TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」225

2020年06月30日 | 物語「約束の夜」
無駄、だと言うのは
どこか胸の奥で感じている。

逃げられる訳がない。

どうせ、父親の号令一つで
この身は動きを止めてしまうこと。

それ、でも。

もしかしたら、と。

走り出す。
思い思いの方向へと。

散れ、と言った
ノギの言葉に従うように。

ツイナに引きずられるように
京子も立ち上がる。

ほんの一瞬のこと、

辺りを見回す。

先に動き出した
ノギとオトミ。

京子はツイナと同じ方向へ。

マサシはそれを確認して
ヨシノと一緒に逆方向へ。

満樹も続く。

ふと、振り返る。

耀とチドリが並び立っている。

生け贄はお前だ、と
そう告げた耀の方を
上手く見ることは出来ない。

「………」

生け贄から外されている耀。

でも、

チドリは。

「京子!?」

何やってるの、と
ツイナの声が聞こえる。

「チドリっ!!」

京子は戻り、チドリの腕を掴む。

「時間稼ぎか?」

チドリは薄く笑う。

「無駄だよ。
 俺の魔法に敵うわけ」
「チドリ、
 あなたも一緒に」

「はあ?」

京子は
腕に力を込める。

「一緒に逃げよう」

生け贄になる。
命を捧げる。

そう言われて、
皆、冗談じゃない、と答えた。
やりたいことがある、と。

それが、普通だ。

なのにチドリは
死ぬことを受け入れてる。
道具として、当たり前だと。

「死にたくないって、
 願ってもいいのよ」

「なにを?」

「生きてよ、チドリ」

ば、とチドリは
京子の腕を払う。

「………チドリ」

「俺に、生きろ、だと。
 ふざけるのも、たいがいに」

はぁ、とため息をつき、
様子を見ていた耀が
父親の方に振り返る。

「翼、茶番もいい加減にしろ」

うんうん、と
少し間を置き、父親は頷く。

「茶番、か
 いや、なかなか
 俺も感じる物があったよ」

だが、と静かに言葉を発する。

「どこに行くんだ。
 “戻って来い”お前達」

再び、手のひらのアザに熱が走り
父親の言葉が力になる。

「く、っそ」

ノギとオトミも、ツイナも、
マサシも、ヨシノも、満樹も。

抗おうにも
体が、父親の言葉に従う。

「ムダなのかよ」

悔しい、と
誰かがこぼす。

「チドリ」

京子は再び、チドリを見る。
チドリは京子の方を見ない。

「始めよう、さっさと」

チドリが呟き、杖を立てる。




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「約束の夜」224

2020年06月26日 | 物語「約束の夜」
「ああ、そうだ。京子」

耀が云う。

「生け贄に必要な数は、8」

「でも、私たちは」

京子は息をのむ。

西、の血を引く者が、ふたり。

つまり

「お兄ちゃん・・・」
「生け贄は、お前だ」

「あなたねぇ!」

マサシが声を上げる。

「あなたと京子ちゃんは、私たち以上の兄妹でしょう!?」

京子の顔は真っ青だ。

「それを、そう簡単に!!」
「決められていたことじゃないか」

耀は、冷笑する。

「何度聞くのか? 俺たちは用意された子だと」
「何を認めているの!」

マサシの言葉をものともせず、耀は続ける。

「ばからしいじゃないか」

この場所で

「逃げることも抵抗することも、何ひとつ出来ない」

「そんな・・・」
「考えるだけ無駄だ」
「死ぬの?」

ぽつりと、京子が云う。

「私は今まで何のために」

生きてきたのか。

生け贄となるために?

