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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」177

2017年01月31日 | 物語「水辺ノ夢」

「……」

日が傾きかけた頃、
真都葉が目を覚ます。

「おはよう真都葉」

圭は声をかける。
真都葉はいつもと違う天井を
不思議そうに見回す。

「とう?」

視線を泳がせていた真都葉は
自分の腕に巻かれた包帯に目を止める。

「いたいよう」
「真都葉っ!!」
「わああああ、いたいよ」

急に泣き出した真都葉を圭は抱き上げる。
もう薬が切れたのだろうか、と
慌てて高子を呼ぶ。

「高子!!」

「高子先生は他の患者さんを診てますよ」

泣き声を聞きつけたのか、
医師見習いの男が顔を出す。

「真都葉が痛がっていて」

「おかしいな、
 まだ薬は効いているはずだけど」

うーん、と見習いは言う。

「噛まれた時を思い出して
 泣いているだけじゃないのか」

しばらく様子を見て、と
男は戻っていく。

噛まれた時。

「ごめんな、怖かったろう」

圭は、真都葉の背に
ポンポンと手を当てる。

「大丈夫。
 犬は居ない」

もう怖くないよ、と繰り返しながら。
病室の中をゆっくりと歩く。
本当は少し病室の外に出て
景色でも見せて気分を変えさせてやりたいが
それすら自由にならない。

「かあは?」

少し落ち着いた真都葉が
泣きじゃくった目で圭に問いかける。

「お家でお留守番をしているんだよ」

「まつばもおうちかえる」

「真都葉は今日は
 お父さんとここに泊まるの」
「なんで?」
「今日はお手々が痛い痛いするから」
「おうちがいい。
 かあ、どこ!!?」

やだ、と
真都葉が杏子を呼ぶ。

「お母さんも真都葉に会いたいけど
 おうちで我慢しているんだよ」

今日は帰れないと、
病院から言付けをしてもらった。

1人、家で待つ杏子は
もどかしい思いで待っているだろう。

圭は1人で真都葉の世話をする。

夕飯を食べさせ。
母親を恋しがり泣き出す真都葉をなだめながら過ごす。
夜眠るか不安だったが、
疲れたのか、思っていたより早く真都葉は寝付く。

同じベットで寄り添いながら
向けた視線の先。
薄暗い部屋では
真都葉の包帯の白さが余計際立つ。

今までは村人からどんな目で見られても平気だった。
気にしなければ良いと思っていたが、
でも、危害を加えられる様になってくれば
話は別だ。

圭は改めて村人の視線に
敏感になる。

これからも、
ずっとこんな日々が続くのだろうか。

圭は自分も薄い眠りに就きながら
そっと真都葉に呟く。

「真都葉と杏子と俺と、
 この村を出て、どこか遠くで
 暮らせたら良いのにね」



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「水辺ノ夢」176

2017年01月27日 | 物語「水辺ノ夢」

圭は案内された部屋へと入る。

中で、真都葉がひとり、眠っている。

「真都葉・・・」

圭は真都葉に手を伸ばそうとする。
が、やめる。

そっと、ベットの横に坐る。

真都葉は眠り続ける。

「入るわよ」

ノックと同時に、高子が入ってくる。

「来たのね」
「高子」

圭は立ち上がり、頭を下げる。

「ありがとう」
「いいえ」
高子が云う。
「今は薬が効いて眠っているけど、しばらく痛がると思う」
「そうか・・・」
「今後、手の動きに問題はないと思うけど」
「けど?」
「痕が残るかもしれないわ」
「・・・・・・」

