TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

*お知らせ*

2014年11月28日 | 物語「水辺ノ夢」

H25年8月より連載してきました「水辺ノ夢」
しばらく、お休みしまして、
12月は特別企画! イラストなどを掲載します(^^)

H27年1月からは「夢幻章伝」を連載予定ですので
よろしくお願いいたします♪




「水辺ノ夢」122

2014年11月28日 | 物語「水辺ノ夢」

「先生」

診療簿を書いていた高子は、顔を上げる。
声のする方向を見る。

医務室の入り口に、助手が立っている。

「どうしたの?」
「あの、・・・東一族が目を覚ましました」
「杏子が?」

高子は立ち上がる。

「様子を見てくるわ」

高子は急いで、杏子の病室へ向かう。

「杏子!」

中へ入ると、杏子が目を開いている。
じっと、天井を見つめている。

「杏子・・・」
高子は杏子を見る。
杏子も、高子に気付き、視線を動かす。
「体調は、どう?」
云いながら、高子は杏子の脈を見る。

なんとか、大丈夫そうだ。

「あなたが運ばれてきて、驚いたわ」

高子が云う。
「しばらくは安静が必要だけど、ケガはしてないみたいね」
「ここは、・・・病院なのね」

杏子がポツリと呟く。

高子は、杏子を見る。

圭が、西一族の村を出て行ったことを、
・・・杏子は、まだ知らないのだ。

「高子・・・」

杏子はお腹を触る。

「お腹の子は大丈夫。順調よ」

杏子はその言葉を聞いて、小さく頷く。

「今は、自分の回復に努めましょう」

杏子は、再度頷く。

杏子は、何も云わない。
何があったのかも。
そして
何も、訊いてこない。

圭が、どうしているのかも。

「ほら、目を瞑って」

高子が云う。

「今は、ゆっくり休んで。・・・ね?」



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「水辺ノ夢」121

2014年11月25日 | 物語「水辺ノ夢」

圭は病室を出る。
扉を閉めると、廊下にいた高子が声をかける。

「そのうち目を覚ますと思うわ。大丈夫」

杏子はベットで眠っていた。
顔色は良くなかったが、
高子が大丈夫というのならそうなのだろう。

「高子」
「何?」
「何があったのかは聞かないのか」
「……治療に関係することならば聞くけれど、
 これはあなた達の問題でしょう」

圭はまだ、病室の扉を見つめている。
高子には背を向けたまま呟く。

「やっぱり、って思わなかった?」

「どういう事?」
意図がつかめず、高子は聞き返す。
「いつかこうなるって、思わなかった
って事だよ」

圭は言う。

「俺の元にいたら、杏子がいつかこうなるって」

「本気で言っているの、それ」
「聞いているのは俺の方だよ」
「あの子にはあなたしか居ないのよ」

「みんな」
絞り出す様に圭は言う。
「みんな言うんだ、お前がどうにかしなきゃって」

「俺だって、そう思っていたけど」

でも、そう思っても同じだった。
今日のことが解決しても、
きっとこれからも、同じ事を繰り返す。

「そして、同じ口でみんな言うんだろう」

そこでやっと、
圭は高子に向き直る。

「ほらみろ、無理だったじゃないかって」

言うつもりじゃなかった、
それでも
ずっと思っていたことが口をついて出てくる。

「だったら、もっと他の誰かの所に居た方が
 杏子は―――」

パンと渇いた音が廊下に響く。

「冗談もほどほどにしなさいよ」

高子の声は静かにけれど低く響く。
圭の頬を打ったその腕を下げることなく
そのまま突き当たりの扉を指さす。

「今日は帰りなさい。
 頭を冷やしてきて」

圭は顔を上げると
高子に言われるがまま病院を後にする。

その背中を見送ると高子は病室に入る。
杏子はまだ眠っている。
心音を確かめ、脈を測ろうとして杏子の腕を持ち上げる。

「あら?」

杏子が腕にはめていたブレスレットが見当たらない。
数時間前に回診した時にはあったはずなのに。

いつもはめていたから大事な物だったのだろう。
今の状態で身につけているのは危ないので
外しておかねばとも思っていた物だ。

「圭が、持って行ったのかしら?」

次、圭が見舞いに来たときに確認しよう。
その頃には圭も少し落ち着いているだろう。

だが、
翌日も、その翌日も圭は来ない。

しばらくして、
高子は圭が両親と一緒に南一族の村に旅立ったと聞く。



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「水辺ノ夢」120

2014年11月21日 | 物語「水辺ノ夢」

扉を叩く音で、圭は目を覚ます。

・・・何事だろう。

そう、ぼんやり思い、
次の瞬間、圭は、慌てて体を起こす。
入り口へと駆け寄り、扉を押し開ける。

「杏子っ!!」

「え!?」

外に立っていたのは、杏子ではない。

「たか、・・・こ?」

圭は、辺りを見る。
高子が、そこにいる。
杏子はいない。

「杏子!!」

圭は、裏の小屋へ走る。

「ちょっと!」

高子も慌てて、圭に続く。
圭は、小屋の中へ入る。
「杏子っ」
小屋の中には、誰もいない。
「杏子!」
圭は叫ぶ。
「杏子、どこだ!」
必死になる圭を、高子は慌てて止める。

