TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

水辺童話:「末姫と大蛇」3

2017年06月30日 | 物語

「困った」

 王様は頭を抱えました。

「このままでは、この国の者たちが食べられてしまう」

 王様の前には、兄たちが並びます。

「お前たち。特技を生かして何か出来ないかね」

 兄たちは顔を見合わせました。
 今は知恵を出し合って、国を助けなければなりません。

 それぞれ得意なことで、意見を出し合いました。

「俺が、大蛇と話しに行きます」
 ひとりの兄が云いました。
「なんとか、この国を解放してくれるよう、頼みます」
「それは危険だ!」

 王様は止めました。

「食べられてしまうに決まっている!」

「なら」

 別の兄が手を上げました。

「俺が、大蛇に効く毒薬を作ります」
「そうか」
「それを、大蛇に食べさせましょう」

 その兄は早速、毒薬を作りはじめました。

 ほかの兄たちは、それぞれに大蛇を見張りました。
 まだ、動く気配はありません。

 この日が落ち
 夜が来て

 また、日が昇ったら

 ……みんな、食べられてしまうのでしょうか。

 日が沈む前に、毒薬が出来ました。

 その毒薬を、大きな餌に忍ばせました。

「さあ、これを」
「大蛇に」
「…………」
「…………」

「いったい、誰がこれを持って行くのだ?」

 ぐるりと国を囲んでいる大蛇。

 の、頭に近付いて、この餌を食べさせなければなりません。

「王様、夜はどうでしょう」
「夜なら、大蛇も寝ているはず」
「きっと、近くまで餌を運べます」

「それはいい考えだ」

 兄たちはみんなで、餌を運ぶことに、

「いいえ。お兄様方」

 王様と兄たちは、声のする方を見ました。
 いつの間にか、末姫がそこにいます。

「その役目は私に」

「何を云う、末姫!」
「駄目だ、末姫!」

 みんな、口々に反対します。

 けれども、末姫は首を振ります。

「お兄様方こそ、何かあったらどうするのです」
 末姫が云います。
「私には何も得意なことはありませんが、お兄様方には国を守る力があります」

 王様は立ち上がり、末姫を止めようとします。

「私は行きます」

 末姫は、餌を持ちました。

「それに、夜なら大丈夫と云ったじゃないですか」

 日は落ちています。
 辺りは真っ暗です。

 ただ、ひとつ

 月が輝いています。

「末姫……」
「末姫……」

 末姫は振り返り、微笑みました。

「王様、お兄様方、どうぞ待っていてくださいね」


 暗闇の中。


 月明かりを頼りに、末姫は進みます。

 国中が静かです。

 みんな息を殺しています。
 もう、誰も、いないかのように。

 末姫は急ぎます。
 急がなければ、夜が明けてしまうのです。

 やっとのことで、末姫は、国の外れにたどり着きました。

 大蛇の顔まで、もう少し。

 この餌を近くに置いて、
 そうしたら、走ってお城へ帰って
 また
 兄たちと、仕合わせな日々に戻るのです。

 そのはずです。

 みんなみんな、いつも通りになるはずなのです。

 大蛇の顔の近くは、草木が茂っていました。
 末姫は何とか、近付きます。

 餌を置きます。

 音を立てないように、

「……あれ?」

 末姫は足下を見ました。
 足に、茂った草が絡まっています。

 動けません。

 末姫は慌てて、足に絡まる草を取ろうとします。

 取れません。

 もう一度。

 びくりとも、足は動きません。

 何かの音。

 末姫は振り返り、大蛇を見ました。
 その目はしっかりと、開いています。

 末姫と大蛇の目が合いました。

 日が昇ります。

「まずは、お前から」

 そして



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水辺童話:みずうみのばけもののはなし3

2017年06月27日 | 物語

女の子は問いかけます。

「あなたは何ができるの?」

海の近くに暮らす一族は答えます。

「俺達は、武器を使うのは得意じゃない。
 でも、舟を漕がせたら水辺一だ!!」

谷にある洞窟で暮らす一族は答えます。

