TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」73

2018年05月29日 | 物語「約束の夜」

時間は遡り。

「大丈夫とは言ったものの」

満樹ツイナと別れた京子は1人山を下る。
西一族の領域とは言え
狩り場はそう狭くはない。

ひと山、もしくは
ふた山は越えていくことになる。

「西の領土だし、
 獣道は外れているから」

身の危険はあまり考えていない。
それよりも。

「なんだか、
 1人って静かね」

今まで、満樹とツイナが一緒だったせいか
急に1人になり、なんだか寂しい。

「いやいや。
 私が提案した事だから」

ぶんぶん、と顔を振る。
それぞれ村に戻り
互いの事情もあることだから、と
北一族での合流は半月先。

もし、その日時に来なければ
集まった者だけで動こうとも。

「満樹は、
 私は村に留まったままでも良いって
 言ってたな」

京子の身を心配しての事だろうが、
少し心外だ。

自分も当事者の1人なのだから。

「………!?」

獣の鳴き声。
これは、狩りが行われているという事。

「こんな早朝から!?」

京子は駆け出す。
もし、西一族の誰かならば、
合流してそのまま山を下った方が安全だ。

ただこんな時間の狩りは
滅多に行わない。

「もしかして、
 山一族がウチの狩り場に?」

警戒をしながら
音のする方へ向かう。

風向きを見ながら、
近づいていく。

獲物は、イノシシ。
狩っているのは弓使いなのか、
獲物の体にはすでに何本か矢が刺さっている。

イノシシが激しく暴れ回り
向かう先に、1人。

「え!?1人!!?
 しかも、弓矢って」

これはいけない、と
京子は走り出す。

西一族の狩りは基本的に
数名の班で行う。

特に狩りの腕が優れている者は
単独の狩りを行うこともあるが
弓矢の基本は、獲物から見えない位置で狙い撃つ。

弓矢では直接対峙した時に
力のバランスが取れない。

「余程の名手じゃないと」

狩りを行ううちに
状況が悪くなってしまったのだろう。

自分の投てきが間に合うかどうか。
腰のナイフに手をかける、が。

「大丈夫。
 手助けは不要だ」

「え?」

す、と
ただ、添えるように弓を引く。
一瞬だった。

どすん、と
イノシシが倒れる。
矢が刺さり、暴れる間もなく、
事切れている。

「………???」

京子は混乱しながら様子を伺う。
急所と言われる場所に
的確に当たっている。

「すごい」

「驚かせたか?」
「わ!?」

そうだった、と
京子は振り返る。

髪を後ろに束ねた西一族の男。
年の頃は兄の耀よりも上に見える。

服装や髪、瞳の色。
どれも紛れもなく西一族の特徴だが

「あなた、誰」

京子は彼を見たことが無い。

村人のすべてを把握している訳ではないが
彼ほどの腕前の者を
知らないはずがない。

まさか。

彼らは一族を抜けた者。
そして、自然と村に入り込み
事態を起こす。

「………裏、一族!?」



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「約束の夜」72

2018年05月25日 | 物語「約束の夜」

「大人はホンネとタテマエの世界だけどねぇ」

「・・・・・・」

「はっきり断ることも大切だと思うわ!!」

「うん」

よいしょと、満樹はカゴを動かす。
そのカゴには、南一族産豆がたくさんに。

「まだカゴがあれば、採るけど」
「まじめか!!」

仁王立ちで、マジダは空のかごを差し出す。

