TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」13

2017年08月29日 | 物語「約束の夜」

「なにか?」

京子に凝視されていた露店の客は
視線に気付いて
少し不機嫌そうに問いかける。

「あ、」

少しクセのある髪。
京子よりも頭半分高い身長。
顔の輪郭。

美和子に聴いていた通りの
北一族の格好。

でも。

「……すみません。
 知り合いに似ていたので」

違う。

ただの、似ている人。

「なんだ、大丈夫か?」
「ええ」
「顔色が悪いぞ」

「本当に、大丈夫ですから」

京子は慌ててその場を離れる。

どこをどう歩いて来たのか
気がつけば待ち合わせの場所の近くで
ベンチに腰掛けていた。

「ちょっと、だけど
 似ていたから驚いちゃった」

ただ、それだけの事。
待ち合わせにはまだ時間があるが
京子は腰が抜けたように動けない。

「美和子が見かけたのは
 さっきの人、なのかな?」

彼女は何度も言っていた
見間違いかもしれない、と。
美和子は何も悪くない。

そう、都合良くはいかない。
今までだって、
何度も探しに来て、見つけられずに
帰った事はあった。

けれど。

初めての有力な情報だった。

「だから、期待していたの」

今度こそ、
今日こそ、
見つけることが出来る、と。

「………はぁ」

結局、時間まで
京子はぼうっとそこで過ごしていた。

肝心の美和子はまだ来ない。

今日は北一族の村で一泊して
明日には帰る予定。

「ぃよし!!」

猫のように顔を振り
立ち上がると
京子は自分の頬を軽く叩く。

仕切り直して
明日はまたきちんと探そう。
今日は美味しい物でも食べて
元気を出そう。

「え?」

考え事をしていて
周りが見えていなかった。

京子は突然突き飛ばされる。

「わわ?え?ぶふぁ!!」

急なことで受け身が取れず
そのまま地面に顔をぶつける。

「痛ぁ。鼻打った!!
 なんなの!?なに!?」

どうなっているのだ、と
体を起こした時には
京子を突き飛ばしたであろう人物は
走り去っていて背中しか見えない。

けれど、
その手には京子のバックを抱えている。

「………?」

わずかな時間、
本当に訳が分からず、思考が繋がらず、
その姿を見送っていたが

なんてこと、と
京子は立ち上がる。

「ちょっと
 盗人!!どろぼう!!
 待ちなさいよ、こら!!!」



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「約束の夜」12

2017年08月25日 | 物語「約束の夜」

北一族の村に入る。

辺りはまだ暗い。
それでも、北の大通りに並ぶ店は、多くが灯りをともしている。

満樹は大通りを歩く。

「お前、こんな夜中に北に入ることないだろう」
「・・・・・・」
「俺たちが、変な一族だと思われてしまうし」
「・・・戒院」

満樹は大きく息を吐く。

「お前、真面目に勉強しているって云っていただろう」
「息抜き!」
戒院は笑う。
「お前が外に務めに出るって云ってたからな」
「今、その務めなんだけど」
「いいから。飲もうって!」
「飲まないし」
「腹ごしらえ」
「食べない」

満樹は、戒院の手を振り払う。
これでも、満樹は務めに入ったのだ。
成果を出さなければならない。

「あのな、満樹」

それでも、戒院は満樹の肩に手をのせる。

「何も、夜にやることはないだろ?」
「・・・・・・」
「日が昇ったら、手伝ってやるんだからさ」
「・・・本当に?」
「もちろん」
「信じない」
「昼の方が、店は多く開くんだから、情報は早く集まる」
「・・・・・・」
「一理あると思った?」
「うーん」

と、云うより
ここで一度付き合った方が、戒院は大人しく帰るかもしれない。

満樹は、彼を見る。

医師になる、と云いながらも
何だか不真面目で
ふらふらと、いつもどこかで遊んでいる。
それでいて、浮ついた噂ばかり。

「はたから見たら、最低・・・」
「えっ、何?」

けれども、

何か芯の強さを持つ、彼。

「よく判らん・・・」
「だから、何だよ??」
「心の声」

満樹は歩き出す。

露店の前で立ち止まる。
店を見る。
次に店主を見る。

容姿を確認する。

髪色、目の色。服装。
この店主は、北一族で間違いない。

満樹が云う。

「これはどこで仕入れた?」

そこには、小さな瓶が並ぶ。
中には、液体が入っている。

「いらっしゃい!」
店主が顔を上げる。
「これは、美容の薬だよ」
「調合は?」
「砂から仕入れたもんだ。砂一族がやっている」
店主はにこにこと云う。
「おみやげにどうだい?」