「ギャズンを倒すのに役に立つ物は作れないけれど、
 この目はどんなに遠くでも見通すことが出来るよ」

砂漠の近くに住む一族は答えます。

「あまりケンカは上手じゃないの。
 でも、薬を作るのはまかせてちょうだい。
 ギャズンの動きを止めてみせましょう」

湖の西に暮らす一族は答えます。

「俺達は、魔法が使えないけれど
 普段は狩りを行っているんだ。
 ギャズンの体力を削って見せよう」

山に住む血一族は答えます。

「僕らは人は少ないけれど
 ひとりひとりの腕には自信があるよ。
 鳥を使って獲物の位置を探すのも得意さ」

湖の東に住む一族は答えます。

「私たちは、封印の魔法が使えます。
 それで、ギャズンを封じ込めてしまいましょう。
 でも、敵の動きが完全に止まらないとこの魔法は使えません」

それならば、と湖の北に住む一族が続きます。

「威力はないけれど
 精密な魔法を使う私たちにお任せください。
 少しの時間であれば、敵の動きを止められるでしょう」

さて、と
女の子はひとり残った一族の者に問いかけます。

「あなたは何ができるの?」

湖の南に住む一族の者です。
一番最初にギャズンに戦いを挑んだ若者でした。

「俺は何もできないかもしれない」

それでも、と彼は言います。

「見ているだけは我慢ならない。
 どうか、戦いに参加させて欲しい」

彼の言葉に女の子は頷きます。

「だれもが諦めていた時
 あなただけが動いたのよ」

だから、と女の子は彼の手を引きます。

「一緒に行きましょう」


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水辺童話:「末姫と大蛇」2

2017年06月23日 | 物語

 ある日、末姫はしくしくと泣きました。
 そこに、ひとりの兄がやってきました。

「末姫、いったいどうしたんだい?」
「お兄様」

 末姫は、抱いていた小鳥を見せました。

「小鳥さん、元気がないの」
「何か病気かな?」
「どうしたらいいのか、判らなくて」
「大丈夫大丈夫」

 兄は、末姫の肩を叩きます。

「薬を作るのが得意な兄がいるだろう」
「うん」
「そいつに薬を作ってもらえば、すぐに治るさ!」

 けれども、末姫の涙は止まりません。

「泣くんじゃない」
 兄が云います。
「泣いていたら、小鳥だって、ますます辛い」

 末姫とその兄は、
 薬を作るのが得意な兄の元へ、小鳥を届けました。

 あとは、任せるしかありません。

「お兄様、小鳥さん大丈夫かなぁ」
「大丈夫大丈夫!」

 泣いていても仕方ない、と、兄は踊って見せました。
 その踊りがあまりにもおかしくて、
 末姫は、けらけらと笑いました。

 その兄は、薬を作る兄に怒られましたが
 末姫は、たくさん笑えて仕合わせでした。

 やがて、

 元気になった小鳥を連れて、
 末姫は、ひとりの兄と山へと登りました。

 その兄は、山を登るのが得意だったので、末姫は何の心配もありません。

 山からは、自分たちの住むお城が見えます。

「お兄様、素敵な景色ね!」
「そうだね」

 末姫は、小鳥をそっと放しました。

 小鳥は戸惑っていましたが
 しばらくして、末姫の手から飛び立ちました。

「元気になってよかったね!」
「小鳥も喜んでいるぞ」

 小鳥は近くの木枝に止まり、末姫と兄を見つめます。

「またねー」

 末姫は手を振ります。
 小鳥は空へと飛んでいきました。
 その姿を見て、末姫は仕合わせな気持ちになりました。

「お兄様」

 お城から外を見ていた末姫は、指を差しました。

「鳥たちが飛んでいるわ」

 末姫と兄は、餌を鳥たちに与えました。
 鳥たちはおいしそうに、餌をついばみます。

「おや」

 兄の肩に、一羽の鳥がとまります。

「ひょっとして」
「末姫が、この前助けてあげた鳥だよ」
「わあ! 遊びに来てくれたのね!」

 末姫は兄に近付いて、鳥を見つめました。

「末姫にありがとうと云っているよ」

 この兄は、動物と話すことが出来ます。

「どういたしまして」
 末姫は云いました。
「元気になってよかったわ」
「また、遊びに来るって云ってるぞ」
「それは、うれしい」
 末姫は微笑みます。
「いつでも遊びに来てね」

