TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」62

2014年03月28日 | 物語「水辺ノ夢」

ふと、杏子は目を覚ます。

あたりは、少し、明るくなっている。

杏子は起き上がり、部屋を見渡す。
「・・・圭?」
杏子は、居間、隣の部屋も見る。

圭はいない。

杏子は首を傾げる。

こんな朝早くに、圭はどこへ行ったのだろう。

「・・・あ」

ひょっとして、自分の手紙を、湖に流しに行ってくれたのだろうか。

「圭・・・」

杏子は、家の扉を開ける。
外を見る。
朝早い時間。
西一族は、まだ、誰もいない。

杏子は外へ出る。

湖へ向かう。

時間がたてば、西一族と接触するかもしれない。

杏子は自然と、早足になる。

「圭!」

杏子は圭を呼ぶ。
走る。

水辺に着く。

水辺には、誰もいない。

「圭!」

再度、杏子は、圭を呼ぶ。
あたりを見る。

「圭、だって?」

その声に、杏子は振り返る。
聞き覚えのある声。

そこに

「広司・・・」


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「水辺ノ夢」61

2014年03月25日 | 物語「水辺ノ夢」

「君は、西一族……か?」

東一族の男が、圭に問いかける。

東一族と接触するつもりは無かった。
ただ、杏子の手紙を置いてくるだけのつもりで
こんな時間に、人が居るとは思っていなかった。

うかつ過ぎた。
圭は問いかけに答えていないが、
相手には西一族だと言うことはばれているだろう。

「俺は、手紙を届けに来ただけで、すぐに引き返します」
「……手紙?」

幸い相手に攻撃の意志はなく、様子を見ているところだ。
親ほどの年齢だろうか、それならば、
もしものときは振り切って逃げられるかも知れない。

圭は覚悟を決め、舟を岸に着ける。

「これを」

瓶ごと、その手紙を渡す。

「これを、彼女の家族に」

その言葉に東一族は驚いたように顔を上げる。

「待ってくれ!!」

舟に戻ろうとしていた圭は、思わず立ち止まる。
東一族は瓶から手紙を取り出し、慌てて中を確かめる。

圭は読まなかった杏子の手紙。
家族に宛てられた物。

「……」

東一族は深いため息をつく。

「この子は、今、幸せか?
 私はこの手紙を、どこまで信じたらよい?」

圭は向き直る。

「俺からは信じてくれとしか言えない」
「……そう、か」

東一族は懐から装飾品を取り出す。

「これを君に預ける」

圭は首をひねる。
東一族の意図が分からないが、それを預かると急いで舟に乗り込む。
圭を攻撃する意志はないようだが、いつまでも敵対する村には居られない。

東一族に見守られながら舟は岸辺を離れる。

「娘を……杏子を、頼む」

圭はその声に振り返る。
東一族の男が、麻樹が、圭に頭を下げている。

杏子の……父親?
そんな偶然があるのだろうか、と、ふと気づく。

偶然ではない。
それはそうだ、家族が、娘が突然いなくなったのなら
必死で探すだろう。
こんな深夜の、危険な場所にまで。

「その装飾品は、杏子の婚約者からの贈り物だ」

麻樹の言葉が追い打ちのように、圭に届く。
圭は預かった装飾品が急に重みを増したように錯覚する。

「渡すか、渡さないかは君が決めると良い」



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「水辺ノ夢」60

2014年03月21日 | 物語「水辺ノ夢」

ゆらゆら、と、水面が揺れる。

水辺は、相変わらず、霧に覆われている。
肌寒い。

そう思いながら、辺りを見る。

水辺は、静かだ。
誰もいない。

麻樹は、梨子から預かった装飾品を握りしめる。
本来は、次期宗主の光院から、自分の娘に渡されるはずだったもの。
なのに
今は、そのふたりとも、いない。

娘は

杏子は、いったい、どこへ行ってしまったのだろうか。

麻樹は、ため息をつく。

水辺を見る。
