TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」111

2018年10月30日 | 物語「約束の夜」

「………ちょっと、
 状況がよく分からないわ」
「そうだね、
 俺達はお昼を食べていた訳だけど」
「えぇ、えびピラフ美味しかったわ」

それが、
いったいどうして、

「満樹が席を外し」
「なかなか、
 帰ってこないなぁと思っていたら」

と、2人はお店の外に出る。

そこには集まったギャラリー達と
彼らに囲まれるように
距離を取り満樹とチドリが立っている。

「東一族の武術は有名だからな。
 お手柔らかにお願いしたい」
「そちらこそ。
 北一族の魔術は噂に名高い」

「いざ」
「尋常に」

「「勝負!!」」

満樹が繰り出した手刀を
おっと、とチドリが避ける。

「なるほど。
 ある程度は動けるようだな」
「これからの時代は
 多種、多様で、なきゃ、なっ」
「だが、避けてばかりでは
 つまらないぞ」

満樹がふっ、と屈み
片手を軸にして
蹴りを繰り出す。

「おわっ!!」

声を上げてチドリが転がる。

「なんて、ね」

が、あえて距離を取ったそこで
持っていた杖を
トン、と地面に打ち付ける。

「これは!!」

満樹を中心にして
地面に淡い光が浮かび上がる。

「紋章術、だと!?」

浮かび上がったのは
魔方陣。

満樹の攻撃を避けるようにして
杖の先で地面に描いていた文様。

術は発動しているが
まだ完了していない。

満樹はその地面に描かれた文様を
足で擦り消す。

「あ、やっぱり東一族。
 対処法も分かってるか」

「どういう事だ!?」
「なにが?」
「術として完成の程度はあるが
 あれは東一族の魔術だ」
「そう」

にっこりと、チドリは笑う。

「満樹は東一族だろう。
 折角ならば、東の魔術で、ってね」

「驚いた」

そう、満樹は言う。

水辺を囲むいくつもの一族。
彼らにはそれぞれの戦い方がある。
もちろん、
その一つである魔術も
一族ごとに特徴がある。

一族の体質、血統に特化した術。

他一族の術を
こうも容易く使いこなすと言う事は
チドリの腕が高い証拠。

「お前の腕を認めるよ」

試して悪かった、と
満樹は手を差し出す。

「こちらこそ。
 満樹が本気を出していたら
 危なかったよ」

よろしく、とチドリも手を出し
改めての握手。

「待って待って!!」

どういう事なの、と京子とツイナが
2人に駆け寄る。

「どうして2人が
 手合わせ?決闘?しているの!!??」
「これはあれじゃない、京子。
 私のために争わないでーってやつ」
「もうそのネタは忘れてツイナ」

みんなからモテモテになるかもだった
京子の旅のイメージの事です。

「いや、確かに」

うーん、と渋い顔で満樹が答える。

「京子のために争った?の?かも???」

「どういう事なの!!!!?」

そして、なぜ
そこでも疑問系なの?と
京子は今日一番の大声を出す。




NEXT

「約束の夜」110

2018年10月26日 | 物語「約束の夜」

「妹を守るお兄ちゃん・・・」
「おっと!」

満樹がチドリの言葉を繰り返したので、
チドリは、自身の口を手で覆う。

「ひょっとして、傷付いた?」

そして、にやりと笑う。

満樹の様子をうかがう。

満樹は、口元に手をやる。

「いや、その方が、都合がいい、か?」
「ん?」

あれ? と、チドリは口元がゆがむ。

東一族と西一族の、そもそも仲間問題。

でも、兄妹のように見えていた?

なら、自身の一族に見られても大丈夫(何が?)

恋人の耳に入っても、ごまかせるよね!

「うん、都合がいいな!」
「そう云う話だったっけ?」

おいおい、と、チドリがツッコむ。

「俺、誠実に、京子に告るぞ」

チドリは立ち上がる。

「いや、待て」
満樹が云う。
「云うほど、そんなに時間は経っていないだろう」
「時間は関係あるのか?」
「え?」

チドリが云う。

「恋愛に時間は関係あるのか?」
「・・・えーっと」

満樹は、考える。

それは関係あるのか?
ないのか?
西一族を好きになるのに、東一族じゃなければよいのか?
北だから平気?
いや
一族とか関係あるのか?
そもそも
なぜここで、男子ふたりで女子トークをしているのか??

「判ったよ、満樹」

チドリが手をかざす。

「頭の中が、ごちゃごちゃだろ?」
「だな」
「時間をくれ」
「えーっと」

何だっけ
何だっけ?

俺たち今、裏一族を探しているんじゃなかったっけ??