圭は坐る。
真都葉を見る。

高子もしばらくその様子を見る。

「真都葉・・・」

「犬に噛まれたって、・・・いったい何があったの?」

高子が訊く。

「真都葉を外へ連れて行ったの?」

圭は頷く。

「畑に連れて行ったんだ」
「そう」
「そしたら、急に猟犬が来て・・・」
「猟犬?」
「猟犬に噛まれたんだ」

「でも、」

高子は首を傾げる。

「猟犬なら、飼い主がいたんじゃないの?」

猟犬は、飼い主の指示がない限り噛まないことは、
狩りに出ない高子でも、判る。

「それって変じゃない」

圭は答えない。

「まさか、」

高子は目を細める。

「意図的に噛ませたと?」
「・・・・・・」

それが答えだ。

黒髪である真都葉。
直接的でなくとも、その存在は、西一族内に知られている。
煙たがるものは多い。

「誰よ、飼い主は」

高子は圭を見る。

「ねえ」

「悟・・・」
「悟?」

高子はその名まえを繰り返す。

「悟、が?」

「・・・真都葉が魔法を使ったと云うんだ」
そして
「杏子が東に情報を流しているんじゃないかと」

うなだれたまま、圭は云う。

「全部、でたらめだ」

「圭・・・」

けれども、最近、頻繁に見かける鳥。
同じような、鳥。

もしや、

まさか。

「・・・大丈夫?」

「高子」

圭が云う。

「暗くなったら、杏子を連れてきてもいいか?」
「杏子を?」
「真都葉に会わせてやりたいんだ」

日が落ちて暗くなれば、杏子も人目に付かずに病院へと来られる。

けれども

高子は首を振る。

「高子、」
「やめておいた方がいい」
「でも、杏子も心配しているんだ」
「いやな予感がするの」
「え?」
「杏子にも、何か起こるんじゃないかって」

高子が云う。

「とにかく、病院にいさえすれば大丈夫よ」

「・・・・・・」

「真都葉は、」

「大丈夫。すぐに家へと帰れるわ」



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「水辺ノ夢」175

2017年01月24日 | 物語「水辺ノ夢」

「杏子!!」

自宅へ戻り、圭は杏子を呼ぶ。

「……圭!?」

圭の血にまみれた服を見て
杏子が息を呑む。

「どうしたの!?」
「俺は大丈夫。
 この血は俺のじゃない」
「圭のじゃない?」

杏子はあちこちに視線を泳がせる。
探している、真都葉を。
圭はなるべく落ち着いた口調で言う。

「真都葉が猟犬に噛まれて」

杏子から血の気が引いていくのが分かる。

「あぁ、真都葉っ!!」
「大丈夫。
 今、病院で処置をしている」

本当に大丈夫かどうかは
圭には分からない。
が、今の杏子にはそう伝えるしかない。

「また、病院に戻るから準備を」
「圭!!私も一緒に!!」

杏子が必死な顔で圭を見つめる。
子どもが怪我をして、
側に付いて居たいと思うのは当然だ。

それでも。

「杏子は家に」
「けれど、真都葉が」

「……杏子。ダメなんだ」

圭も杏子を連れて行きたい。
だが今の時間、東一族の杏子を連れ回すのは難しい。

「命に関わる様な怪我ではない。
 真都葉の服と、タオルを準備して」
「……分かったわ」

杏子は真っ青な顔になりながらも
寝室へ向かい、圭の服を持ってくる。

「ありがとう」

圭は着替えながら杏子を見る。
真都葉の荷物を準備しているその指先は
震えている。

「ごめん、杏子。
 俺が付いて居たのに」

杏子は圭を信じて
真都葉を預けた。

きっと、2人で外出を楽しんでいるだろうと
そう思いながら帰りを待っていただろうに。

そんな役目も果たせず、
幼い真都葉に怪我をさせてしまった。

「いいえ、
 私こそごめんなさい。取り乱して」

杏子は荷物を圭に預ける。

「早く戻って
 真都葉の側に付いていてあげて」

杏子に見送られながら
圭は再び家を出る。

真都葉の処置がいつ終わるか分からない。
早く病院に戻らなくては。

道の途中、分かれ道にさしかかる。

畑へと続く道。

置いてきた荷物は
また後で取りに行こう。
今はそれどころじゃない。

「……」

悟の言葉を思い出す。

真都葉が魔法を使えるのかどうかは
圭には分からない。
動物と話せるのかも。

それでも、言われた通り
杏子は人目に触れない様に、
こんな窮屈な思いをして暮らしている。

それなのに、情報を流しているだなんて。

「………っ!!」

2人を守れるのは自分しか居ない。
圭は足早に病院へと向かう。


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「水辺ノ夢」174

2017年01月20日 | 物語「水辺ノ夢」

「なん、だって?」

圭は目の前に立つ、悟を見る

「黒髪が魔法を使った、と云ったんだ」
「魔法?」

圭は訳が分からないと、首を振る。

悟が云う。

「どう云うことだ。東一族が魔法を教えたのか」
「杏子は魔法なんて、」
「なぜ、そう云いきれる?」
「・・・それは」
「調べたんだが、東一族は動物と話す力を持つとか」
「・・・・・・?」
「あの東一族は鳥を使って、西の情報を流しているんだろ」
「なんっ!?」