「何だろう、こう。断る理由もなく・・・」
「どんだけいいひとだ、東一族は!!!」

「そろそろお茶にしましょうー!!」

弥生がお茶菓子を運んでくる。
定番の、ぼたもち。

「いやー、疲れるな!!」
「そうでしょう、飛鳥くん!!」
「でも、満樹が手伝ってくれるからな!!」
「よかったわよね!!」

その横で、マジダはさっさとお茶を飲む。
さらにその横で、マジダの弟は、ぼたもちをほお張る。

「夕飯も食って行けよな、満樹!!」
「そうよ、満樹!!」
「食べていきなさいな、満樹!」
「もうつかれたよぉ、まき・・・」

この家族、せわしない。

「せっかくですが、・・・」

満樹はお茶を置く。

「知り合いが来たら、すぐにでも発つつもりなので」

「何! 海一族のやつか!」
「えっ、海一族の!?」
「今度、南海対抗スポーツ大会が!」
「もうねむいよぉ」

「えっ、南と海って、そんなことやってるの!?」

「おう! 今年も負けてられないな!!」
「そうよねー、飛鳥くん!!」
「子どもリレーに出るのよ、私は!」
「・・・ZZz」

「満樹も何か出場したらどうだ!!」
「いや、俺は冷静に南でも海でもないし」

「何だ。東はほかのところと、スポーツ大会やるのか!」
「そう云う話じゃないです」

「そーかそーか!!」

相変わらずのワンマンショー飛鳥。

「まあ、無理するなよな!」
「ええ、無理はダメよね!」
「お昼からの収穫までは手伝ってよね!」
「ZzZZZZ」

弥生は、マジダの弟を抱き上げ、家へと戻る。

満樹は立ち上がり、飛鳥マジダと共に、畑へと入る。

満樹は空を見る。

うむ。
日が傾くまでにツイナが来なかったら、先に行こう。
東へと。

「でも、本当にまじめよねぇ」

そう云いながらも、マジダはちゃっちゃと、豆を収穫する。
もはや、子どもの技術ではない。

「東を認めてあげるわ!!」
「・・・ありがとう」
「光栄に思ってよね!」
「・・・・・・」
「あなたの功績が東一族全体の価値を上げたのよ。私の中で!!」

大きい一族である、南一族、の

一子どもに、認められた満樹。

「・・・ありがとう」
「口ではなくて、手を動かして!!」

満樹は手を動かしながら、云う。

「そう云えば飛鳥さん」
「何かな!!?」

「南一族で行方不明になった人のことなんだけど、」

「おう!」

飛鳥が云う。

「南一族なのに魔法を使うのが苦手で
 それはその手のひらに秘密があると
 かなんとか云いながら魔法の修行の
 旅に出たやつだな!!」

「ええ、まあ」

「そいつがどうした!!」

「いえ、大丈夫です・・・」

「満樹は遠慮しいだな!!」

飛鳥は大声で笑う。

満樹は、これ以上の情報は出てこないと判断して、
面倒くさくならないよう、この話はなかったことにした!!



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「約束の夜」71

2018年05月22日 | 物語「約束の夜」


海一族の村で一晩を過ごし
使い慣れたベッドで目を覚ますツイナ。

うーんと伸びをして一言。

「何か、早く追いつかないと
 満樹に置いていかれる気がする」

具体的には
南一族のテンションに合わないので
ちょっと早く移動したいな、という感じで。

「と、いう訳で
 また出発するよ」

身支度を整え、ミツグ他
見送りのメンバーに挨拶。

「しかし、1人で大丈夫か
 何なら南一族の村まで送って」
「ミツグ兄さんは心配し過ぎよ」
「だが、こいつは
 司祭(見習い)で戦い向きではないから
 何かあったら」