「京子を見つめ直すのに、時間が欲しい」
「それは」

個人の自由だろう。うん。

「俺も、パーティに混ぜてくれ」
「ああ、うん。なるほど」
「うん」
「なるほど、ね」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

「いやいやいや!!」

絶妙な間のあと、満樹は立ち上がる。

「パーティって何、仲間!? 仲間!!?」
「そう」

チドリが踏み込む。

「京子を改めて、見つめようと!」
「おぉお」
「時間をくれ!」
「でも、俺たちは今は、いろいろと忙しくて」
「俺も役に立つかもよ?」
「まさかの!」

満樹が云う。

「なら、自己紹介しよう」

「自己紹介って?」

「えーっと、必殺技とか?」

要するに、
手の内を明かせと、満樹は云いたい。



NEXT


「約束の夜」109

2018年10月23日 | 物語「約束の夜」

北一族の村に着いて数日。

昼食を取りながら
今後について話し合う3人。

「あれから、色々探りを入れているけど」
「裏一族からの接触はみられないな」
「………」
「裏通りに範囲を広げてみる?
 裏だけに」
「面白くないぞツイナ。
 京子、どうだ?」
「………」
「京子??」

「あ、ええ!?なにて!?」

「ええっと、京子」

ツイナが声をかける。

「なんだか、ぼーっとしているけど
 大丈夫??」
「え?」
「具合悪いのか!?」

いやいや、と
首を振る京子。

「なんでもないの。
 ただ、」

うん。と
姿勢を正す京子。

「お兄ちゃんが失踪して、
 初めての有力情報だったから」

今まではなんの情報もなく
半ば諦めかけていた。
もしかして、と。

「良かった。
 お兄ちゃん生きていたんだぁ」

うぅと少し涙ぐむ京子。

良かったねぇと頷くツイナと満樹。

「いや、でも。
 兄に会いたければって、
 美和子が言っていただろう」

それはそれで、
有力情報だったのでは。

「それはぁ」

う、う、と
なんやかんやで色々考え込んでいた京子。

「死体の前に連れて行かれるのかとぉおおおお」

「怖っ!!!」
「そんな事考えていたのか、京子」
「だって、相手は、裏、だし!!」
「そうかそうか!!
 怖かったな、うん!!」

「でも、生きてる。
 美和子と一緒だったっていう理由は分からないけど」

希望が、持てる。

「良かったな。京子」
「ありがとう、ツイナ、満樹」
「今日はパーティーだね」
「そうね、記念だもの」
「そうだ………えぇ?」

きゃっきゃ、と盛り上がる京子とツイナ。

「美味しいお店で、ご飯食べよう」
「ブタの丸焼きとかね」

「このタイミングで!?
 そして、この前の教訓を思い出せ、お前達!!」

ちょっと、席を外す、と
立ち上がる満樹。

休憩スペースに辿り着き、
1人考え込む。

「………うーん」

こうやって、3人で裏一族の事を探っているが、
京子の一番の目的は兄の耀を探すこと。

西一族で狩りに手慣れているとは言え、
あくまで、普通の年頃の少女だ。

満樹のように普段から戦いの訓練を積んでいるわけでも
ツイナのように特殊な力を持っている訳では無い。

裏一族を相手にすると言う事は
命の危険にも晒される。
見なくても良い残酷な事を
目にしてしまうかも知れない。

このまま、
一緒に連れ回しても良いのだろうか。

「あれ?君、確か」

声が聞こえて、そちらに顔を向ける。

「京子と一緒だった。
 確か、そう、……満樹」
「チドリ」
「そうそう、覚えてくれていて嬉しいよ」

よ、と
満樹の隣に腰掛けるチドリ。

「こんな所で奇遇だな?」
「そうだな、京子達なら
 中で飯を食べているぞ」

いやいや、と
チドリは頬杖をつく。

「今日は満樹に用事があってな」
「俺か?」
「そう、聞きたいことがあったんだ」

裏一族の接触だろうか。
身構える満樹にチドリは問いかける。

「満樹って、京子の恋人?」

「………」
「そうなのか!?」

「いや、……違うけど」

あれ?もしかして、俺達そう見えるのか?と
これって、戒院とかに見られたら
まずいのではで頭を抱える満樹。

「ふぅん、それなら良かった」
「良かった?」

「俺、京子の事。
 結構気に入ってるよ」

「………」

「なに?問題あるかな?」
「北一族は華やかな街だからな。
 言い方は悪いが、信用できない」
「俺もそう見える?
 結構誠実だと思うよ」
「京子はあれで繊細な所もあるんだ。
 遊びで手を出すような事はするな」
「満樹は恋人でもないのに。
 口を出す所か?」
「仲間だからだ」
「仲間、ねぇ」

