TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」46

2014年01月31日 | 物語「水辺ノ夢」

足音。

彼は、小窓から、外を覗く。
西一族の村はずれの建物に、いったい誰が来るのだろう、と。

やがて、補佐役が現れる。

「久しぶりだな、広司」

補佐役は、持ってきた鍵を、見せる。
広司が云う。
「やっと、か」
「何を云う」
補佐役は、ため息をつく。
「あれだけのことをしておいて、短い謹慎だ」

広司は、牢から出ると、辺りを見る。
補佐役以外、誰もいない。

「身体が、なまった」
「そうだろ」
補佐役が云う。
「身体を戻せ」
「はいはい」
広司は、伸びをしながら、訊く。
「近いうちに、狩りにでも出るのか?」
補佐役は頷く。
「頼むぞ」
「身体ならしには、ちょうどいい」

補佐役が歩き出す。

広司は、わずかな荷物を持ち、補佐役に続く。

「あの、東一族の女は?」
ふと、広司が訊く。
「相変わらず、圭のところに?」

補佐役は、振り返らずに云う。
「圭のやつ、東の情報を引き出せやしない」
「・・・使えないやつ」

「そういうのは、お前のほうが適任だったな」

建物の外に出ると、補佐役が振り返る。
云う。

「今度の狩り、頼んだぞ」
「いつも通りやるよ」
補佐役が云う。

「残念だが、お守も頼む」

「・・・お守?」

広司が首を傾げる。

「子どもでも、連れていくのか?」

広司は、面倒くさい、と、顔をしかめる。

「まあ、当日わかるさ」

補佐役は、広司の肩をたたく。
背を向け、先に歩き出す。


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「水辺ノ夢」45

2014年01月28日 | 物語「水辺ノ夢」
早朝、圭は補佐役の元を訪れる。

「杏子から東一族の情報は、聞けませんでした」

「杏子……あぁ、あの東一族の事か」

突然やってきた圭を不審に思いながらも
補佐役は言う。

「ならもう少し粘ってみる事だな。
 昨日の今日だ、そんなに急げとは言わない」

「……俺には、できない」

「どういうことだ?」

「これ以上は、杏子が辛そう、で」

黙り込む圭に、補佐役はため息をつく。

「情でも湧いたのか?
 こちらは機会を与えているんだぞ」

補佐役は席に着き、向かい側の席に座るよう
目で促す。

「なるほど、自分の祖母より東一族の女の方が
 大切だということか?」

「それは、違うっ。
 ばあちゃんだって……」

うつむく圭に補佐役は告げる。

「では、祖母の手術代はどうするつもりだ」

「それは、別の方法で、どうにか」

「どうにもならないから、
 こうやって最後の手段を与えたつもりなんだがな!!」

「それでも」

ならば、と補佐役は言う。

「別の方法なんて、何をするつもりだ」

圭は顔を上げる。


「俺、――― 狩りに行きます」



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「水辺ノ夢」44

2014年01月24日 | 物語「水辺ノ夢」

云ってしまった。

圭は、自分の手のひらを、強く握りしめる。
杏子を見る。

それは
杏子からすれば、睨みつけるような表情だったかもしれない。

杏子は、圭から、目をそらす。
身体が、震えている。

焦っている、と、圭は自分で、わかっていた。
祖母の命、が、かかっているのだ。

杏子は、祖母のことを知らない、とも、わかっている。

でも

もう

云ってしまった。

杏子は、顔をそむけたまま、何も云わない。

圭は、突然立ち上がる。

これ以上、この場にはいられない。と。
家の外へと出る。

辺りは、すでに、暗闇だった。

西一族の、家の明かりだけが、光っている。
月夜でもない。

圭は、村を歩く。

水辺へとたどり着く。

坐りこみ、目をつむる。

考えることは、たくさんある。
ただ
今だけは、何も考えない。

考えないように。

自分を、落ち着かせる。


それでも

「光、か」

ふと、圭はつぶやく。

「うらやましいよ、・・・お前が」


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「水辺ノ夢」43

