TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」96

2014年08月29日 | 物語「水辺ノ夢」

「お願いしていいかしら」

村人からもらった肉を、杏子が並べる。

「どれぐらいに、切り分ける?」
「小さくお願いしたいのだけど」
「いいよ」

湶は、ナイフを取り出し、肉をうまいこと切り分ける。

その様子を見ているのは、杏子だけ。

圭は、あの発作以来、横になっていることが多い。

「もっと、近くで見てなよ」
湶は云うが、杏子は首を振る。
「苦手だわ」
「そのうち、出来るようになったがいい」
杏子は、苦笑いをする。
云う。
「南一族の村で、肉の切り方を覚えたの?」

「いや」

肉を切り分けながら、湶が云う。

「肉のさばき方は、この前の狩りの後に広司に教わったんだ」
「そうなの」
「難しいことじゃない」

東一族の杏子は、肉を食べたことがない。
さばいたこともない。
その習慣がなかったのだから、やろうとも思わない。

でも

「覚えたばかりなのに、簡単にやるのね」

外での彼を、杏子は知らないが
湶は、なんでもこなしているようだ。

湶が切り分けた肉を、杏子は塩でつける。
これは、圭に教わったこと。

その作業が終わると、杏子は道具を片付け、手を洗う。



扉を叩く音。

「誰だ?」
「高子だわ」

杏子は扉を開ける。

そこに、高子がいる。

「いらっしゃい」

杏子は、高子を招き入れる。
「圭は寝ているけど」
湶の言葉に、高子が云う。
「今日は、杏子の診察なの」

湶は、杏子を見る。

「えーっと、じゃあ、そっちの部屋を借りようかしら」
「ええ」

杏子と高子が隣の部屋に移動したのを見て、湶は立ち上がる。

圭の部屋へと入る。

「起きていたのか」

圭の目が開いているのを見て、湶が云う。


NEXT 97


「水辺ノ夢」95

2014年08月26日 | 物語「水辺ノ夢」


圭の咳き込む音で杏子は顔を上げる。

「おい、圭、大丈夫か?」

ちょうど近くにいた湶が声を掛ける。
ひゅっと息を吸う音に
杏子は家事を手放して圭に駆け寄る。

「圭、お薬は?」

圭を支えようとする杏子の手を断りながら
尚も咳き込む。

「……っ大丈夫、薬は飲んだ」

杏子は慌てて台所に戻り
グラスに水をくむ。
少し落ち着いたところで圭はその水を飲む。

「薬が効いたら落ち着くから」

それでも少し顔色が悪いので
杏子は言う。

「圭、部屋で横になっていたら?」

その提案に、圭は大丈夫と答えかけたが
杏子と湶の視線に耐えかねたのか渋々と頷く。

「そうする」

圭の背を見送りながら湶が言う。
「冷える時期だからな」
杏子は頷きながらも、でも、と思う。

確かに今の気候もあるが
ここ最近、
圭は頻繁に体調を崩している気がする。

いつか医師の高子が言っていた。
圭の病は環境に左右されやすい、と。
元々体が弱い所に
気の持ち様で状態が良くも悪くもなるのだと。

今は、湶がこの家に加わり
突然現れた兄とその状況に
圭の気持ちが付いていってないのだろう。

杏子はお腹を押さえながら圭が寝ている部屋を見つめる。
言わなくては、と思っているけれど。

「まだ、言えない、よね」

湶の話は
すぐに村中に知れ渡った。

突然現れた西一族。
圭の兄である事と、
広司に並ぶのではないかと言われる程の狩りの腕前。

村人の態度が変わった様な気がする。
めったに家の外に出ない杏子にすら
その雰囲気が伝わってくるほどだ。

家を訪ねてくる人が増えた。
おすそ分けだろうか、肉や野菜の貰い物も増えた。

そんな時、
杏子を見かけて村人は怪訝な表情を浮かべるが
湶の手前、あいさつ程度の声は掛けていくようになった。

狩りを誇りとする西一族。
全てがそこに繋がっていると杏子は実感する。

杏子にすらこうなのだから
少なくとも湶が居る以上は
圭に接する村人の態度も
良くなったのでは無いだろうか。

「……でも」

圭が望んでいたのは
きっと、こんな事では無い。



NEXT 96

「水辺ノ夢」94

