「なにか?」
京子に凝視されていた露店の客は
視線に気付いて
少し不機嫌そうに問いかける。
「あ、」
少しクセのある髪。
京子よりも頭半分高い身長。
顔の輪郭。
美和子に聴いていた通りの
北一族の格好。
でも。
「……すみません。
知り合いに似ていたので」
違う。
ただの、似ている人。
「なんだ、大丈夫か?」
「ええ」
「顔色が悪いぞ」
「本当に、大丈夫ですから」
京子は慌ててその場を離れる。
どこをどう歩いて来たのか
気がつけば待ち合わせの場所の近くで
ベンチに腰掛けていた。
「ちょっと、だけど
似ていたから驚いちゃった」
ただ、それだけの事。
待ち合わせにはまだ時間があるが
京子は腰が抜けたように動けない。
「美和子が見かけたのは
さっきの人、なのかな?」
彼女は何度も言っていた
見間違いかもしれない、と。
美和子は何も悪くない。
そう、都合良くはいかない。
今までだって、
何度も探しに来て、見つけられずに
帰った事はあった。
けれど。
初めての有力な情報だった。
「だから、期待していたの」
今度こそ、
今日こそ、
見つけることが出来る、と。
「………はぁ」
結局、時間まで
京子はぼうっとそこで過ごしていた。
肝心の美和子はまだ来ない。
今日は北一族の村で一泊して
明日には帰る予定。
「ぃよし!!」
猫のように顔を振り
立ち上がると
京子は自分の頬を軽く叩く。
仕切り直して
明日はまたきちんと探そう。
今日は美味しい物でも食べて
元気を出そう。
「え?」
考え事をしていて
周りが見えていなかった。
京子は突然突き飛ばされる。
「わわ?え?ぶふぁ!!」
急なことで受け身が取れず
そのまま地面に顔をぶつける。
「痛ぁ。鼻打った!!
なんなの!?なに!?」
どうなっているのだ、と
体を起こした時には
京子を突き飛ばしたであろう人物は
走り去っていて背中しか見えない。
けれど、
その手には京子のバックを抱えている。
「………?」
わずかな時間、
本当に訳が分からず、思考が繋がらず、
その姿を見送っていたが
なんてこと、と
京子は立ち上がる。
「ちょっと
盗人!!どろぼう!!
待ちなさいよ、こら!!!」
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