この父親の、何か願いを叶えるためだけに。

「あまり、時間を使うな」

耀とチドリの後ろから、声がする。

「説明がないのも可哀相だが、説明を続けても何になる」

どうせ

「その命、捧げるのだから」

父親が云う。

「さあ、はじめようか」

その言葉と同時に
無機質な部屋に、魔方陣が現れる。

「これは!?」

チドリは目を閉じる。

皆の身体に光が集まる。

と、

「おい!!」

ノギとオトミが走り出す。

「!!?」

「散れ!」

「!!」

「ばかなことを!!」

逃げろ、と

この瞬間に。

「京子!」

「ツイナ!!」

皆、動こうとする。

ほんの一瞬。

時の流れが、ゆっくりと。

「逃げられるわけがない!!」

耀とチドリの声。

その様子を
おかしそうに、父親は見る。




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「約束の夜」223

2020年06月23日 | 物語「約束の夜」

「………聞いた事がある」

ツイナが呟く。

「司祭様が言っていた。
 使ってはいけない、禁じられた術がある、と」

でも、そんな事が、と
頭を振る。

「曰わく」

父親が続けるように言う。

「瀕死の怪我や病を治すことが出来る」
「魔法を使えない者が
 強力な力を持つことが出来る」

す、と
自分の胸に手をあてる。

「衰えた体を、若返らせる事が出来る」

「若返り?」
「それが目的なの?」

なんなら、と父親は言う。

「この術は、死んだ者すら
 生き返らせることが出来るそうだ」

「………そんな夢みたいな話」

「ああ、夢の様だろう。
 誰もが一度は願うことだ」

歳を重ね衰える体に向き合う毎に、
無力を思い知る毎に、
色々な物を失う毎に。

「なんで?」

京子が問う。

「なんで私達なの?」

「簡単だ」

父親は皆を見回す。

「この魔法は、
 血の繋がりが濃いほど力も強くなる」

親、兄弟、そして子供。

「反対に、
 赤の他人であれば、
 村一つ消える人数が必要だ」

人の血を、命を使い、
成し遂げられるもの。

「そんな事、許されるわけがない」

「ああ、俺もそう思うよ」

父親が頷く。

「他人を犠牲にして
 好き勝手が出来るなんて
 筋が通るわけ無いよな」

「………分かっているじゃない」

父親は、道理を理解している?
では、なぜ?

「だったらこんな事」

「自分の事は自分でしないといけない。
 子供が8人必要であれば
 揃えるしかない」

そうすれば、文句は無いだろう、と。

つまり、京子達は
この儀式のためだけの子供達。

だからチドリは言っていたのだ

俺達は役目の為だけに準備された子供、と
今まで何も知らずに
幸せだったなお前達、と。

「八つの一族全てを揃えるのは苦労した。
 よく無事に育ってくれたな。
 どこかで勝手に死んでくれなくて何よりだ」

そう、笑顔で言う。

「………嘘よ、そんな、私達」

そんなの、人でもなんでもない。
ただの道具。

「待って」

マサシが言う。

「今、子供は8人と言ったわね。
 それはどういう事?」

ここに揃った、子供達は9名。
数が合わない。

「単純な話だ」

チドリが父親の代わりに答える。

「若返っても、また人は歳をとる。
 血は、常に必要だ」

また、次の術を使うために。

「それに、後継者も、必要だろう」

八つの一族。
必要なのは8人の子供達。

各一族一人と言う事であれば
余るのは一人。

京子は耀の方に振り返る。

「………お兄ちゃん?」





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「約束の夜」222

2020年06月19日 | 物語「約束の夜」
「久しぶりの再会、いや」

翼は首を振る。

「はじめてのやつが多いんだから、再会の喜びとは違うな」

皆、ただ、翼を見る。

この、従わなければならないと云う、恐怖にも似た感覚。

「まあ、とにかく、喜びとか、もういいだろう」

翼はチドリを見る。

「次は何だ?」
「先に進んでもいいのなら」

チドリは杖を持ち直す。

何が、はじまる?