揺れていた水面が、不規則な動きをする。

麻樹は首を傾げる。
霧の向こうを、見ようとする。

霧の向こうに、ほのかな光。

その光が、近づいてくる。

麻樹は、ただ、その光を見つめる。

そして、現れる舟。

舟なんて
ずっと昔に、一度、見たきりだ。と、麻樹は思った。

「誰だ」

麻樹は訊ねる。

「君は、誰だ」

東一族ではない者に、訊ねる。

「君は、どこから、来た?」

麻樹は、彼を見る。
彼と目が合う。
彼は、自分とは違う容姿。

ゆらゆらと揺れる舟。

そこに、若い西一族がいる。


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「水辺ノ夢」59

2014年03月18日 | 物語「水辺ノ夢」

夜、暗くなってから圭は家を出た。
杏子に頼まれた手紙は
言われたとおり、瓶に入れて湖に流すつもりだ。

でも

きちんと、届けることが出来たら。
せめて東一族の村の近くまで。

これはそう言う手紙だ。

「……あれ?」

水辺に付いた圭は異変に気付く。

杏子が村に連れてこられる騒動があってから
いつも以上に水辺の見張りが厳しくなっている。

圭もこの手紙を流す所を見られてはいけない、と
様子を伺うはずだった。

そのはずなのに。

「人が居ない」

きっと、偶然。
見張りが厳しくなって数ヶ月。
変わりのない現状に当番が気を緩ませたのだろう。

圭は村の方を振り返る。
きっと、今しか、ない。

「……っ」

圭は舟に乗り込む。

漕ぎ出すが、見張りは来ないようだ。
だが、早く岸を離れなくては、と気持ちだけが焦る。
見つからないように。早く。早く。

手に汗を握りながら夜の湖を舟で進む。

同じ事は何度も無い。

ならば
杏子を呼びに行くべきだったのかもしれないと圭は思う。
東一族の村に杏子を戻すことが出来たのは、今しか無かった。

「きっと、間に合わなかった」

見張りが戻ってくるかもしれない。
さすがに一晩中、持ち場を離れたりはしないだろうから。

「……なんて」

言い訳だな。と、遠くなる西一族の岸辺を見つめる。

手紙の入った瓶を握りしめる。
暗闇の中、水面に静かに波が立つ。
初めて杏子と出会ったときのようだ、と圭は思う。



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「水辺ノ夢」58

2014年03月14日 | 物語「水辺ノ夢」

梨子の言葉に、麻樹は立ち止まる。

辺りを見る。

東一族の村の入り口には、彼らしかいない。

梨子が云う。
「杏子姉さんが、・・・心配なのですね?」
麻樹は、答えない。
「その気持ちは、わかります。でも、どうか、水辺には近づかないでください」
麻樹は、梨子を見る。
「罰する?」
「いいえ」
梨子は、首を振る。
「あなたを、罰することは出来ません」
「そう」
「ただ、あなたを危険な目にあわせたくありません」

「・・・杏子は」

「え?」

「杏子は、危険な目に、あっているのだろうか」

「・・・・・・」

梨子は、うつむく。

「私も、杏子姉さんが、心配です」

麻樹は、何も云わない。

「そして、杏子姉さんを心配して動こうとする、みなさんのことも心配です」
云って、梨子は、麻樹を見る。

麻樹は、目をそらし、歩き出す。

「待って!」

麻樹は立ち止まらない。

梨子は、慌てて、麻樹の後を追う。

「待ってください!」

梨子は、麻樹を呼ぶ。

「これを」

梨子は、麻樹に近付き
その手に、取り出したものを握らせる。

「梨子・・・?」

麻樹は、それを見る。

そこに、東一族の装飾品、が。
中でも、結婚の相手に贈る、特別なもの。

「大兄様が、・・・光院が、杏子姉さんに渡そうとしていたものです」
梨子が云う。
「杏子姉さんに渡せなかったので・・・」

梨子は、麻樹を見る。

「代わりに、杏子姉さんのお父様に」


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