「俺、買おうかな」

顔を出した戒院を、満樹は見る。
「砂の薬を晴子にやるのか」
「だって美容薬だろ」
「そうです!」
店主が頷き、瓶をひとつ渡そうとする。

「おいおい」
満樹はあきれ顔で云う。
「それ、逆効果の可能性もあるからな」

満樹は店主に向きなおす。

「砂はよく来るのか」
「いえ、彼らはあまり」
店主が云う。
「あまり姿を現さず。それがいつも通りって感じです」
「そうか」
「こちらとしては、薬をたくさん運んでほしいですがね!」
店主は、小さな瓶を並べなおす。
「何せ、砂の美容薬はよく売れますから! っと」

満樹の黒髪を、店主は見る。

「東の人には面白くない話でしたな」
「気にするな」
「それで、おひとつどうです?」

「俺、ふたつ買うよ」
「おい、戒院!」
「ひとつは成院に」
「何だよそれ」
「杏子にあげたら、って」
「・・・余計なお世話」

満樹は店を出る。

砂の動きは、東が把握している通り。
特に動きはない、と云うことか。

「明日はもっと情報を集めるか」
「明日だけなら、俺も手伝う」

戒院は満樹の肩を叩く。

「ほら、今夜は飲みに行こう!」

先だって、戒院は歩き出す。

「やっぱり、不真面目だ・・・」



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「約束の夜」11

2017年08月22日 | 物語「約束の夜」

馬車が北一族の村に着いたのは
お昼を少し過ぎた頃。

まずは腹ごしらえ、と
京子と美和子は遅めの昼食を取る。

「このハムおいしい」
「きっと谷一族の品よ。
 名産だから」
「悩むな~、買って帰ろうかな」
「私は焼き菓子を絶対買って帰る」

たわいもない話をしながら
フォークを置いて、
さて、と
京子は立ち上がる。

「私はこの辺りを見て回るから
 美和子は買い物をしてきて」
「一緒に探すわよ」
「いいの。
 そこまで付き合って貰うわけにはいかないわ」
「……それなら
 危ない所には行かないように」
「もちろんよ。
 じゃあ夕方にこの店の前で
 待ち合わせましょう」

