時間は遡り。
「大丈夫とは言ったものの」
満樹ツイナと別れた京子は1人山を下る。
西一族の領域とは言え
狩り場はそう狭くはない。
ひと山、もしくは
ふた山は越えていくことになる。
「西の領土だし、
獣道は外れているから」
身の危険はあまり考えていない。
それよりも。
「なんだか、
1人って静かね」
今まで、満樹とツイナが一緒だったせいか
急に1人になり、なんだか寂しい。
「いやいや。
私が提案した事だから」
ぶんぶん、と顔を振る。
それぞれ村に戻り
互いの事情もあることだから、と
北一族での合流は半月先。
もし、その日時に来なければ
集まった者だけで動こうとも。
「満樹は、
私は村に留まったままでも良いって
言ってたな」
京子の身を心配しての事だろうが、
少し心外だ。
自分も当事者の1人なのだから。
「………!?」
獣の鳴き声。
これは、狩りが行われているという事。
「こんな早朝から!?」
京子は駆け出す。
もし、西一族の誰かならば、
合流してそのまま山を下った方が安全だ。
ただこんな時間の狩りは
滅多に行わない。
「もしかして、
山一族がウチの狩り場に?」
警戒をしながら
音のする方へ向かう。
風向きを見ながら、
近づいていく。
獲物は、イノシシ。
狩っているのは弓使いなのか、
獲物の体にはすでに何本か矢が刺さっている。
イノシシが激しく暴れ回り
向かう先に、1人。
「え!?1人!!?
しかも、弓矢って」
これはいけない、と
京子は走り出す。
西一族の狩りは基本的に
数名の班で行う。
特に狩りの腕が優れている者は
単独の狩りを行うこともあるが
弓矢の基本は、獲物から見えない位置で狙い撃つ。
弓矢では直接対峙した時に
力のバランスが取れない。
「余程の名手じゃないと」
狩りを行ううちに
状況が悪くなってしまったのだろう。
自分の投てきが間に合うかどうか。
腰のナイフに手をかける、が。
「大丈夫。
手助けは不要だ」
「え?」
す、と
ただ、添えるように弓を引く。
一瞬だった。
どすん、と
イノシシが倒れる。
矢が刺さり、暴れる間もなく、
事切れている。
「………???」
京子は混乱しながら様子を伺う。
急所と言われる場所に
的確に当たっている。
「すごい」
「驚かせたか?」
「わ!?」
そうだった、と
京子は振り返る。
髪を後ろに束ねた西一族の男。
年の頃は兄の耀よりも上に見える。
服装や髪、瞳の色。
どれも紛れもなく西一族の特徴だが
「あなた、誰」
京子は彼を見たことが無い。
村人のすべてを把握している訳ではないが
彼ほどの腕前の者を
知らないはずがない。
まさか。
彼らは一族を抜けた者。
そして、自然と村に入り込み
事態を起こす。
「………裏、一族!?」
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