2014年01月21日 | 物語「水辺ノ夢」
「……光、が」

圭は息をのむ。
思っていた以上の情報に頭が付いていかない。

光が次の宗主。だった。

「じゃあ、杏子は次の宗主の許嫁?」

すごい、と呟く圭に、
杏子は首を振る。

「すごいのは、光。私は全然」

東一族は宗主の家系が代々村を治めている。
ならば跡取りの光がいない今、
それは大きな問題なのではないだろうか。

「次の宗主が居ない?」

「分からない……でも、光には弟が居たから」

「そう、なんだ」

弟が居るならば単純に考えれば彼が次の宗主だろう。
ならば、これは重要な情報にはならない。か。

「圭、もう、この話は……」

杏子はみるみる青ざめていく。
もう聞いてはいけないと圭は察する。
でも。

「話せるようになったら、また、話すね」

杏子は言うが
いつか、ではきっと圭の祖母は間に合わない。

悪いと思いながら、圭は考える。
どうにかして
その弟の事を聞き出した方が良いだろうか
いやもっと、なにか、違う情報を。

「今、話した方が、気が楽になるかも」

「ごめんなさい。本当に、今は。
 ……私」

これ以上は杏子を傷つける。
そう思う反面
圭は苛立ちも覚える。

「光がいたら、って思ってしまうの」

震える声で杏子が言う。

「ねぇ、これから私どうなるんだろう?
 いつか、東一族の村に帰れるの??」

一人、敵の一族の村にいる事。
ろくに外にも出れない事。

圭なりに責任を感じて
出来る事をしているつもりだ。
杏子の事。祖母の事。自分の事。
考えなくてはいけないことは
山積みなのに

なのに

小さく呟いた杏子の声が圭の耳に届く。

「助けて、光」

杏子は光の事ばかり。

思うよりも早く、
言葉が飛び出す。

「そんなこと言ったって
 光は助けに来てくれない!!」

杏子は目を見開く。

圭の声は自然と大きくなる。

「光はもう死んだんだ!!」


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「水辺ノ夢」42

2014年01月17日 | 物語「水辺ノ夢」

「太院(たいいん)様のこと?」

思いのほか、杏子は、東一族の宗主の名を、口にする。

一族の体制は違うが
東一族の宗主は、西一族で云う村長にあたる。

杏子は、縫物をしていた手を止める。

「昔、太院様が、ね」
杏子が話し出す。
「とっても、めずらしいお花の種をくださって」
「へえ」
「太院様の云うとおりに育てたら、とってもきれいな花が咲いたのよ」
「そうなんだ」
「その花の実は、染め物にも使えるの」
杏子が、云う。
「みんなで、花を増やして、布を染めたわ」
「うん」
「その話をしたら、太院様、とっても喜んでくださって」
「杏子」
「なあに?」
「太院様、は、誰でも会えるの?」
「え?」

杏子が云う。

「太院様は、とてもえらい方だから」

誰でも、会えるわけがない、と。

でも

「杏子は会えるの?」

杏子が頷く。

圭は、杏子を見る。

自分は、杏子の村どころか、杏子自身のことも、よく、知らない。
杏子は、東一族では高い身分になるのだろうか。
ならば
補佐役が求める情報が、たくさん、出てくる。

杏子は、

こんなにも楽しそうに

自分の村の話をしているのに・・・。

杏子が云う。
「でも、ここ最近、太院様の体調がよくなくて」
「そうなんだ・・・」

「まだ、お若いけれど、宗主の交代をするかどうか、て、話に」

突然、杏子の顔が暗くなる。

圭は、杏子を見る。
その表情にためらう。



「次の宗主、て、やっぱり、子どもにあたる人なの?」

杏子が頷く。

けれども、杏子の言葉は、出てこない。

圭は、思い切って訊く。
ここは、なんとしても、杏子に話してもらわなければ。

「次の宗主は、まだ、若すぎるとか?」

杏子は首を振る。

「わからない」
「え?」
「私、そこで村を出てきてしまったから、どうなったのか、わからない・・・」

「杏子・・・」

杏子が圭を見る。
云う。

「次の宗主は、光、だったの」


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