店を出ると、美和子は京子を市場に連れて行く。

「耀……っぽい人を見たのはこの辺り」

人の通りが多く、
今も沢山の人が行きかっている。

「はっきりとは見ていないのだけど
 北一族の格好、だったと思う」
「北?」

西一族の耀が
他一族の格好。

「多分よ。一瞬だったから」
「でも、探す手がかりが1つ増えたわ
 ありがとう」

じゃあ、一旦解散、と
別れ際に美和子は言う。

「京子、どっちに行くの?」
「そうだな、
 あちらの通りを回ってみるわ」

そう、と頷くと
美和子は逆の通りに向かう。

「美和子?」

「2人で手分けした方が早いでしょう?
 大丈夫よ、買い物のついでに
 見て回るだけだから」
「……ありがとう」

さぁさぁ、と
美和子に背を押されて
京子は通りに踏み出す。

大きな店を見つけると
入っていき、店主に声をかける。

「こんにちは、すみません」

兄の耀が失踪してから
何度も繰り返してきた事。

こんな人を探している。
見た事は無いか?
もし見かけたら
家族に連絡をするように伝えて欲しい、と。

再度訪れる店も多い。

一通り周り終えると、
今度は人通りの多い通りを巡る。

「あ、かわいい小物」

少し立ち止まり、
京子は露店を眺める。

「美和子、こう言うの好きかしら」

特に仲が良いわけでは無いのに
ここまで付き合ってくれたのは
本当にありがたい。

何かお礼をしよう。

「あの「すみません、これを!!」

京子の声は別の客に遮られて
店主に届かない。

「もう」

自分が先だったのに、と
少しだけ相手に目線を投げ
京子は眼を疑う。



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「約束の夜」10

2017年08月18日 | 物語「約束の夜」

東一族の現大将とふたり。

向かい合う。

大将が地図を広げる。

「どこへ向かうつもりだ」

満樹は、地図を指さす。

「北へ」
「そうか」

大将は頷く。
同じように、地図を指さす。

「このあたりを押えてこい」
「判りました」

「それにしても厄介だ」

大将は息を吐く。

東一族と相反する、西一族と砂一族。
今は状況も落ち着いていて、互いに動きはない。

ないはず、なのだ。

それなのに

「何者かが、東を窺っている」
「東の中で、それに気付いている者も何人かいます」
「一度、戦術師の皆を集めて話をしよう」

大将が云う。

「何かしら他一族との接触が多くなると、病が流行る可能性もある」
「病?」
「うちの一族ならではの話だ」

満樹は地図を見る。

「北一族の村で情報がなければ、戻ってこい」
「いや」

満樹は首を振る。

「そのまま、谷一族の村へ向かうつもりです」
「無理はするな」
「無理ではないので」

大将は満樹を見る。

「なら、情報確認だ」

云う。

「戻ってこい」
「大将・・・」
「命令だ」
「・・・・・・」

満樹は、外へと出る。

歩く。

村のはずれまで来て、空を見る。

夜空。

けれども、星は見えない。
月も、見えない。

雲が、夜空を覆っている。

辺りは、闇。

満樹は、持っている刀を鞘に納めたまま、地面へ向ける。
法則を持った模様を描く。

東一族の紋章術。

満樹は、それを見る。

闇。

何も

起こらない。

満樹は歩き出す。

闇の中へ、姿を消す。



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「約束の夜」9

2017年08月15日 | 物語「約束の夜」

「このままじゃダメだわ」

皆が静まりかえっている中、京子が言う。

「やっぱり、
 私、北一族の村に行く」
「……ねぇ、それ
 狩りが終わってからにして」

京子の隣で草むらに身をひそめていた美和子が
訴えるように言う。

「声出ていた?」
「もろに出ていたわよ」

あぁ、もう、と
美和子が言う。

「耀を見たなんて
 口を滑らすんじゃなかったわ」
「見間違いでもいいの。
 でも、本物なら
 早く探しに行かないと」

また、どこかへ行っちゃから、と
京子が答える。

ん~、と
美和子が頭をかく。

「あなた、北って、
 一人で行くつもり?」
「ええ。
 兄さんを探しに何度も行ってるから
 大丈夫よ」
「それは、母親とか
 誰かと一緒だったのでしょう」
「もう、街並みも覚えちゃったわ」

「おい、二人とも
 声が大きいぞ」

少し遠くで潜んでいる狩りの班長が言う。

二人は慌てて、身振り手振りで謝る。

「………」
「………」

仕方ない、と言わんばかりの
大きなため息を美和子が吐く。

「明後日は空いている?」
「え?」
「北一族の村、行くんでしょう?
 一緒に行ってあげる」
「でも、美和子」
「いいの
 買い物もしたかったし」

それに、と
京子に呆れながらも言う。

「あなた、一人で行かせて、
 何かあったら私の夢見が悪くなるから」
「……美和子ぉ!!!!」

「おい、京子。
 声が大きいって言ってるだろ!!」

もう、いい加減にしろ、と
班長が言う。

が、その声が聞こえているのか居ないのか、
京子が草むらから
がばっと立ち上がると腰元のナイフを
数本取り出す。

と、

その動作から流れ作業のように
ナイフを放つ。

投げられたナイフは
どこからか飛び出してきた小鹿に当たる。

居た所ではなく、
動いたその先を狙ったように。

「………」

くるり、と振り向くと
京子は美和子に抱き着く。

「美和子ありがとう、大好き!!
 北一族の村でお昼は奢るからね!!」

やったー!!と
そのまま京子は
獲物を仕留めに走っていく。

「……やっぱり、
 1人でも大丈夫かな」

美和子は早まったかも、と
少し後悔する。

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