彼は、杏子を見る。
「うーん。・・・黒髪?」
そう呟くと、彼は首を傾げる。
「南一族? いや、東一族、か」
杏子は、あっけにとられ、ただ、彼を見る。
その様子を見て、彼は杏子をのぞき込む。
「あのさ」
彼が云う。
「ここに、圭って人が住んでいたと思うんだけど、・・・どこかに引っ越した?」
杏子は首を振る。
「あの、」
「何?」
「圭の、・・・お知り合いの方ですが?」
「知り合いだって?」
ああ、と、彼は頷く。
「知り合い、・・・まあ、そうとも云うかな?」
彼は、再度、家の中を見回す。
「それより、君は誰なのさ」
「私は、・・・」
杏子は、彼から目をそらす。
どう云おうか、迷う。
この彼、は、西一族の容姿だが、
西一族の誰もが知っている杏子の件を、知らないようだ。
杏子は、お腹を触る。
思い切って、云う。
「私は杏子。圭の妻です」
「えっ?」
当然、思わぬ答えだったようだ。
「え? 何? 西一族と東一族って交流をはじめたんだっけ?」
彼は口元に手を当て、考えている。
「あなた、西一族ではないのですか」
杏子が云う。
「西一族には、私のことが知れ渡っていると思いましたが・・・」
「いや、俺は西一族だけど」
彼が云う。
「昨日まで、南一族の村で暮らしていたから」
「・・・南一族の村で?」
「そう」
彼が頷く。
「とにかく、圭はまだ、ここに住んでいるってことだな」
そう云うと、彼は家の中に入ってくる。
杏子は焦る。
「詳しくは、圭から聞くことにするよ」
「あの、」
杏子が見ると、彼は、椅子に腰かけている。
「あなたは、いったい誰なんですか?」
「ああ、そっか」
彼は、笑う。
「俺も、まだ誰か云ってなかったね」
彼は、坐ったまま、云う。
「俺は、圭の兄だよ」
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