 末姫と兄は、鳥たちを見送りました。
 末姫は、今日も仕合わせでした。

 また、別の日。

 末姫はひとりの兄と出かける準備をしました。
 海に行って泳ぐのです。

「さあ、行くぞ」

 末姫と兄は、城を出ます。

 国で暮らす人々と挨拶を交わして
 そのまま、海へと向かうはずでした。

 が

「何か音がするぞ」

 誰かが云いました。

 何の音でしょうか。

 地を這う音。
 だんだんと近付いてきます。

「蛇だ!」

 誰かが叫びます。

「蛇だ!」
「大きな蛇がこの国に向かってきているぞ!」

 地を這う音が大きくなり
 そこに、巨大な蛇が姿を現しました。

 みんな怖ろしくて、声を上げました。
 逃げようとしました。

 けれども

 蛇が大きな身体をうねらせ、ぐるりと国を囲みました。
 逃げることが出来なくなったのです。

「よしよしお前たち、明日にはみんな食べてやる」



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水辺童話:みずうみのばけもののはなし2

2017年06月20日 | 物語

ヘドロの化け物は
ギャズンと呼ばれる様になりました。
そういう鳴き声を上げながら現れるからです。

ギャズンが湖に居るので
人々の生活は不便になりました。

湖を渡れば
向かいの村にすぐ行けたのですが
なにせ化け物が居るので
ずうっと遠回りしなくてはたどり着けません。

ある一族の薬は病の特効薬です。
ある一族が狩りで仕留める肉は
貴重なタンパク源です。
また、ある一族の飾りは
恋人からの贈り物として女性なら誰もが欲しがる物です。

仲が良くても悪くても
誰もが、どこかで、他の一族のなにか、に
支えられて生活をしていました。

「俺がギャズンを倒して見せよう」

ある一族の腕に覚えのある若者が
奮い立って言いました。

「いつまでも
 じっとしているわけにはいかない」

一人、舟を漕ぎ、ギャズンに戦いを挑みました。

「やあやあ、化け物め
 皆を困らせてどういうつもりだ」

若者は矢を放ちます。
矢は次々と命中しますが
ギャズンには効きません。

それに、そこは湖の上
ギャズンが暴れる度に大きな波が立ち
舟に捕まっているのがやっとです。

若者はあっという間に返り討ちに遭い
命からがら戻ってきました。

やっぱりダメか。

皆がそう思っている時
どこからともなく声がしました。

「かんたんなことよ」

言ったのはヘビを連れた
小さな女の子です。

「一人でダメなら。
 みんなで倒せばよいのよ」


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水辺童話:「末姫と大蛇」1

2017年06月16日 | 物語

「水辺童話」真都葉の本棚(絵本)シリーズ





 昔々

 ここに、ひとつの国がありました。

 この国には王様がいて
 王様には、たくさんの子どもたちがいました。

 その末の子だけが、姫だったのです。

 もちろん、末姫は可愛がられて育ちました。

 兄たちは、ひとつずつ得意なことがありましたが
 末姫は、特に得意なことはありません。

 けれども、何も問題はないのです。

 この国は、仕合わせでしたから。

 末姫は、ひとりの兄と出かけました。
 途中、とてもお腹がすきました。

「ねえ、お兄様。お腹がすいたわ」
「何だ末姫。お腹がすいたのかい」
「そう」
 末姫が云います。
「何か、果物が食べたいわ」

 兄は、目をこらします。

 この兄はとても目がよかったので、
 すぐに、果物の樹を見つけました。

「あそこに、果物がなっているぞ」
「やったぁ」

 末姫と兄は、果物をたんまり食べました。
「おいしいわね、お兄様」
 とてもお腹がいっぱいになって
 末姫は今日もひとつ、仕合わせだったと思いました。

 末姫は、別の兄のところへ行きました。

 その兄は、何かを作っています。

「お兄様。何を作っているの?」
「やあ末姫」

 兄は、作っていたものを見せます。

 それはきらきらと輝いています。

「わあ、素敵」
「鉱石だよ」
 兄が云いました。
「こうやって削って、好きな形にしていくんだ」
「素敵ね、お兄様!」
「うんうん。末姫には判るんだね!」

 出来上がったものを、末姫はもらいました。

「ありがとうお兄様! 大切にするわ」

 末姫は、自分の飾りにしました。
 そして、今日もひとつ、仕合わせだったと思いました。

 末姫は、また別の兄のところへ向かいます。

「お兄様、今日は星が見えないわね」
「そうだね」

 夜空には雲がかかっています。

「とっても残念だわ」
「末姫は、星空を見たかった?」
「もちろんよ、お兄様」
「なら」

 魔法が得意な兄は、杖を取り出しました。

 そうして一振りすると。

「わあ!」

 みるみる雲がなくなり
 そこには、満天の星空が輝きます。

「すごいわ、お兄様!」
「うん。今夜はきれいだ」

 末姫と兄は、遅くまで星空を見続けました。
 今日も、末姫は仕合わせだったのです。



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