルと回る。

まずい。

非常にまずい。

なんとか取り繕わねば、と
焦る2人。

「私達っっつ!!」

「ええ」

「僕達!!」
「私達は!!」

選手宣誓のようになる2人。

「その、」
「あの、」
「実は、西一族でも海一族でもないのです!!」

どーん。

「そうなの?
 どう見ても、西と海」

「違う違う!!
 違うんだよ、えっと、えーーっと」
「私達は、そう、あれよ、あれ」

完全にパニックを起こした京子が
高らかに宣言する。

「実は、裏一族なのよ!!
 ぐへへへへへ!!」

いくらなんでも、
その笑い方は無いだろう。



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「約束の夜」52

2018年03月16日 | 物語「約束の夜」

そんなわけで、ひとり
山一族の村へと、満樹は入る。

水辺ノ8一族は

水辺ノすぐ周辺に住む4一族と
その外周に住む4一族に分かれる。

どこか行くのにあたって、通り道となる周辺4一族と違って
外周4一族は、そこへ行こうとならなければ、訪れることは少なくなる。

そのひとつである、山一族。

山と云う、特殊な地形に住むこともあり、
砂一族同様、周辺から離れた閉鎖的な一族と考えられるだろう。

つまり

「おい! 何者だ!!」

敵対していない一族でもすぐに、

「素性が判るまで、村を歩くなよ!!」

通称、職質。

「海一族でも似たようなことがあったな・・・」
「何!」
「海だと!?」
「海一族の回し者か!!」
「いえ、違います」

そこははっきり、満樹は云う。

「俺は東一族です」
「何をしに来た!?」
「何を?」

数人の山一族に囲まれて、満樹は考える。

南では、豆を食べに来た、と云った。
海では、海藻・・・?

なら、山の特産とは、

「どんぐり・・・?」

「何だ、どんぐりって!!」
「どう云うことだ!!」
「おい、ハラ家を呼べ!!」

「おいおい、大声出さなくてもいるよ」

後ろから、布を深くかぶった者が現れる。

「これはこれは、ハラ家の」
「では、お願いいたします」
「お願いいたします」

「ああ。うん」

めんどくさそうに、その者が云う。

満樹はその者を見る。

山一族のハラ家。
一族内で占いをつかさどる家系のはず。

海一族と同じパターンなのだろう。
満樹が何者か探ると云う、

「お願いしますっても、どんぐりを食べに来たんだろう」

おお?

「ならそれでいいじゃないか、村に入れてやれ」

「でも、」

「本物の東一族なら悪いやつはいないだろうよ」

「はい!」
「判りました!!」
「承知しました!」

「いいんだ・・・」

くるりと向きを変え、そのハラ家の者はどこかへと云ってしまう。

「仕方ない」
「入っていい、が」
「ちょっと待て」

「待つって、ここで?」

しばらく、ひとり待たされた満樹のもとへ
これまた、ひとり山一族がやってくる。

「はじめまして」

深々と、山一族が頭を下げる。

「繭里(マユリ)=呂=原(ロ=ハラ)と申します」

繭里が顔を上げる。

「山一族の村へようこそいらっしゃいました」

「ロ=ハラって」

満樹が云う。

「さっきの人と兄妹?」

「さっきの・・・?」

繭里が訊き返す。

「さっきの、とは、布を深くかぶった者ですか?」
「そう」
「兄妹ではありません」
「何と」
「同じハラ家ですが、違います」
「・・・・・・??」
「その説明は省きます」

どうぞ、と、繭里は歩き出す。
満樹はそれに続く。

「これから何を?」
「何を?」

繭里は首を傾げる。

「山一族の村を案内させていただきます」
「君が?」
「はい」
繭里は歩きながら云う。
「今、狩りで男手が出ていますので、私が」

そうちらりと、満樹を見る。

満樹は、うーんと、空を見る。

男であろうと女であろうと
つまりは、見張りと云うこと。



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