顔が怖いよ、とチドリが指摘する。

「どちらかというと
 妹を守るお兄ちゃんって感じだな」




NEXT


「約束の夜」108

2018年10月19日 | 物語「約束の夜」

「京子の兄が?」
「今はないが、貼り紙と同じ顔だったから」

同一人物だろう、と店主が云う。

「お兄ちゃん・・・」
京子は店主を見る。
「お兄ちゃんは今どこに?」
「それは判らないよ」
「・・・ですよね」
「ああ、でも、」

店主は京子の姿をまじまじと見る。

「西一族、だったよな」
「え? ええ、まあ」
「そのときは、北一族の格好をしていたよ」
「北の?」
「ああ、それで違和感が」

ふむふむと、店主は納得するように頷く。

「京子の兄ちゃんが北の格好ねぇ」
ツイナも首を傾げる。
「でも何か事情があって失踪したのなら、他一族の格好をするのかな?」
「かもしれないな」

満樹は頷く。

「それで」

店主が口を開く。

「あんた、別にお姉さんがいるのかい?」
「え?」

京子は自信を指差す。

「私?」
「そうだよ」
「いえ。兄だけだけど」
「ふーん」

店主が云う。

「じゃあ、一緒にいたのは、本当に連れだな」
「連れ?」
「ほかに誰かいたんですね?」

満樹が訊く。

「京子のお兄さんと、」
「女の人ってこと?」
「わあ!」

ツイナが云う。

「想い人が、北一族に!」
「おお!?」
「好きな人は、西一族ではなかった・・・」

ツイナ、謎の語り。

「しかし、許されぬ恋。仕方なくふたりは駆け落ちを、」
「それ、この人ですか?」

満樹はさっと、紙を取り出す。
一応準備していた、今探している者の、顔の絵。

「そうそう、この人だ!」

店主は、その紙を見る。

「横にいたその人も、北の格好だったけどねぇ」

満樹と京子は顔を見合わせる。
頷く。

美和子だ。

京子の兄、耀と共に行動をしているのだ。

「でも、なぜ・・・」

首を傾げる京子を、満樹は見る。

耀も、裏一族、と云うことなのか。

・・・いや、まだその結論は早い。

3人は店主に礼を云い、歩き出す。


その

3人を、物陰から見る者。


「あの者たちだ」
「手の平に、アザ・・・」

「さあ」
「どうする?」

「まあ、決まっているよ」

誰かの呟き。

「まずは、あいつらを離れさせる」
「でも、それはあいつらも判っているだろう?」
「だが、その状況を作ればこちらのもの」

その口元が、にやりと笑う。

「判っているな?」
「判ってる」

「東は後回しだ」




NEXT



「約束の夜」107

2018年10月16日 | 物語「約束の夜」

「これは、最高の合言葉が決まったわね」

どこか高揚した顔で
京子が言う。

「自分で言うのもなんだけど
 ひねりに捻って
 良いところに着地出来たというか」

そうだろう、そうだろう、と満樹。

「俺、合言葉を使いたくて
 うずうずしているよ」

まぁまぁ、落ち着くんだ、と
2人から諭されるツイナ。

「あとは、裏一族を
 誘い出すだけ、と」
「よし、それじゃあ」
「はじめますか」

「すみません」

京子が人の集まりやすい店に立ち寄る。

「私の知り合いを探しているんです。
 美和子と言うのですが」
「ふむふむ」
「もしこの店に立ち寄る事があったら
 西一族の京子が探していたと言ってください」

そんな店主とのやりとりを
少し離れた場所で
満樹とツイナが見守る。

「俺達、隠れて無くて
 大丈夫かな?」
「あまり京子から離れると
 危ないだろ、それに」
「それに?」
「西一族と東一族の組み合わせは
 目立つんだ。
 珍しさから話しも早く伝わるだろう」
「………」
「どうした、ツイナ?」

「むすーーー!!」

「悪かった、
 西一族と東一族と海一族の組み合わせは
 もっと目立つな!!!!」

お待たせ、と
京子が2人の元に戻ってくる。

「こんな感じでどうかしら?」
「良いんじゃないのか」
「あと表通りの店をあちこち回り」
「暫く様子を見る、と」

それにしても、と
京子が呟く。

「うまく誘い出せるかしら?」
「他の手段も探りながら
 暫くはこの方法を取ろう」

数日は表だった店を回り、
それで裏一族の反応が無いようであれば
少し危険だが、
裏通りの怪しげな店にも。

「北一族のお店って
 一本裏通りに入ると
 がらっと雰囲気が変わるのよね」
「大丈夫。
 俺がまた加護の魔法をかけてあげる」

任せてよ!!とツイナ。

「ありがとう。
 ところでそれって
 具体的にはどうなるの」

「んーーとね。
 敵意を持った人が
 京子に触れると」
「触れると?」
「皮膚が焼けただれ」

「え!?結構危険!!」

もっと簡単な、
バチッと静電気が起こる的な物だと
思っていたら。

「なかなか高度だぞ、その魔術」

凄っ!!

「おーい、お嬢ちゃん」
「はい?」

店の主人が京子に駆け寄る。

まさか、
初日ですぐに情報が!?

「そう言えばあんた。
 他にも人捜ししていただろう」
「………」
「お嬢ちゃん?」
「あ、えぇ。そっちか。
 ―――そうです。兄を」

今は裏一族の事でいっぱいになっていたが、
事の始まりは兄の耀。

今と同じ様に、
あちこちの店に声をかけ、人捜しの張り紙も頼んでいた。

「その人が、
 先日ウチの店に立ち寄ってな」

「………え?」

「自分は大丈夫だ。
 そのうち戻るから
 この紙は剥がしてくれって言っていたんだが」

言われるとおりに剥がしたが
本当に戻ったかい?

店主がそう問いかける。

「お兄ちゃんが、ここに!?」



NEXT