「……」
日が傾きかけた頃、
真都葉が目を覚ます。
「おはよう真都葉」
圭は声をかける。
真都葉はいつもと違う天井を
不思議そうに見回す。
「とう?」
視線を泳がせていた真都葉は
自分の腕に巻かれた包帯に目を止める。
「いたいよう」
「真都葉っ!!」
「わああああ、いたいよ」
急に泣き出した真都葉を圭は抱き上げる。
もう薬が切れたのだろうか、と
慌てて高子を呼ぶ。
「高子!!」
「高子先生は他の患者さんを診てますよ」
泣き声を聞きつけたのか、
医師見習いの男が顔を出す。
「真都葉が痛がっていて」
「おかしいな、
まだ薬は効いているはずだけど」
うーん、と見習いは言う。
「噛まれた時を思い出して
泣いているだけじゃないのか」
しばらく様子を見て、と
男は戻っていく。
噛まれた時。
「ごめんな、怖かったろう」
圭は、真都葉の背に
ポンポンと手を当てる。
「大丈夫。
犬は居ない」
もう怖くないよ、と繰り返しながら。
病室の中をゆっくりと歩く。
本当は少し病室の外に出て
景色でも見せて気分を変えさせてやりたいが
それすら自由にならない。
「かあは?」
少し落ち着いた真都葉が
泣きじゃくった目で圭に問いかける。
「お家でお留守番をしているんだよ」
「まつばもおうちかえる」
「真都葉は今日は
お父さんとここに泊まるの」
「なんで?」
「今日はお手々が痛い痛いするから」
「おうちがいい。
かあ、どこ!!?」
やだ、と
真都葉が杏子を呼ぶ。
「お母さんも真都葉に会いたいけど
おうちで我慢しているんだよ」
今日は帰れないと、
病院から言付けをしてもらった。
1人、家で待つ杏子は
もどかしい思いで待っているだろう。
圭は1人で真都葉の世話をする。
夕飯を食べさせ。
母親を恋しがり泣き出す真都葉をなだめながら過ごす。
夜眠るか不安だったが、
疲れたのか、思っていたより早く真都葉は寝付く。
同じベットで寄り添いながら
向けた視線の先。
薄暗い部屋では
真都葉の包帯の白さが余計際立つ。
今までは村人からどんな目で見られても平気だった。
気にしなければ良いと思っていたが、
でも、危害を加えられる様になってくれば
話は別だ。
圭は改めて村人の視線に
敏感になる。
これからも、
ずっとこんな日々が続くのだろうか。
圭は自分も薄い眠りに就きながら
そっと真都葉に呟く。
「真都葉と杏子と俺と、
この村を出て、どこか遠くで
暮らせたら良いのにね」
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