「ちょっと、落ち着きなさい!」

「杏子っ」

「ねえ、落ち着いて!」

高子は、圭を落ち着かせようとする。

圭は、辺りを見る。
誰もいない。

空を見る。
日は高い。

圭は、昨夜のことを思い出す。

日が出たら、杏子を中へ入れようと起きていたつもりだった。
けれども
いつのまにか、眠っていて
しかも
日は高くなっている。

圭は、再度、家へ向かう。

高子が何かを云うが、圭の耳には入らない。

圭は、家の中に入り、部屋を見る。
誰もいない。

「・・・杏子」

圭は、発作を抑える。

「大丈夫?」

高子が、圭を覗く。

「高子・・・」

圭は、言葉を絞り出す。
「昨日・・・、」
「ええ」
「・・・杏子が」
「杏子が?」
「杏子が、その・・・、いない」

「杏子なら、うちの病院にいるわよ」

圭は目を見開く。
高子を見る。

高子を見て、圭は、息をのむ。

高子の表情が、冷たい。

「うちに、運ばれて来たの」
「・・・運ばれたって」
「なかなか、あなたが来ないから、呼びに来たんじゃない」
「だって、・・・いったい、何が」

「状況は、詳しくは判らない」

高子が云う。
「まだ、意識が戻らないの」
「意識?」
「なのに、なぜ、あなたはすぐに来ないの?」

高子は、圭を見る。

「まあ、その様子を見ると、何かあったようね」
「・・・高子」
「私は病院へ戻るわ」

高子は、圭に背を向ける。

「伝えることは、伝えたから」

そう云うと、高子は足早に去っていく。

「杏子・・・」

突然のこと。

何もかも、突然のことに、

ただ

圭は、戸惑う。

もはや、高子の姿は見えない。

圭は、無意識に空を見る。

・・・そうだ。

自分は

杏子を、・・・助けられなかったのだ。


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「水辺ノ夢」119

2014年11月18日 | 物語「水辺ノ夢」

「母さん」
圭の言葉にも
母親は玄関の前から動かない。
「このままじゃ、杏子が風邪をひく」

「少し懲りたらいいのよ」

母親は言う。
「ねぇ、東一族の村ではどうかしら?
 西一族がそこで、のうのうと暮らしていけるかしら?」
恐らく外に居る杏子に聞こえるように。
「周りが優しい人たちばかりで
 何か勘違いしているんじゃない!!」
「言い過ぎだって、母さん」
「圭も少しは考えて」
母親は振り向く。

「自分の事をやっていくだけで精一杯じゃない。
 そういう体なんだって自覚しなさい」

「……っ」
その言葉に、圭は何か言おうとしていた事を飲み込む。
そんな圭に母親は、少し言い過ぎた、と、
躊躇いながらも言葉をつづける。
「いずれ苦労するのよ。
 今は良いかもしれないけれど、何かあれば必ず
 東一族がいるから、あそこは混ざりものの家だからって
 言われる日がくるの」
例え、それが濡れ衣の事でも、と
そう言う母親の声は少し涙ぐんでいる。
「それでも、と言うならば
 圭、あなた狩りに出るというの?」
「……それは」
「狩りに出て、功績をあげて、村での地位を築いて、
 それぐらいしないとこの村で他民族と結婚するなんて無理よ」
「―――分かっているよ」

「「……」」
圭と母親はお互い無言になる。
こんな言い合いをしたのは初めてだ。
何か言わなくては、と圭は思うが言葉が出てこない。

ただ、母親の先の、閉ざされた扉の向こうにいる杏子の方を見る。

こんな時間に長い間外に居られるほど
杏子の体調は良くないはずだ。

圭の視線にたまりかねたのか、母親は言う。
「……寒いなら
 近くの風をしのげる所で
 薪でも焚いていたらいいじゃない」

外にしっかりと聞こえるような大きな声で。

杏子に言っているのだ、
薪がある裏の小屋に行っていろと。
そこには昔、使っていたかまどもあるから寒さもしのげる。

しばらくして、扉の前から人が動く気配がする。

母親はため息をつく。
「大丈夫だから、圭は部屋に戻っていなさい」

小屋でかまどを焚いていれば、
半時ならば寒さもしのげるだろう。
その頃には母親も少し落ち着いているかもしれない。

圭は部屋に戻り、ベットに腰かける。

分かっている、と圭は答えた。
東一族―――杏子と結婚することが、どういう事だか分かっている、と。

「……でも」

母親が言ったことは本当の事だ。
狩りにもいけない圭が、この先どうやって
東一族の杏子を養っていくのか、守っていくのか。

考えてもなにも良い案が浮かんでこない。

家の中の事だって、
湶が居なくなった途端にこの有様だ。
間に入って上手くとりなすことも出来ていない。

「別の誰かの所に連れてこられていたら
 杏子は、今頃、幸せだったのかな」

例えば、湶や透や―――広司のように
狩りも出来て、東一族にあまり偏見のないような人の所に。

「なに考えているんだろう、俺」

余計なことばかり考えてしまう。
振り払うように圭は頭を振って、目を閉じる。


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