恐怖。
問うことさえ、出来ない。

「何がはじまる、と云うところか」

チドリが話し出す。

「何がはじまり、何のために命を差し出せと云われているのか」

皆、息をのむ。

「そうよ・・・」

京子はチドリを見る。

「何か、・・・何かがあるのよね、私たちに」

はぁ、と、チドリは耀を見る。
耀は頷く。

「俺たちは裏一族だ」

表ではない世界で、生きる者。
人々の秩序、法の中では生きていない者。

「ほしいものを得るために」
「より強くあるために」

「どうすればいいと思う?」

「どう、」
「すれば・・・?」

「そんなの簡単だ」

満樹が云う。

「学び、魔法や体術の鍛練をすればいい」

「そうだ」

耀は頷く。

「西一族もそうやって狩りの腕を上げる。・・・地道にな」

「なら、」

「だが、そのやり方は、簡単ではない」

ほしいものを得るために。
強くあるために。

手っ取り早く、やること。

「血だよ」

その声に、皆、後方を見る。

父親が声を発している。

「手っ取り早く、簡単に。ちょっとした闇の魔法」

「血・・・」
「つまり、命、と云うこと?・・・」

ヨシノの目が見開く。
ほかの、皆も。

人の血を使い
強い力を手に入れる。

禁じられた魔法。

「そうすることで、あり得ないことをなそうとしているのね」

マサシが呟く。

「私たちを使って」




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「約束の夜」221

2020年06月16日 | 物語「約束の夜」

扉が開かれる。
無機質な広い部屋。

そこにいるのはただ1人。

「やあ、」

そうやって笑顔で皆を出迎える。

「待っていたぞ」

「「「………っ」」」

京子達は思わず動きを止める。

先程魔法で見た映像と同じ、
でも、少し歳を重ね、
年相応の顔付きになった、男。

「はじめましての奴が多いな。
 俺は、翼。一応西一族だ。
 今はこの裏一族をとりまとめる者の1人だ」

「あなたが、私の父親?」

「ええっと、西一族の、そう、確か」
「京子だ」

耀が付け足すように言う。

「そうそう、京子。
 良く来たな」

確かに、京子やマサシに顔立ちが似ている。
けれど、同じ顔であっても
雰囲気が違う。

父親に会う時は
もっと違う感情が生まれるのだと思っていた。

例えば、会えて嬉しい、とか
なぜ、家族を捨てたのかという恨み、とか。

「………」

昔の出来事を見せられた時は
酷い人だけれども、
それでも何か感じる物があった。

今感じるのは
全く違う感情。

怖い。

この人は、
出会ってはいけない人。

この区域に足を踏み入れたときから
姿を現さない沢山の使い手達に
見張られていた。

その、彼らを従える人。

「立ち話もなんだ、
 まあ、座れ」

そう、皆に告げる。

「俺達をどうするつもりだ?」

言葉を遮るように
満樹が問いかける。

「待て待て、お前は、東一族……なんだったっけ?」

悪いな、と彼は言う。

「どうにも名前までは
 はっきり覚えていなくてな」

「名を呼んで貰うつもりはない」

「そう拗ねるな。
 俺の大切な子供達」

大切な。

そう言えば、
耀も京子に同じ事を言う。
自分の妹だ、心配している、血の繋がった兄弟。

今までそう受け止めて来たけれど。

「………」

不安を覚え京子は耀の方を見る。
けれど、耀と目線は合わない。

そんな京子の事など誰も気がつくわけではなく
彼らの話は進んでいく。

「特に、チドリとカナメは
 心配していたんだ」

うんうん、と彼は言う。

「カナメ……?」

誰、という反応に、
おや、と彼は言う。

「お前だよ、ほら、海一族の。
 おかしいなその名を付けと言っていたんだが」

俺か、とツイナが唸る。

「……マジでもう一つ名前あったんだ。
 俺ってもはや、対名でなく三つ名なのでは」

「俺の血を引いていて、魔法が使えるのは珍しい。
 横取りされないかとヒヤヒヤしたよ」

「……横取りってなんだよ」
「だいたい、血が必要ってどういう事?」
「自ら望んで死ぬってのも」

ヨシノやマサシが続けざまに言う。
うーん、と翼は言う。

「だから、お前達」

ただ、静かに。

「まずは座れ、と言っているだろう」

「「「!!?」」」

その言葉と共に手のひらのアザに痛みのような物が走り、
皆、その場に蹲る。

「え?」
「なに、が」
「今のは?」

先程のチドリの魔法は
無理矢理体を動かされているという感じだった。
でも今度は違う。

従わなければ、と感じ
自然と体が動いた。

それは、
耀とチドリも同じ。

つまり
アザを持つ子供達には
同じ様に働く力。

これは、魔法だろうか。
それともまた別の力。

「なあ」

耀が言う。

それは京子達に向けて。

「お前達、これでもまだ
 どうにか逃げ出せると思っているのか?」




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