「そこは、大丈夫」

と、ツイナ。

「俺にはミツグ兄さんより教わった体術にも
 割と自信がある。
 はっきり言って先視より拳。いざというとき物を言うのは力。
 力はパワー!!」

それ、先視を教えた本人を目の前にして
言うかなと思いつつも
司祭様は深く考えるのを止めて見送る。

「……風邪には気をつけて、
 体は大事にするんだぞ」
「はい!!」

無邪気とは怖い。

「いや、俺は正直
 こいつ神経図太いなと思ったよ」

うむ、と呟く
見送りの人達。

珍しい、東西の一族の男女の2人旅。
勘ぐってしまえば
結ばれない2人の逃避行の旅。

そこに、
俺も一緒に連れて行ってという神経。

「強い、強いぜ、メンタルが」

「いや、2人は実際は、恋人ではないし。
 ………実際どうなんだろ?」

今後の展開次第。

「まぁ、俺は自分の真実が知りたい。
 でも年齢的にひとり旅は厳しい。
 そこに現れる旅人達。
 利用しない手は無い」 
「ひぇえ」

「あぁあ、ほら、
 そんな事言ってる間に馬車の時間」

行ってくるね、と
ツイナはみんなにハイタッチ。

「ミツグ兄さん」
「カンナ」
「司祭様」
「あ、ミナトも来てくれたんだ」
「チヒロ」
「アキノさんも」

そして

「トーマ」

最後の1人、の手をぐっと握る。

「………お前に彼女が出来るのは
 少なくとも一年先」

ツイナの瞬間先視。

「………え。ま、待て、つまり」
「一年は彼女出来ない」
「そ、んな」

がくーん。

じゃあね~、と
ツイナは馬車に向かって駆けていく。

残された、海一族トーマは呟く。

「何なんだ、あの
 先視通り魔は!!!」

うーん、とカンナは答える。

「割とあんな感じよツイナは」




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「約束の夜」70

2018年05月18日 | 物語「約束の夜」

南一族の村に着くと、満樹は馬車を降りる。

「もう、勘違いされてたし」

気にしているんだか、根に持っているんだかの満樹。

「いや、気にすることはない!」
「そう、なのか?」
「そんなことより前を向け!」
「??」
「この広大な畑!!」
「!!」
「豆の収穫が待っている!!」

「って、飛鳥っっさん!?」

「おお、満樹よ!!」

さっそく再会してしまった、南一族の飛鳥。

満樹の肩をばしばし叩く。

「3、4日ぶりだな!!」
「・・・・・・」
「じゃ、さっそく!!」
「え、何!?」

かーご。

まごうとなき、かご。

「これ、は?」
「収穫!!」
「しゅう、かく??」
「豆のな!!」

南一族特産豆。
収穫期通年。

(これまでのTOBA作品統計の結果)

「飛鳥さ、」

ものっすごい力。

「ちょ、ちょちょっと!!」

でも、ここで魔法行使しないのが、東一族のいいところ。
されるがままに、満樹は畑へと連行される。

「満樹よ! 俺たち仲間だもんな!!」

いつでも楽しそうに、飛鳥は笑う。

「まさか、こんなすぐに会うとは・・・(小声)」

水辺8一族の中でも、南一族は随一の広大な敷地を誇る。
適当に歩いては、
そう簡単に知り合いには会えないはず。

「満樹よ! 豆の収穫はこう!」
「えーっと、こう、ですか?」
「満樹よ! 豆の収穫は、優しく的確迅速に!!」
「こ、こう?」
「満樹よ!!」
「その、満樹よ、ってやめてもらえません?」
「満樹代! 声の掛け合いは大切だ」
「声の掛け合いじゃないし、名まえが違うし」

日差しが強い。

広い畑で、何人かの南一族が収穫を行っている。
びっくりするほど、飛鳥の手際は、ずば抜けている。

優しく的確迅速!!

何だろう。

その中に混じっている、謎の東一族。

「いや、俺、ツイナを待っているんだけど・・・」
「ツイナ!?」
「わっ!!」

すぐ横に飛鳥。
大切なことは聞き逃さない。

ずずいっ

「ツイナって誰だ!!」
「えっと」
「何だ! 海一族の仲間が増えたのか!?」
「えぇえ(汗)」

云ってないよ、そこまで。

「ついに、南一族の追加キャラだな!」

「おぉ・・・」

「急ぐぜ!!」

何だか、面倒くさいことになりそうだ(心の声)



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「約束の夜」69

2018年05月15日 | 物語「約束の夜」

「………、という事だ」

食後のコーヒーを置き、
司祭は話しを終える。

「「「………」」」

で、とミツグが問いかける。

「何か、新しく分かった事はあったか
 ツイナ!?」
「………」
「大丈夫か?」
「………新しく分かった事は」
「あぁ」

「特に何も無い!!」

きっぱり。

「だろうな」

うん、と司祭様。

「ツイナに物心が付いた時点で
 やんわりとだが
 ある程度の事は話していたし」
「でも」

ツイナのかけていないメガネが
きらりと光る。

「色々おさらいしたことで
 ふと、気付いたこともある」
「なんだか、頭が良さそうよツイナ」
「褒めて褒めて」
「で、気付いた事とは」

「それは、ちょっとここでは保留で」

「そう言われると気になるし。
 本当に分かってるの?」
「あたぼうだぜ」

司祭様は食後のコーヒーをすする。

「何だ、この茶番は」

「後は満樹と合流して
 ちょっと話しを照合したいところ」
「と、言うことは
 また旅立つのか」
「そうだよ。
 ―――って思い出した。
 裏一族の拠点は山一族の村じゃなかったよ(多分)」
「だが、うかつに裏一族に接触するのも危ない。
 それはそれで良し」
「ミツグ兄さんの『ま』は何だったのさ」
「待てここで責任を負うのは俺か?」

そもそもお前達が、と
ミツグの説教が始まりそうな所。

「ま、か」

司祭様がうーむ、と首を捻る。

「北一族の村ではないのか」

「いや、『ま』が付くんです。司祭様」
「そもそも、その『ま』も怪しいんだけど」

「北一族の市場の事を
 地元の通の者は『マーケット』というらしい」

 market

「突然の横文字」

「北一族の村には沢山の人が
 出入りするだろう。
 怪しい店や集まりが多いのも事実だ」

「なるほどね」
「……マーケッツ」

となると、あの時
裏一族達はこう言っていたのか

『俺達、裏一族の拠点はマーケット』

ええぇ。



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