でたらめだ、と、云いかけて、圭は真都葉を見る。

今は、そんなことを話している場合ではない。

「いたいよぅ! とう!!」
「真都葉っ」

真都葉は泣きわめく。
腕から血が流れる。

「どいてくれ!」

圭は真都葉を抱え、走る。

人目もくれず

病院へ。

「高子っ! 高子!!」

病院に入ると、圭は高子を呼ぶ。

「どうしたの」

運よく、高子が現れる。

「いったい何の騒ぎ?」
「真都葉が犬にっ」

圭は肩で息をする。
高子は驚く。

「ちょっと、これは!?」

高子は慌てて、医者の補佐を呼ぶ。

「早くこの子を処置室へ!!」

「とう!!」
「大丈夫、真都葉。痛いのを治すのよ」
「とうー!!」

圭の腕から真都葉を取り上げ、補佐が処置室へ連れて行く。

「・・・ッ、真都葉!」

付いて行こうとする圭を、高子がとめる。

「ここにいなさい」
「でもっ、」
「大丈夫だから」

高子は近くの椅子に、圭を坐らせる。

「息を整えて」

圭は息苦しそうだ。
このままでは、持病が出かねない。

「落ち着いたら手を洗って、着替えてくるのよ」
「真都葉は、」
「私たちに任せて」

そう云うと、高子は処置室へと入る。

遠くから、真都葉の泣き声。

圭は、胸を押さえる。
辺りには、誰もいない。

しばらくして、

真都葉の泣き声が止む。

高子は現れない。
代わりに、ほかの者が現れる。
時間がかかると、圭に告げる。

圭は、処置室の扉を見る。

立ち上がり、病院を出る。



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「水辺ノ夢」173

2017年01月17日 | 物語「水辺ノ夢」

小さな畑は、圭の家の物。
南一族の村から持ってきた野菜も植えている。
圭は座り込み雑草を抜く。

「とう」

真都葉が摘み取った花を
圭の近くに丁寧に並べていく。

「はなやさん」
「そうか」

圭は作業を止め、真都葉に向き直る。

「それじゃあ、このお花をください」
「じゅうまんです」
「高っ!!」

圭は笑う。

「お母さんへのお土産にしたいので
 おまけしてくれないかな?」
「しょうがないわねー」

真都葉は頬に手をあてて考える。
母親の真似だろうか。

畑に来たものの、
畑作業も片手間になる。

「真都葉、その虫は触っちゃダメ」

毒のある虫も居る。
好きにさせたいが、目も離せない。
今日はそのつもりだったので
圭も真都葉に付き添って畑を歩く。

「……杏子は毎日大変だな」

杏子を思う。

今日は天気も良い。
杏子も一緒に三人で
こうやって出かけることが出来たら良いのに。

圭は真都葉を抱き上げる。

「………」
「とう?」
「なんでもないよ。お弁当を食べようか?」

圭は木陰に移動して布を広げる。
水場で手を洗い、杏子が持たせたお弁当を2人で食べる。

「おいしいねー」
「そうだね」

真都葉は食べながらもあちこちを見回す。

「とりさんおいでー」

木の枝に止まっている鳥を呼ぶ。
朝の鳥と同じかは圭には分からない。
でも、真都葉は鳥が好きなようだ。

「こない」
「真都葉、ほら」

圭は、パンの端を千切り、
少し離れた所に蒔く。
それを見て、鳥が舞い降りる。

「きたよー」

きゃあ、と喜んで真都葉は声を上げる。

「真都葉、大きな声を出したら
 鳥さん逃げちゃうよ」

食事を終えて圭は布を片付ける。

真都葉は少し離れた所で、
パンのかけらを鳥に与えている。
少しずつ距離を縮めて行こう、と
懸命になっている様子を見て圭は微笑む。

そんな時、座り込んでいた真都葉が立ち上がる。

「真都葉?」
「とう、なんか、くる」
「え?」

突然畑に犬が駆け込んでくる。
黒い、猟犬。

「なんで、こんな所に!!」

狩りに連れて行く獰猛な種類。

「おい、待て!!」

犬を追いかけて後ろから村人が駆けてくる。
猟犬はしつけられている。
飼い主が命令すれば大人しくなるはず。

村人が視線の先に真都葉を見つける。

「とりさん!!」

真都葉にはまだ、今の状況が判断できない。
慌ただしい様子にまず、鳥が逃げ出す。
圭は真都葉に駆け寄る。

駆け寄りながら、圭は見た。

村人が制止のために吹きかけた犬笛を
そっと下ろしたのを。

真都葉はパンを持っている。
犬が飛びかかる。

圭は、間に合わない。

「真都っ!!」
「やあーーーーーー!!」

真都葉が悲鳴を上げる。

その瞬間、犬が弾き飛ばされる。

「……え?」

犬は、高い声を上げ、
飼い主の元へ走り寄る。

圭はそれには目もくれず、
真都葉に走り寄る。

「ああああああ」
「真都葉っ!!」

真都葉は火が付いたように泣き叫ぶ。
腕から血が出ている。
噛まれたのだ。
圭はすぐに真都葉を抱き上げる。

「病院へ」

「おい」

声に圭は振り向く。
犬を連れた村人、悟が、
圭の方を見ている。

「なんで、犬を止めなかった」

圭は悟を睨み付ける、が

「それはどうでもいいんだ」

そう、冷たい目で、悟が言う。
真都葉のケガなど
構わないと言わんばかりに。

「それよりも」

真都葉が痛みで泣き叫ぶ声の中で
はっきりと、悟が告げる。

「今、そいつ
 魔法を使ったな」



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