2014年08月22日 | 物語「水辺ノ夢」

夜遅くまで、西一族の村の広場では、火がたかれている。

そこでは
狩りを終えた者たちが、獲物をさばいたり、道具を手入れしたりしている。

「今回の収穫は、みんな大したものだ」
狩りの進行役が、満足気に云う。

広場には、たくさんの収穫物が並ぶ。
明日もまた、
村人総出で、収穫物の仕分けや保存作業になるだろう。

「しかし、一番の手柄は、お前らの班だな」

狩りの進行役が見る方向に、広司がいる。
そして、
透と沢子と、湶。

「お前らの班は、どうなるかと思ったが」
「今回は、いい狩りが出来たよ」
透が笑う。
沢子も
「広司と湶のおかげかしら」
そう、湶を見る。

湶は、狩りの道具を手入れしながら、顔を上げる。
云う。
「あたりがよかったんじゃないのか」

「・・・そうかもしれないが」

呟いて、広司は自分たちの収穫物を見る。

収穫物の量だけではない。
いい状態で、収穫物を持ち帰ることが出来た。

獲物に、やみくもに武器を向けていない証拠だ。

普通、初心者では、こうはならない。

これには、広司も満足だ。

「じゃあ。後の作業は、明日でいいな?」

透の言葉で、みんな、自分の道具を持ち、立ち上がる。
「明日はどんな作業を?」
湶の問いに、透が答える。
「男性は主に、加工作業をやるよ」
「へえ」
「狩りで獲物を仕留めるだけじゃなく、加工も出来ないと」
透が云う。
「獲物に失礼だからな」
沢子が云う。
「広司は、加工作業も上手いのよ」
「そうか」

頷くと、湶は立ち去ろうとした広司に声をかける。

「広司」

「なんだ?」

「明日も来るからさ、この後の作業も教えてくれよな」

広司は湶を見る。

「わかった」


NEXT 95

「水辺ノ夢」93

2014年08月19日 | 物語「水辺ノ夢」

村の広場には
狩りに行く若者たちが集まっている。

「皆、ちょっと聞いてくれ」

補佐役は湶を皆の前に出す。

「湶だ。
 初めて見る者も多いと思うが
 れっきとした西一族だ。
 圭の兄と言えば分かる者もいるか?」

その言葉に年長の者が数人
ああ、と納得したように頷く。
湶が幼い頃
村で過ごしていた時を覚えているようだ。

だが、 圭の兄、という言葉に数人の若者がバカにしたように笑う。

湶はそれを横目に、なるほど、と
ため息をつく。

「今日から狩りにも参加してもらうので
 皆、よろしく頼む」

補佐役か湶の紹介を終えると
広場に集まった若者達は班ごとに分かれ始める。

湶はしばらく幼い頃の彼を知る者達と話をしていたが
狩りが始まるという事で広司の元にやって来る。

「村一番の腕前だって。
 そんなやつと組めて良かったよ」

狩りの班は以前と同じ。
広司と透、沢子。
そして今回は圭でなく、湶。

「なるべく足手まといにはならないようにするが、
 狩りは初めてなんだ。
よろしく頼む」

広司はそうしてくれ、と頷く。
湶は透や沢子とも挨拶を交わす。

「武器はボウガンか」
「圭と一緒なのね」

透や沢子の言葉に湶は笑う。

「あぁ、家にあったのを持ってきたから。
 圭のだったか」
「そのうち自分にあった武器を探した方がいい。
 俺は大きい武器が得意なんだ。
 使ってみたい時は貸すから言ってくれ」
「ありがとう。勉強になるな」

透と湶の会話を聞きながら
本当に初心者か、と広司はため息をつく。
今まで他の村に居たのならば仕方ないが
確かにこれでは戦力にはならないかもしれない。

初めての狩り、は
西一族であれば誰もが通る道。

狩りの腕がある広司と
面倒見のよい透と沢子がいるこの班は
初心者と組まされる事が多い。

今日も大きな獲物は期待出来ないな。
と、広司は立ち上がる。

「時間だ、行くぞ」



NEXT 94

2014年08月15日 | イラスト




稔(みのり)

西一族
T.B.1979年生まれ
168cm・O型


作中には「高子の研修医」「高子の助手」として登場。
医師見習いとして研修医をしている。

狩りの腕前はないが
医師という職業であるため地位は悪くない。

湶とは同い年。