「ちょっとした植物・・・」
満樹と繭里の前に、人為的に育てているであろう植物群が広がる。
確かに、この植物も、人里離れたところならば、
普通に、そして、ひっそりと咲いている。
けれども、これは、
「どちらかと云うと、毒となる植物」
満樹は、繭里を見る。
繭里と目が合う。
「詳しいんですね」
繭里が云う。
「植物の名まえも、その成分もご存じなんでしょう」
東一族なら、これぐらいの知識は普通だ。
隣に、毒を扱う一族がいるのだから、
自ずと、それを学ぶことになる。
「別にこれを、一族ぐるみで育てているわけではありません」
「え?」
「私の友が、ひとりで育てていました」
「ひとりで?」
「そうです」
満樹は再度、息をのむ。
「こんなにたくさんの毒植物を、何のために?」
ざっと見積もっただけでも、何種類もの毒が採れる。
これがもし、裏一族や悪人のもとへと流れれば・・・、
「私が思うに、その友の」
「うん」
「趣味だったと思います」
「そう、趣味か」
ん?
「趣味?」
「そうです」
あれ?
「こう、毒を使ってみたいとか、売ってお金にしたいとか」
「・・・・・・?」
繭里は、目を細める。
「そんな悪人じゃありません」
「単なる趣味ってこと?」
「そう」
「えーっと、」
「植物を育てるのが趣味だったんです」
「いや、全部毒植物なんだけど」
「趣味なんです!!」
まさかの
「ハシリドコロ、ジキタリス、ダチュラ・・・以下略」
「実は、その友が失踪しました」
「え?」
「だから、あなたをここへ案内したんです」
「長期の狩りに出たとか、そんなんじゃなく?」
「違います」
「でも、そのうちに帰ってくるとか」
「こんなにも愛していた植物を置いて、失踪しますか!?」
植物への愛、半端ない。
満樹は少し考える。
もしや
「その、友。なんだけど」
「はい」
「もしや、手にアザがあった?」
「アザ?」
繭里は首を傾げる。
「手に……、あ!」
満樹を見る。
「手のひらに、何かアザがあったわ」
「本当に?」
「生まれつきだとは云っていたけど……?」
繭里は、口元に手をやる。
考える。
「滅多に来ることがない東一族のあなたが来たから、聞きたいのです」
繭里は何か、知っているのだろうか。
「与篠(よしの)の失踪に、ひょっとして、あなたは関係がありますか?」
「…………」
「何かがあって、この山一族の村へと来たのでしょう?」
「まあ、そう、なんだけど」
「判りました」
繭里が歩き出す。
「では、こちらへ案内します」
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