東一族の村へ戻った満樹は、
すぐに大将のもとへと招集される。
満樹は部屋へと入る。
「戻ったか」
満樹は顔を上げ、部屋の中を見る。
そこにいるのは大将だけ、ではない。
大将と並び、
戦術師を担う、実力のある者。
地位の高い者。
大将は首を傾げる。
「戒院はどうした」
「え?」
「戒院も北に同行したのでは?」
「・・・えっと」
満樹は頭を触る。
一応、そのまま答える。
「戒院なら医師見習いの実習に向かいましたが」
「何?」
「だから、医師見習いの」
「務めに向かったものとして、招集をかけたのだが」
大将は頭を抱える。
ふっ、と
大将の横にいる者が、笑う。
「戒院らしい」
「申し訳ありません」
いない戒院の代わりに、その兄が頭を下げる。
大将の横にいるのは、現宗主の孫に当たる者。
つまり、次々代の宗主である。
彼は問題ない、と、手を上げる。
戒院の兄は、満樹を見る。
「北では、戒院と共に行動を?」
「そのはず」
「なら、兄さんの報告だけで足りますか」
問われて、大将は頷く。
「仕方ない。では、はじめよう」
大将の言葉に頷き、満樹は話し出す。
北一族の地図を広げ、ありのままの報告をする。
東を標的にするであろう西一族と砂一族には、
大きな動きは見られない、と。
「そうか」
大将は満樹を見る。
「ほかに気になることは?」
「北では、裏一族と名乗る者が」
「裏一族?」
「名乗っているだけです。脅しを」
「裏とは無関係だが、と云うことか」
「そうです」
戒院の兄が云う。
「最近、裏一族の方に動きがあるようです」
「そのようだ」
「だから、無関係でも、裏と名乗って悪さをする者も多いとか」
「しかし、本物の裏には謎が多すぎる」
「動きがあっても、目的が掴めない」
大将が云う。
「裏が、東に諜報員としてまぎれる可能性は低いが」
東一族は、8一族の中でも珍しい黒髪である。
つまり、
他一族が東一族のふりをして入り込むことが、難しいとされる。
「用心はしておくべきだろう」
その場にいる者たちが頷く。
「戦術師たちにはそう伝えるように」
皆が解散し、部屋には大将と満樹が残る。
「満樹。お前はこの務めは終わりとする」
「え?」
満樹は大将を見る。
「なぜ?」
「お前は通常の務めに戻ってもらう」
「まだ、何の手がかりも得られていません」
「何者かが東を窺っている件。これは別の者に託す」
満樹は首を振る。
「俺が、この件を続けます」
「駄目だ」
「大将」
満樹は云う。
「俺は・・・、皆のように魔法を使うことが出来ません」
「それが何だ」
「誰かと組む通常の務めでは、足を引っ張ってしまう・・・」
「そんなことはない」
大将が云う。
「お前が足を引っ張ったことはないだろう」
「大将・・・」
「弱気になっているのか」
「いえ、」
「誰も、お前が役に立たないと云ったことはない」
「・・・・・・」
「満樹?」
「俺は、・・・魔法をうまく扱えないことを恥じているんです」
満樹は、大将から目をそらす。
「それで、父さんにも恥をかかせているのではないかと」
「そんなことは、」
「大将」
満樹は云う。
「務めは果たしたいのです。でも、それは村外で、ひとりで・・・」
「満樹・・・」
「俺の気持ちを汲んでいただけませんか」
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